第68話 意外な一面と旧友
第2章 曙光と絆の先へ
第2幕 萍水相逢
第68話 意外な一面と旧友
本日2話目です。
「ふぃ~、お疲れー。」
「お疲れ様です。」
燦々と降り注ぐ陽光と、それを受けて輝く広大な黄金色の麦畑。
爽やかな風に波打ち、それらを囲むように大きなトゥニーラ川が流れ、牧歌的な光景を形作っていた。
予定通り、私たちは丸々一週間をかけてアメーティアスへとたどり着いたのだ。
「それで、今回の稼ぎはどうだった?」
街までの護衛を完了し、私とクレイグが報酬を携えて受付から戻ると、最初に声を上げたのは意外にも魔法使いのハルマンであった。
「今回はミオとの共同依頼だったため、依頼料は一人6分の1……それでいいな?」
クレイグの確認に、私はあわてて口を挟んだ。
「私はお金に困っていませんし、今回はお世話になったので皆さんで分けていただいても―――」
「ダメだ。」
即座に遮られる。
「働いたのなら、相応の報酬を受け取れ。でなければ冒険者全体がナメられる。」
声音は厳しいが、その実理にかなった主張だった。
「その一度身を引くような態度は、お前なりの処世術なんだろうが……冒険者としてやっていくには無用の長物だ。早いうちに直した方がいい。」
「あ、あはは……ですよね……」
この世界の社会に出て一カ月。
薄々感じてはいたが、やはり日本式コミュニケーションはここでは通じないらしい。
控えめでいることが美徳だった元の世界とは違い、最低限は弁えた上で自分を主張する―――それがこの世界の常識だった。
「それで、結局いくらだったんだ?」
ハルマンの口調は、明らかに先ほどよりも苛立ちを含んでいた。
報酬が逃げるわけでもあるまいし……と首をかしげていると、ランデルが私の耳元に顔を寄せてくる。
「アイツな、屋台めぐりが趣味なんだよ。」
「屋台、ですか?」
「そう。あの手帳を見たことはあるだろ?あれな、どの街にどんな屋台があって、何がどう旨いかってびっっっしり書いてあるんだぜ。」
「それは、何とも……意外なご趣味ですね。」
「だよな。俺もそー思う。」
ニヤリとランデルが笑うと、それを遮るように咳払いが飛んだ。
「んっ、んん!」
「アレで本人は隠してるつもりなのが、また面白くてな」
「おいランデル、聞こえているぞ!」
「恥ずかしがることじゃねぇだろ?」
二人がヒートアップしてきたところで、騒ぎを治めるようにクレイグがため息を吐いた。
「……ランデル、そこまでだ。それと報酬だが、全体で30万ナフナ。一人あたり小金貨5枚だ。」
クレイグから報酬を受け取ったハルマンは、足早にギルドを去っていった。
「ランデルさん……人の趣味をからかうのは、正直どうかと思います。」
「お、アンタが意見するとは珍しいな。なんだよ、ハルマンに気でもあるのか?」
「それは無いです。」
即答だった。
***
Side 冒険者ギルドアメーティアス支部、支部長室
「それで、クレイグ。生け捕りにした盗賊の件だが―――」
窓から差し込む光が、男の背後から淡く照らしている。
支部長の椅子に座る彼は、重厚な机を挟み、指を組んだまま静かに切り出した。
ミオたちが報酬を分け合い、すでにギルドを後にした頃。
事前に呼び出されていたクレイグは、この部屋へと顔を出していた。
「取り調べの結果、君の報告とほぼ同じ内容を述べている。こちらでも盗賊による被害件数の増加は確認しているが……どう思う?」
クレイグは一瞬眉根を寄せたが、すぐに答える。
「嘘を言っているとは思えません。緊急依頼を発行するべきでは?支部長殿。」
「くっくっく……」
男が、楽しそうに喉を揺らす。
「そう堅苦しくする必要は無いだろう?クレイグ。君と私の仲じゃないか。」
肘をデスクへ乗せ、意味ありげな笑みを浮かべるその姿は―――実に悪役染みた三文芝居である。
「それではお言葉に甘えさせていただきますが……それは何の真似なんだ?ネラート」
「いやなに、せっかく支部長の席をいただいている身なのだから、それっぽい雰囲気でも楽しんでみようかと思ってね。」
「幼い頃からお前を見ている身としては、違和感しか感じないがな。」
吐き捨てるようなクレイグの言葉に、ネラートは肩をすくめた。
二人はアムヌーに生まれた幼馴染。
かつてはドレイクやランデルとパーティを組み、命を預け合った戦友でもある。
―――だが様々な事情から道を分かたれた彼らの立場は変わっていた。
「まぁまぁ、そう言うなよ。これも遊び心ってもんだろ?」
「……そろそろ本題に戻ろう。」
「相変わらずの堅物だなぁ君は。結論から言えば私も同意見だよ。討伐隊の編成は急務だろうね。」
ネラートは表情を引き締め、机上の書類を手に取った。
「分かり切った結論だな。俺に聞くまでもない。」
「久々の再会だぞ?少し冷たすぎやしないか?」
「高々3週間程度だろうが。……なぜ俺を呼んだ。少なくとも意見を聞くためだけだとは思えないが。」
クレイグの視線を、ネラートは正面からうけ止める。
「さすがだね。……少し、君から見た評価が気になったんだよ。例の大型新人について。」
「……やはりか。」
クレイグは短く息を吐いた。
「それで、どうなんだい?彼女―――ミオは。」
「率直に言えば、規格外だ。」
即答だった。
「魔法の規模は俺が共闘したどの魔法使いよりも大きく、しかも魔力的消耗がほとんど見られなかった。剣も並みではない……正直、無名のAランクだと言われても驚きはないぞ。」
「ほぅ…それほどか。」
ネラートが興味深そうに呟く一方、クレイグの言葉はそこで終わらなかった。
「だが、問題もある。」
「精神面…だね?」
ネラートはすでに答えを知っているかのようだった。
「そうだ。まだ15だったか?あの年にしては落ち着いているが、力に心が追いついていない。あの盗賊と戦った後も、かなり滅入っている様子だった。うちのメンバーがフォローしてからは、だいぶマシになったようだがな。」
「それでは……今回の討伐に参加させるのは酷だろうか?」
ネラートは椅子にもたれ、天井を見上げた。
「ああ。それにもし声をかけたとして、十中八九断られるだろうな。」
「そうなると―――主力が出払っているこちらとしては、君たち燃え盛る刃に中核を担ってもらいたい、という話になる。」
「それが狙いだったか……」
クレイグは苦笑しつつ、首を振る。
「俺の口からは、前向きに検討するとだけ言っておこう。最終的にはメンバーの意向次第だ。」
「それで十分だよ。」
ネラートは満足そうに頷いた。
「報酬には、多少色を付けるつもりだと彼らに伝えてくれ……呼び出して悪かったね。」
「依頼の打診があったことで、チャラにしておく。」
「助かるよ。」
そう言って、ネラートはニヤリと笑う。
その笑みの奥では、すでに次の一手が描き始められていることを、クレイグは予感していた。
あとがき
……何だかんだ、燃え盛る刃の全員にそこそこのキャラ付けができてしまった。
いえね、最初のプロットにはいないんですよ。彼ら。
まぁ第2章以降は第1章ほど何度も書き直していないというか、ほとんど書いたこともないので、プロットっていう骨組みにその場の勢いとか思いつきとかを盛り込んで話に厚みを持たせているんですが……まさか彼らにここまで深入りするとは思っていませんでしたね。
一応”ちびディニアさんの悲劇”の二の舞だけは回避しようとは思っていましたが、それぞれ中々に愛着が湧いてきた今日この頃であります。




