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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第2章 曙光と絆の先へ
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第72話 気付き、気付かれ

第2章 曙光と絆の先へ

第2幕 萍水相逢

第72話 気付き、気付かれ

「大丈夫ですか!?」


 襲撃者全員の討伐を確認した私は、生存者の確認に走る。


 矢の筵のようになった者。斬られ、刺され、血だまりに沈む者。

 無残な姿となった冒険者たちに、すでに息はない。まだ温もりのある体だけが、そこに遺されていた。


 では、馬車の商人たちはどうか。

 御者台から引きずり降ろされていた若い男は、車輪の前で蹲り震えている。大きなケガはなさそうだ。

 だが御者台で項垂れている壮年の男は、胸を矢で貫かれていた。

 すでに脈はない。


「う、うぅ……」


 荷台から聞こえた声に、私は幌をめくった。

 中には、右肩に矢が突き刺さっている女性が一人、痛みに呻いていた。

 傷の具合を確認し、すぐに虚界門(ディオヴェタゥ)から清潔な布を取り出す。


「これを噛んでください。矢を抜きます。痛みますが、すぐに治療魔法をかけるので耐えてください。」


 女性は眉間にしわを寄せながらも、しっかりとうなずいた。


「それじゃあ行きますよ……3、2、1―――ふっ!!」

「ぐうぅっ!」


 肩を押さえつけ、気合と共に矢を引き抜く。鏃まで含めてきちんと抜けていることを確認してから魔法を唱えた。


「―――”光癒(ウォルグ・リーア)”。」


 暖かく柔らかい光が肩を包み込に、鏃に抉られた皮膚が滑らかに再生していった。


「他にケガはありませんね?」

「はい……助けていただいて、ありがとうございます……!」


(さて、あとは最後の盗賊に人質にされていた少女だけか。)


 馬車から出ると、若い男が相変わらず車輪の前で震えていた。


 無理もない。

 見た限り、御者台の壮年男性は最初の射撃で運悪く射貫かれたのだろう。そして彼自身も殺される寸前だった。


 命を脅かされる恐怖。

 それは、15年前の最初のあの日に私も体験している。


 私は彼の横を通り過ぎ、森の中へ戻る。


「君は大丈夫?」


 少女は、その場で力なく座り込んでいた。私が声を掛けた瞬間―――


 ピクリ、と小さく体が震える。

 そしてすぐに縮こまり、身を守るように肩をすくめた。


 ひどく怯えている。不用意に近づくことさえはばかられる有様だ。


 この国には、二通りの合法奴隷が存在する。

 軽犯罪を犯した者がなる犯罪奴隷と、自身を担保としていた者が破産してなる借金奴隷だ。


 目の前の少女は猫族。つまりは獣人族であり、体の成長が通常の人族に比べ少しだけ早い。

 しかしそれを加味しても成人(15歳)しているようには見えず、肉付きも決して健康的とは言えない。

 それに主人は盗賊で、服装もぼろきれの貫頭衣一枚だ。これでは今の季節でさえ肌寒いだろう。


 総じて、過酷な環境で長期間間生活していたように見える。十中八九横流しされた首輪の被害に遭った違法奴隷なのだろう。


「うーん……」


 違法奴隷である可能性は高い。

 だが、この国の法では許可なく奴隷を開放することが許されていない。

 『本当に違法かどうかの確認が取れないなら開放するな』……中々に残酷な制度だ。


 結局のところ言いたいのは、盗賊の所有物は全て討伐者のものになり、その所有物には奴隷も含まれるということだ。


 私が処遇に頭をひねる間も、彼女は小さく震え続けていた。

 このままにしておくのはかわいそうだ。しかしどう声を掛けたらいいのか―――


 そう、考えていると。


「嫌ああぁぁ!!あなた!あなたぁ!!」


 馬車の方から、悲鳴が響いた。


(……あぁ……やっぱり、家族だったのか。)


 御者台で亡くなった男性と、荷台の女性は夫婦。震えていたあの青年は、おそらく息子さんだろう。


 三人は行商人として、アメーティアスに向かう途中だった。

 そこへ盗賊が現れ―――


(やっと、わかった。)


『盗賊は敵だ。迷う必要のない、殺すべき相手だ。』


 あの時は無情にも思えた、クレイグさんの言葉。だが現実はどうだ?

 何の罪もない家族が、自分の欲望のためだけに生きる者によって傷つけられる。奪われる。壊される。


 胸が締め付けられ、はらわたが煮えくり返る思いだ。

 家族を失った者として、その苦痛がどれほどのものかは……想像に難くない。



***



Side ■■■



(何なんだ、今のはッ!?)


 森の中を、男が全速力で駆けていた。


 商品が買い手の下に届くことを見届ける―――それが、男の役目だった。

 だが、その任務は今しがた水泡に帰した。


(そもそもなぜ奴らは商品護送の途中で商隊を襲った!?)


 理解不能な野盗たちの行動に、苛立ちがこみあげる。


(何のために目立ちにくいルートを教えたと思っている!クソ、考えれば考えるほど腹立たしいっ!)


 やはりゴロツキの集まりなどに任せるべきではなかったのだ。


 奴らの頭には略奪しか頭にない。

 数と弓で力押しするしか能のない連中なのだ。


(それにしても……)


 一連の場面を思い返し、男は歯噛みした。

 襲撃に舵を切った時は驚いたが、それでも途中まではよかったのだ。我々が与えた弓の甲斐もあって早々に決着がつきそうだったのだから。

 納期に遅れが出ず、それでいて奴らのモチベーションになるなら見逃す意味もあった。


 それがどうだ?

 突然現れたたった一人の少女に、ものの数分のうちに全滅させられてしまうなんて、一体誰が考える?


(あの娘は一体何者なんだ?)


 彼の胸には、任務領域における実力者を集めた要注意リストがある。

 そこには氷星の魔女(アリステラ)燃え盛る刃(オレンジ・ブレイド)の面々の名も記されていた。


 だが―――

 あの白い少女については、何一つ記述が無かった。


(これは上に報告するべきか……?)


 しかし報告するとなると、上に報告する権限を持った仲間と合流しなければならない。

 だがあのキャンプ地はそろそろ討伐隊に見つかる頃だ。


(……さて、どう連絡を付けたものか。)


 男は思索を巡らせながら、誰にも気づかれず森の奥へと走り去っていった。

あとがき


ふぃ~!これで主人公のメンタル面はしばらく安心ですかね!

その場しのぎの方法だけだった主人公に、盗賊を討伐する理由が生まれました。

自分しか襲われず、なおかつ被害も無かったために盗賊がもたらす実害に対しての実感の薄かった主人公でしたが、これからは確固たる理由と意思で立ち向かうことができるでしょう。

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