第54話 冒険者ギルド
第2章 曙光と絆の先へ
第1幕 開雲見日
第54話 冒険者ギルド
『……見られてる?』
「見られてるね。」
歩き出して間もなく、私たちは街の人たちの視線の渦の中心にいた。
恐怖、忌避、警戒―――そしてごく一部の好奇と興奮。
それらが混ざり合って、針の筵のようになっていた。
『なんか、気持ち悪いなぁ…』
「気分が悪いの?」
『そうじゃないよ…ただ、何てゆーか……うれしくない。』
「つまり嫌なんだ?」
『そう!それ!ぼくはたくさんの人に見られるのは嫌だ!』
ヴァルが嫌がっているなら何とかしてあげたいが、現状では打つ手がない。
ヴァルは従魔登録をしなきゃならないし、街中で飛ぶことは禁止されてしまった。
「登録するまでは我慢して?それが終わったら、すぐに街の外に出してあげるからさ。」
『うぅ~……』
それから5分と経たずに冒険者ギルドにはついた。しかしヴァルは馬宿以外の施設には立ち入りを許されていないし、そもそも入口に対して大すぎるために中に入ることはできなかった。
彼はギルドの外で待つことになったが、子供が恐る恐る近付き、冒険者らしき男たちには値踏みするような視線を向けられていた。
かわいそうなので、なるべく早く登録を済ませてしまおう。
ギルドの中は想像していたよりもずっと静かだった。
昼間から飲んだくれるような酒場は無く、むしろ小綺麗で、どこか役所めいた雰囲気だ。
正面には4つの受付窓口。右手には二階へ続く階段があり、左手には大きな掲示板がある。
掲示板の前には幾人かの冒険者たちが集まって話をしており、入ってきたこちらに一瞬目線を向けて、すぐに興味を失った。
私は栗毛をハーフアップにまとめた、一番左の受付嬢に声を掛ける。
「すみません。冒険者登録をしたのですが…」
「はい。ではこちらからいくつか質問をさせていただくのと、登録料として大銀貨2枚をいただいておりますが、よろしいでしょうか?」
「大丈夫です。」
服の間に手を入れ、こっそりと虚界門から袋を取り出す。袋をそのままにしておかないのは、クレイグさんに気を付けるように言われたすり対策のためだ。
普通の人は面倒な対策も、虚界門を使えば簡単かつ完璧である。
「はい、確かに銀貨2枚。お受け取りしました。それではまず、お名前は?」
「ミオ・フロラインです。」
答えると、受付嬢さんは小さく口の中で繰り返しながら手元の紙にメモしていた。
「年齢は?」
「15歳です。」
「えー…過去に魔物の討伐経験はありますか?」
「あります。ラージボア、グレイウルフ、スカーレットディア、コカトリス―――」
「…はい?」
途中で受付のペンが止まる。
「え?聞こえませんでした?」
「いえ、あの…それDランクの魔物ですよ?しかも、コカトリスに至ってはCランクですし…」
「えぇ。そうですね。」
「あなたが討伐したんですか?一人で?」
「そうですけど…あ、討伐証明とかあった方がいいですかね。」
「お持ちであれば、そうですが…」
私はグレイウルフの頭、スカーレットディアの朱に染まった角、コカトリスの蛇と鶏の接続部を虚界門から取り出す。ラージボアの頭は大きすぎるので、ここで出すのは控えておいた。
これらは冒険者がギルドに提出する”討伐証明部位”とされるものだ。将来冒険者として活動することは前から決めていたので、練習がてら証明部位を綺麗に残しておいたのだ。
「わあっ!?あっいえ、すみません…!でもこれ、全部本物…?ええぇ?本当にあなたが?」
そつなく仕事をこなす受付嬢の営業スマイルが、驚きに崩れる。
「間違いななく私が討伐しました。剣と、魔法で。」
「そ、そうでしたか……こほんっ、失礼いたしました。証明部位はもうしまっていただいて大丈夫です。カードを作成してまいりますので、少々お待ちください。」
足早に奥へ消える受付嬢。
ギルドの中は再び静まり、奥の方から交わされる職員たちの議論の声と、掲示板の方で囁かれる声が私の耳に入る。
具体的に何を言っているかは分からないが、それがむしろ私の不安をあおった。
これ、もしかしてちょっとマズった?
***
5分ほど待っただろうか。先の受付嬢が戻ってくる。
「上の階で副支部長がお会いになりたいそうです。ご案内しますね。」
そう言って受付を出て右の階段へと歩いていく受付嬢。
私はと言えば、突然のことに全くついていけていなかった。
「えっ、副支部長?…が、私を呼んでるんですか?」
「はい。」
「どうしてそんなことに?」
「それも含めて副支部長から説明がありますので、上の部屋までお越しください。」
「はぁ…」
彼女の態度には取り付く島もなく、掲示板の前にいた冒険者たちがこちらに視線を向けるのがはっきりと分かった。
本当に何かやらかしてしまったんだろうか…?
漠然とした不安もそのままに、後をついて階段を上る。
先導する彼女が足を止めたので見て見れば、行き先は上ったすぐ左にある部屋だった。
「副支部長、ミオ・フロラインさんをお連れしました。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
通された部屋は応接室のようだ。一人掛けのソファが右に2つ、膝ほどの高さのテーブルを挟んで左側にもう2つ並んでいる。
右のソファに座っていたらしい男性が、腰を上げてこちらを見ていた。
サラサラの金髪、見えているか疑問に思うほどの糸目、整った顔立ち、そして最も印象的な―――長くとがった耳。
「副支部長のグィネート・スレンシムです。慣れていないと呼びづらいでしょうから、どうぞギネートとお呼びください。」
痩身のイケメンエルフが差し出す手を、私は握り返した。
あとがき
今回の新キャラは三人目のエルフ、ギネートさん。主人公とどんな話がしたいんでしょう?
ちなみに特に問題も無い冒険者登録であれば、聞き取りをした受付嬢が裏にある特殊な印刷機でカードを作成し、受け渡して終わりなんですけどね。
ヴァル、もうちょっとだけ我慢してね…!
次回、副支部長という役職があるなら、支部長も居るはずですよね?




