第74話 決着
第2章 曙光と絆の先へ
第2幕 萍水相逢
第74話 決着
Side キリベルカ
ピィーーーッ!
「……また来た。」
手を止め、執務室の窓から空を見上げる。
空に紅蓮の尾を引く大魔獣。それが、アムヌーを横切っていた。
「ガルーダ……」
だが次の瞬間、私の表情が凍り付く。
爆破によって加速したガルーダが、別の魔力と正面から衝突したのだ。
「え?」
アムヌーの街に、魔力の波紋が広がる。
それは明確に、”拮抗する二つの力”がぶつかり合った証拠だっだ。
「誰が……?」
この周辺でガルーダと渡り合える存在など限られている。
ネブラ山脈のグリフォンやワイバーン。もしくは、そこに住まうと噂されているドラゴン。
もしくは、Aランク以上の冒険者。
だがそのどれもが該当しない。少なくとも、この街にはいないはずだった。
しかし、現に空では戦いが激化していく。
九つの水の巨蛇が空を泳ぎ、ガルーダを追い詰める。
あれほどの規模の魔法を維持しながら、あんなに複雑な制御までするなんて、並みの人間ができることじゃない。それこそあのバカや氷星の魔女のような規格外にしか……
「まさか……!」
脳裏に一人の少女の姿がよぎる。
異質な魔力量と、常識外れな二人の師。それによって得た歳に見合わぬ力。
今、最もこの状況にかみ合う人間。
「……」
確かめなければ。
そう思った時には、すでに体が動いていた。
椅子が倒れ、書類が舞う。
次の瞬間―――執務室の扉は蹴り破られた。
Side END
***
「私の家族に―――ッ!」
怒声と共に、再び加速。
同じく爆炎で空を裂くガルーダの横っ腹に、狙いを定める。
「手を、出すなああぁぁぁッ!!!!」
全身全霊の蹴りが炸裂し、ガルーダの体が歪む。
そのまま―――轟音と共に、アムヌーの城壁へと叩きつけた。
コンクリートのような石材がひび割れ、瓦礫と粉塵が巻き上がる。
「ピィッ」
「よくも……!!」
砂埃舞う中、ミオはガルーダを睨み付けた。
「よくも私の相棒を、狩ろうとしたなッ!!」
「ピューーーァッ!!!」
衝突から立て直したガルーダが、お返しだとばかりに爆発を見舞う。
ドオオォンッ!!
至近距離の爆炎。
ミオは即座に反応して障壁を展開するが衝撃で吹き飛ばされ、その隙にガルーダは再び空に逃れた。
「……ふんっ。」
吐き捨てるように笑う。
「逃げるんだ?」
視線を向ける。
「Bランクオーバーの大魔獣が、随分と慎重だね?」
挑発。
明確な侮蔑を含んだ言葉。それは……言語の壁を、越えた。
ガルーダは太陽を背に、両翼を大きく広げた。
その体に纏う炎が湧き出す魔力で膨張し、密度を増す。
「ピュイイィィィッッ!!!!」
魔力の乗った怒号がビリビリと大気を震わせると同時に、膨れ上がった炎から無数の蛇が現れた。
燃え盛る炎の蛇がミオへ殺到する。
「来い。」
それは、ガルーダの魔法への言葉か。はたまた自分の魔力への言葉か。
ミオは、一歩も引かない。
「”九蛇九頭の激流”!!」
掲げた杖から爆発的に生成された水が、九つの龍となる。
炎と水。二つの大魔法が衝突し、轟音が響き渡った。
蒸発された水は凄まじい蒸気となって空を覆いつくす。視界が完全に閉ざされた中で、ミオはある確信を得ていた。
あの速度と機動。捉えるのは不可能に近い。
だが今は、蒸気による視界不良と、怒りの衝動に任せて大技を撃った直後の今だけは―――
「ようやく、止まったな。」
得物を刀に持ち替え、構えた瞬間。
全身から魔力が噴き出し、その手に握る刃へと収束していく。
「月影流・奥義―――」
蒸気のベールを隔ててなお輝く光。練り上げられ、規格外に圧縮された魔力だけが放つ特別な光。
剣に宿った魔力が今、解き放たれる。
「―――”世を穿つ光剣”!!!」
閃光。それに続くのは魔力の奔流。
魔法名にあるように、まさしく世界を分かつ光となって空に走る一条の光。直線上の全てを消し飛ばす必殺の一撃。
これが、ミオの持つ最大火力の魔法。
その圧倒的な威力に、戦いを見届ける全ての人が彼女の勝利を確信した。
……だが、それは幻想に終わる。
「ピィーーーッ!」
魔法の前兆を読んだガルーダは、完璧に回避していた。
その体には小さなかすり傷一つない。完全な見切りだった。
身体の炎を全身に広げ大技直後のミオに自爆特攻を狙うガルーダは、その内に様々な感情が湧き上がるのを感じた。
怒り。驚き。恐怖。感心。そして何より、勝利を確信した安堵と興奮。
彼にとってミオは、かつてないほどの強敵だった。ただそれですら自分には届かなかったという事実は、恐れ多きドラゴンでさえ己の糧にしようという傲慢な彼の心を酔わせるには十分だった。
だからこそ、遅れる。
ミオの武器には、もう一度魔力の光が宿っていた。
「分かってたさ。お前なら避けるってことぐらい。」
間髪入れず、もう一度。
「” 世を穿つ光剣”ッ!!!!」
反撃のため加速した直後。魔力を再度練り上げるまでに出来る、一瞬の隙。
逃げ道は―――無い。
世界を、再び閃光が貫いた。
あとがき
それにしてもガルーダ戦は大変でしたね。主人公はもちろんですが、大魔獣(Bランク以上)としてのガルーダの格も見せたいという思いもあり、中々描写に苦労しました。
最終的には大満足の出来となったのですが、読者の皆さん的にはどうでしょうか?
最近は対人戦が多くてスカッとする戦闘シーンはあまり描けませんでしたが、これからは対魔物も増えて……増えて……あれ、なんかプロット的に増えないかも……
まぁともかくとして、今後も書きたいことはまだまだたくさんありますので、生暖かい目で見守っていただければと思います!
《蛇足》
主人公は最後にリュドミラさんから受け継いだ魔法を2連発しましたよね?
そのリソース+αの話は次回するのですが、クールタイムが短い理由について解説しようと思います。
魔法は術者のイメージで形作るものです。
例えば前回浸かっていた”九蛇九頭の激流”という魔法があります。これは、九頭龍を象った水が対象を追跡・攻撃する魔法です。
発動までの流れとしては、魔力を練り、水を生み出し、九頭龍に変形させ、敵を追跡させ攻撃する。という4つの工程を挟みます。
しかも3つ目の「九頭龍に変形させる」のと、最後の「追跡」がイメージ上のコストが高く、発動にある程度の時間を要するわけです。
対して”世を穿つ光剣”は、魔力を練り、光属性に転換し、圧縮、狙いを付けて開放する。工程数は前者と同じ4ですが、イメージ上のコストが段違いに少ない。
何せギュッとしてドカーン。それだけですから。




