第67話 先行く者の置き土産
第2章 曙光と絆の先へ
第2幕 萍水相逢
第67話 先行く者の置き土産
祝!8,000PV!ご高覧頂きありがとうございます!
先週投稿できませんでしたので、本日は第67話+第68話の2話連続投稿でお送りいたします!
「終わりだ、ミオ。よくやった。」
「ぁ……」
状況終了。それを認識した瞬間、張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れた。
練り上げていた魔力は霧散し、意識的に閉じていた感覚の錠がゆっくりと開いていく。
森に立ち込める、濃密な血の臭い。
地面を染める7つの赤い水たまりには、それぞれ一人ずつ―――首無し死体が沈んでいた。
それは、私が―――
「大丈夫か?」
肩に置かれたクレイグの手。その接触が、私を現実へと引き戻す。
「だ、い、じょうぶ……です。」
「無理はするな。後始末は俺たちに任せろ。お前は街道の向こうで休んでおけ。」
「……はい。」
足取りがおぼつかない。手が、微かに震えている。
人を、殺してしまった。
仕方がなかった。
そうしなければ、護衛対象が、仲間が死んでいたかもしれない。
私に非は無い。
彼らは許されざる罪を犯した者たちで、公的にも討伐を推奨されている存在だ。
何度も何度も心の中で繰り返して、そう言い聞かせようとした。
けれど、目を閉じても離れない凄惨な光景が、その理屈を容赦なく打ち消してくる。
血だまり。
そこに斃れる死体。
せめて苦痛を感じないようにと首を飛ばした。
それでも、その直前の瞳は……どれも、恐怖に塗りつぶされていた。
手近な木に手をつき、込み上げる吐き気を必死に堪える。
「おう。どうだ?調子は。」
背後から聞こえた声に、小さく肩が跳ねる。
振り向くと、そこにいたのはランデルだった。
「もう、移動しますか?」
「いーや、まだだな。死体は埋めたが、一人生け捕りにしててよ。今はリーダーとヴィメルが尋問中だ。」
彼は軽い口調のまま、肩をすくめる。
「俺ぁそーゆーのは性に合わねぇし、一応一緒に戦った仲だ。アンタの様子が気になってね。」
「……」
一拍置いて、彼はちらりとこちらを見た。
「どうよ?やっぱ胸糞悪ぃか?」
その軽さが、今の私には少しだけ癇に障る。
「胸糞悪いなんてもんじゃ、ないですよ……最悪です。」
「だろうな。」
即答だった。
ランデルは木に背を預け、視線を空へ向ける。
「知ってるよ。俺だって最初はそうだった……けどよ、俺たちゃ冒険者だ。やらなきゃやられるんだ。」
「それとこれとは、話が―――」
「だがそれが現実だ。」
「っ……」
かぶせるような言葉に反論は喉で止まった。
しばらく、沈黙が落ちる。
「世の中綺麗事だけじゃ回らねぇってのは、アンタも理解してんだろ?……あぁ、勘違いすんなよ?俺ぁ説教がしてぇんじゃあねぇ。」
ランデルは頭を掻き、ばつが悪そうに続けた。
「つれぇなら忘れろ。今はそれでいいんだよ。」
「……忘れる?」
「整理できるようになるまで、放っとけっつーこと。」
彼は小さく息を吐く。
「その内よ、クズどもなんかよりも大切にしたいもんができる。人とか、場所とか、物とか…あぁ、で信念もいい。俺にとっちゃ、仲間がそうだが。」
「……」
最後に、肩越しに振り返りながら付け加えた。
「……ま、無理すんなよ。冒険者だけが道じゃあねぇんだからな。」
それだけ言うと、彼は返事も待たず足早に去って行った。
大切なモノ……。
私にとっては、ヴァルがそうだろうか?けれど最近は、彼を守るというより―――私の方が守られているような気もする。
……いや、大切なのはそこじゃないのか。
彼は”忘れろ”と言った。
少し前に母を亡くし、悪夢に悩まされるほど今の私は余裕がない。
無理受け止めようとすれば……きっと壊れてしまう。
「……少しは、マシになったかな。」
飄々としていて信用できないと思っていた彼の言葉が、意外なほど胸に残る。
重りは、今は脇に置いておこう。
そう決めて、私は彼に礼を言うため、一歩を踏み出した。
***
Side ■■■
「は?帰って来ない?」
盗賊が巣食う集落の外れ。丸太小屋の中で、二人の男がテーブルを挟んで向かい合っていた。
その二対四つの瞳は、この集団には不釣り合いな理知的な光を宿している。
「ああ。大方しくじったんだろうな……まぁ、想定内だ。」
「……ならいいが。ここがバレるのも時間の問題じゃないか?どうせ奴らに義理や筋を期待したところで無駄だろう?」
「だからこそ、俺はいつでも離れられる用意をしておく。拠点があるとなれば、きっと即座に討伐隊が飛んでくるだろうからな。」
一人が窓の外を見る。
そこには、つい最近の襲撃で手に入れた酒樽を囲み、肩を組んで騒ぐ盗賊たちの姿があった。
「了解だ。お上にはちゃんと報告しておこう。」
「頼む。」
少し間をおいて、男は何気なく言った。
「……ところで、戦利品の中にワインは無いのか?」
「なぜそんなことを聞く?」
「おいおい、お前は知ってるだろ?俺がワインに目が無いのは。このところ働きづめで、碌な飯も食えてない俺を労ってくれよ。」
「……はぁ、仕方ない。ただし品質にはあまり期待するなよ。ここらはブドウより麦の産地の方が近いんだからな。」
「十分だ。」
夜は更ける。
何も知らぬ盗賊たちは目の前の成果に酔い、この二人は静かに、グラスの中のワインを口に含んだ。
あとがき
だぁーーッ!!書き終わったーーーッ!!
過去最高に収集に困った「主人公、鬱過ぎ問題」。前回のあとがきでは除外されていたランデルをセラピストとして抜擢し、(強引に)解決させました。
しかし一時は本当にどうなるかと思いました…正直前3話ぐらいの書き直しも視野に入れた程でしたが、なんとかなってよかったです。
次回以降はもう少し話がスムーズになると思います(半分願望)ので、今後ともよろしくお願いいたします。




