第62話 汝、己の傲慢を知る
第2章 曙光と絆の先へ
第1幕 開雲見日
第62話 汝、己の傲慢を知る
祝!6000PV!ご高覧頂きありがとうございます!
ここ最近1000/週PVずつ増えてて超ビックリしてます!本当にありがとうございます!
感想なんかも頂けたりしたらもっと嬉しいなぁ……なんて(/ω・\)チラッ
『―――ぼくの相棒に、触るなっ!!!』
脳髄を殴りつけるような怒声と同時に、一帯に影が落ちた。
ゴブリンも、私も、反射的に空を仰ぐ。
そこにあったのは、羽を体に沿わせて流星が如く突っ込んでくるヴァルの姿だった。
地面に着弾するとその勢いのまま転がりながら、周囲のゴブリンたちを踏み潰していく。
立ち上がった彼は守るように私を囲い込んだ。
「ヴァ、ヴァル!?どうしてここに!」
『許さない…!!』
私の声は、届いていなかった。
怒りに支配されたヴァルの尾が唸りを上げ、背後の櫓を粉砕する。
そして正面で慌てふためくゴブリンには、煌めく炎が吐き出された。
それは龍ノ光と呼ぶにはまだ粗く、収束されていないもの。
だが、Eランクの魔物の群れを焼き払うにはあまりにも過剰だった。
集落は一瞬で炎の濁流に呑まれ、大半のゴブリンがその場で命を落とす。
残った者は、がむしゃらにヴァルへ突撃し、爪と尾に容赦なく叩き潰されていった。
―――だが、愚か者ばかりでもない。
集落の中心、距離をとっていたキングは、親衛隊らしき上位種に守られながら背を向けて逃走を図る。何とか初動を凌いだジェネラルたちも、散り散りに走り出した。
『逃がすもんかっ!!』
最初に潰されたのは、私が腕を折ったジェネラル。
次に、いつの間にか雪宗を拾っていた2体目のジェネラルが咥え上げられ、噛み砕かれる。
最後に残ったキングも、飛び上がったヴァルが放った爆炎の魔法で吹き飛ばされ―――
地面に落ちた時には、もはや形を保っていなかった。
仕上げとばかりに火炎が集落を埋め尽くし、残存していたクイーンや一般ゴブリンたちもあっという間に消え失せる。
―――彼が現れてから、わずか1分の鏖殺劇であった。
『ふーっ、ふーっ…!』
戦いが終わってなお、ヴァルの怒気は収まらない。彼がここまで感情に任せる姿は初めて見た。
鱗はゴブリンの青い血に塗れ、金の瞳はその怒りに煌々と輝いている。
「ヴァル……?」
『あっ―――ミオ!大丈夫?ケガしてない?』
ようやく声が届いたらしい。
怒りは瞬く間に霧散し、慌てた様子で私の体を覗き込んでくる。
「うん。ヴァルのおかげでね。ヴァルは?」
『だいじょーぶ!!』
そう言ってぐるりと一周してみせる姿に、ようやく一息吐く。
「じゃあ、洗うからジッとしてて。」
『はーい。』
水魔法のシャワーで返り血を洗い流しながら、私の胸は冷えていく。
危なかった。迷いが私を縛り付けていた。
―――もし、ヴァルが来なかったら。そう思うと背筋が凍る。
目標はあくまで目標だ。命と引き換えにするものじゃない。
これは現実なんだ。何度でもコンティニューできるゲームの中じゃないんだ。
もっと、もっと慎重になるべきだったんだ。
キリベルカさんも言っていた。
「冒険者はね、何より自分の命を大事にしないとダメだよ。たとえ仲間を見捨てることになっても、自分を優先する覚悟でね。」
ヴァルを見捨てるつもりはない。
けど自らの縛りに寝首をかかれては、お母さんにもミラ師匠にも合わせる顔が無い。
今回は、明らかに行き過ぎた修行だった。
「……はい、終わり。」
『ありがとー!』
自分の中で、一応の整理をつける。ヴァルの様子も普段通りに戻ってホッとした。
―――気が抜けたその瞬間、嗅覚が戻って来る。
「―――うぉぇ、くっっさ…!?」
元々の悪臭に血の匂いが混じり、さらに酷いことになっていた。
こういう時ばかりは、獣人の鋭い嗅覚を恨みたくなる。
今すぐにでもこの場を離れたいが―――
これから討伐証明部位と魔石の剥ぎ取りは、しなきゃだよなぁ……
***
結局剥ぎ取りは一日では終わらず、一泊の野宿の後に再びヴァルと別れた私はアムヌーへと戻ってきていた。
「な、何ですかこれぇっ!!?」
聞き覚えのある悲鳴が、冒険者ギルドに響く。
「し、失礼いたしましたっ…!ですが、なんなんですか、この量…!」
一般ゴブリン、約1000。
上位種、約200。
キング1、クイーン1、ジェネラル2。
カウンターに置かれているのは、討伐証明部位である切り取られた右耳の山。それから、最上位種のもの以外の魔石だった。
最上位種の魔石を抜いているのは、Cランク以上の魔石が貴重で、後々個人的な魔道具制作に使ったりするかもしれないからだ。
山の内訳を伝えると、エマさんは顔を引きつらせながら言った。
「しょ、少々お待ちください……」
***
「……念のため確認しますが、これらは貴女が討伐したのですよね?」
「はい。」
こちらも一昨日ぶりの執務室。そして昨日ぶりのギネートさんだった。
彼の表情はエマさんと違って硬い。
「集落にいたゴブリンは全て討伐したのですか?」
「そうです。」
「そうでしたか……ありがとうございました。こちらでもゴブリン増加の兆候は把握しており、探索依頼を出したところだったのです。何事も起きないうちに片付いて、本当に良かった。」
ゴブリンは群れの規模によって脅威度が変わるが、今回のはかなり大きく育った部類で、しかも最上位種も複数存在していた。
全体の脅威度で言えば”Bランク(都市滅亡級)”は固い。
そんなものがアムヌーから片道数時間という近さにあったのだから、ギネートさんの安堵は容易に想像できた。
「依頼達成報酬に討伐報酬、それから魔石の買取に加え、本件はアムヌーへの貢献が著しいため特別報酬も追加いたします。」
「ありがとうございます。」
「正直、予想以上でした。まさかBランク相当の案件を単独で処理されるとは。」
「……相性が良かっただけです。それに、今回で自分の未熟さを痛感しました。」
「そうですか。とはいえ、初めての依頼でここまでの成果を出されたことは事実です。今後に期待していますよ。」
「……はい。」
初めての依頼は達成した。
評価も、報酬も、申し分ない。
だがこれは、とても成功などとは呼べなかった。
ただ、自分の浅慮と傲慢さを突き付けられただけの、
運よく痛みが伴わなかっただけの、
苦々しいことこの上ない失敗としか、言えなかった。
あとがき
巨大樹の森ではE~Cランクの魔物とのタイマンか、魔法による蹂躙かが日常だった主人公の偏った経験。
それに加え母の死に、新たな環境。……それから脅威。
短期間に精神的な負担を抱え込み過ぎてしまったことも、主人公の感覚がマヒしてしまった遠因かもしれません。
今回の件を受けて真剣に悩んだ結果、刀はあくまで近接用の補助であり、自分のメインスタイルはやはり魔法であると定めます。
さて、このところ主人公周辺にばかり視点が偏って参りましたが、登場済みでありながら現在離れた場所にいる重要キャラたちも存在するわけで……そろそろ各々の道の交差点が見えて来たり見えてなかったり…?




