第7話 英雄の軌跡
「第1章 永遠と須臾の煌めき」
の中の「第1幕 転生諸変」
の中の「第7話 英雄の軌跡」です
2025/07/16
細部各所の表現を変更
俺がお母さんに拾われて早一週間。
彼女が暇なときには魔法の講義を受け、それ以外の時間は読書に費やすという行動ルーティーンが出来上がった。
好みの読書ジャンルは一に魔法全般、二に動植物や鉱物などの基礎知識、そして三に歴史だ。
現に今も歴史、特に”人魔七大戦”をピックアップした『人魔七大戦英雄記』シリーズ(著オータス・ヒーロード)を読んでいる。
このシリーズは”黎明の大英雄”も登場する一次大戦から、”終結の聖戦”や”封印戦争”とも呼ばれる七次大戦までの七巻に加え、一次大戦で人類の反撃に大いに貢献した黎明の大英雄”ルトラ=ヴィレ・ノーガート”について深く掘り下げる特別編の全八巻でなっている。
一昨日一巻から読み始めて今ようやく五巻にたどり着いた。
今までの内容も英雄たちを中心に、細かな歴史資料などを交えつつ各大戦期の世界情勢について詳しく触れられている。
特に英雄たちの一面を小噺風に紹介する一節が非常に面白かったので、ワクワクしながら表紙を開いた。
目次には四巻までと同様に英雄たちの名前が並んで…
“第四章 【氷星の魔女】アリステラ・フロライン”
(ん!?……いや、えぇっ!?お母さんが七大戦の英雄!?)
しかも、読み進めてみればウン百万の魔獣の軍勢相手に単騎で文字通り皆殺しにしたとか、勇者を除いて魔神に攻撃が届く唯一の人類だとか…
確かにいつぞや“結構すごい魔女”なんて言われた覚えがあるが、そこまでぶっ飛んだ偉業を為していたなんて考えるはずもない。
驚愕の気持ちそのまま、真偽を確かめるべく本人に対して気迫たっぷりに尋ねた。
「おかーしゃん!」
「ん?どうかしたか?」
「これ、しちたいしぇんのえーゆーってほんと!?」
「あぁ。ホントだぞ。」
「………ほぇー…」
お母さんは何でもないように肯定し、頭の中でさきほど読んだ内容が脳内再生されフリーズしてしまう。
思えば家族として一緒に暮らしているのにお母さんについて知っていることは少ない。初めて顔を合わせた時の自己紹介が全てだ。
確か―――
“氷星の魔女”という二つ名をもち、自覚があるほどすごい魔女で、エルフよりも長生きな“真なる魔女”かつ、現在約1300歳。広範で深い知識を持ち、魔法に精通する。
―――このくらいのものだ。過去に関しては全くと言っていいほど知らない。
「そう言えばその辺りの話はしたことが無かったな…いい機会だ、昔の私についてでも語ろうか。」
““氷星の魔女、アリステラ・フロライン。
ズオー王国中央部にて豪商の娘として生まれ、後の学術都市イルムの前身であるマーリン=アヴェンズ魔法学園に入学するも、落第生の烙印を押される。
しかし在学中に真なる魔女として覚醒し、落ちこぼれを脱却。
むしろ当代最高の天才として近隣諸国に名をはせた。””
「その“しんなるまじょ”って、にゃに?」
「魔法の神髄に至った者のみがなれる、人族の一段階上の種族。エルフ族にとってのハイエルフ、獣人族たちにとっての神獣種みたいなものだ。ただの“魔女”だと“魔法使いの女”という意味にもなる。ちなみに男は真なる魔女の代わりに“大いなる賢者”になるぞ。これもただの“賢者”だと別の意味が含まれるから覚えておくといい。」
「まほーのしんずい?」
「それは話が脱線するからそれはまた後日に、な?」
「むぅ…」
魔法の神髄に限らず、今の発言には聞きたいことが盛りだくさんだったのだが…それはお預けらしい。
不満はあるが正論だし、これほど美しい女性に悪戯っぽい笑みで言われては黙るしかない。
““その後各地で冒険者として活躍。当時史上最速でS級に昇りつめ、大陸中に名を轟かせる。同時期に最強と名高かったストーグス帝国が彼女の逆鱗に触れ騎士団と衝突。
引くに引けなくなった帝国も総力を挙げることになり、最終的に帝国が敗北する。個人相手に大国が負けたことは、世間を揺るがす大事件となった。””
「かったの!?」
「あー、あれは元々小さな出来事がきっかけだったんだが……まぁ、事実だ。」
「どうやって!?」
「そこはほら、特級魔法とかでちょちょいと。」
目を背けつつも認めるお母さん。色々思うところがあるようだが、国に勝つ魔法って一体どんな規模なんだろうか。
““停戦協定を結ぶ際、帝国側から一方的な不干渉宣言が為された。
後にこの宣言には多くの国家が名を連ね、例え国号や領土が変われど受け継がれていき、現在もほとんどの国や地域で効力を発揮している。””
「ふかんしょーせんげん!?こじんにたいして!?」
「ああ。今もほとんどの国が私に対する公式な干渉を抑制する代わりに、私も彼らの国には手出ししないことになっている。おかげでどこも微妙に居心地が悪くて、今ではこんな人の入り込めない魔境に住んでいるんだがな。」
““その後も五次大戦から七次大戦の三度に渡って英雄として参戦し、非常に大きな功績を残しつつも生き残り続けた。
それらの実績から”不滅の魔女”、”国崩”、”黎明の再来”などの異名で呼ばれることもある。””
「あかーしゃん、めーちゃしゅごいひと…」
「そうだな……自覚はある。」
さすがは1300年を生きた魔女。それはもう、まさに“波乱万丈な”と言うほかない人生を送ってきたようだ。
あとがき
フッフッフ、前回のあとがきでは“ちょびっと”と言ったな!あれは嘘だ!
というわけで、魔女様の過去の所業がガッツリ明るみ出ましたね!今ではこうして冷静沈着で愛情に溢れていますが、昔はかなーりヤンチャしていたようです。
次回、魔法の実技が始まりますよぉ…!