第52話 幕間道中
第2章 曙光と絆の先へ
第1幕 開雲見日
第52話 幕間道中
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「ドレイク!そっち行ったぞ!」
「よし来た!ふんッ!」
レルデップさんの荷台に揺られて、はや1カ月。
穏やかな風が草原を撫でるその只中で、商隊の護衛を務める冒険者たちが、中型スライムの群れと交戦していた。
護衛の冒険者―――彼らはCランクの冒険者パーティ”燃え盛る刃”の5人だ。
旅の始めには、何度か加勢を申し出たこともあったけれど、彼らはその全てをきっぱりと断った。
曰く、「これは俺たちの仕事だ。それを取られては報酬が減ってしまう。それにあんたみたいな少女に助けを乞うなんてCランクの看板が泣く。」とのことだった。
護衛の仕事は、魔物や盗賊などの脅威から積み荷と雇い主を守ることだ。
それを外部からの厚意に甘えて楽をしていては、評価が下がり報酬を減らされるのも納得である。
それにCランク冒険者といえば、Dランクの”一人前”からさらに一皮むけた”中堅”的な存在だ。
冒険者として多くの経験を積んだベテランでもあり、ある程度危険な依頼にも出向くという。
「よし!これで終わりだな!」
「おーう。進めるぞー。」
「うぃー、お疲れー。」
一仕事終え、私やレルデップ商会の従業員たちもいる人用馬車の荷台にはドレイクとクレイグ。御者台にはヴィメルが乗り込んだ。
そして残る二人、ランデルとハルマンは商品用の馬車の方に乗り込んでいった。
「お疲れさまでした。」
「まっ、スライム如き余裕だわな!」
「そんなことを言いつつ、この前踏んづけてコケたのは誰だったか…」
「テメっ、そりゃ言わねぇ約束だろうが!」
「……依頼中だ。少しは慎め。」
自信満々に語るのはメイン火力の剣士ドレイク。それを小馬鹿にするのが、手のひらサイズの盾を腕に装備したサブタンク兼遊撃手のヴィメル。
そして彼らを諫めたのがパーティリーダーのクレイグだ。大盾とショートソードでパーティを守るメインタンク兼司令塔である。
「あまり有頂天になるなよドレイク!また馬車から落ちて大けがするぞー!」
「そりゃ駆け出しのころの話だろうが!!んだよテメェら、揃いも揃って…!」
「それだけ普段からお前が浮かれているということだ。いい加減、自重という言葉を覚えろドレイク。」
後続の馬車からヤジを飛ばすのは弓使いのランデル。最後に魔法使いのハルマンが冷ややかに会話を締めた。
「ったく、お前らこのところ俺に対して棘があんだろ。何だってんだよ…」
「お前がミオの前でいいかっこしようとするからだろ。いくら俺たちむさくるしい男性冒険者に女が寄り付かないにしても、お前は節操無しが過ぎる。ま、中級スライム相手に圧倒した程度でいいかっこ見せられるかと言えば、それはまた別の話だがな。」
「んだよいいじゃねぇか!俺だってモテたいんだよ!おい、ミオも何とか言ってくれよ。流石に酷すぎるよなぁ!?」
「そう、ですねぇ…あはは…」
「……全く…」
気まずく笑ってやり過ごす。けれどこんな賑やかなやり取りこそが、この1週間の旅の空気感そのものだった。
道中、彼らは先輩として、実に様々なことについて教えてくれた。中でも地理や通貨の話は、私にとっては切実な重要事項だった。
まず、私たちがいるこの国は”トレイトス王国”だ。
向かっているのはその東方辺境伯”エターツァエ”家の影響下にある、”ウォートナック”家が治める領地に位置する街”アムヌー”だ。
通貨は王国共通の”ナフナ”。
銅、銀、金、白金の4種の硬貨があり、それぞれに大小が存在する。
小銅貨1枚が1ナフナ。
そこから一段階上がるごとに価値は10倍になる。大銅貨なら10ナフナ、小銀貨なら100ナフナだ。
「その小銀貨1枚で、パンが一つ買えるぜ。」
ドレイクは昨夜、焚火の前で言った。
つまり1ナフナはほぼ1円。そこが感覚的にわかりやすいことは、私にとって朗報だった。
「そう言えば、もうそろそろ街に着くんでしたよね?」
「おう。あ、ミオは冒険者ギルドとか商人ギルドには所属してないんだったよな?」
「はい。まだギルドのある街には行ったことがありませんので。」
ドレイクの問いに答えると、クレイグが口を開いた。
「だとすると入市税がかかる。大銀貨1枚だが払えるか?厳しければこちらで肩代わりすることも―――」
「大丈夫です。お金は持っていますので。」
「―――そうだったか。村から出るのならば、あまり余裕はないものと思っていた。」
微かに、胸が痛んだ。
「…家族が、遺してくれたので。」
クレイグは一拍言葉を飲み―――
「……そうか…すまない。余計なことを聞いた。」
「いえ。」
不意に流れ着いた静寂を打ち破るように、私は微笑んで切り出す。
「ほかにも何か街で最初にお金がかかることがあれば教えていただけませんか?」
「そうだな……まず冒険者登録に、ギルド証の発行料として大銀貨2枚。それから宿も一泊大銀貨2枚は覚悟した方がいい。安宿もあるが、そういう宿はあんたには向かないだろう。」
「なるほど…」
「あぁそれと―――」
クレイグは馬車から乗り出して、商隊の遥か上空を飛ぶヴァルに意識を向けた。
「ドラゴンを従えているだろう?街に近づく前に馬車の横で歩かせた方がいい。さもなければドラゴンの襲撃だと思ったアムヌー全体が、全力で迎撃に出るだろう。仮にそうならなかったとしても手続きをせねばならんし、門の手続きとは別に従魔登録もせねばならない。ちなみに従魔登録は冒険者ギルドでできるが、これも大銀貨2枚がかかる。」
「……やはり始めは何かとご入用なんですね…」
「念のため聞いておくが、資金は本当に大丈夫なのか?」
「はい。それに、足りなければ虚界門の中にある余った魔物の素材を冒険者ギルドに買い取ってもらうつもりですので。」
「そ、そうか……」
ほんの僅か、クレイグの頬が引きつったような気がした。余計な心配をさせてしまったのかもしれない。
「リーダー。アムヌーが見えて来たぞ。」
タイミングのいいヴィメルの声に幌の外に乗り出して見てみると、やがて遠い地平線の向こうに―――
トレイトス王国東部最辺境の街”アムヌー”の外壁が、静かにその姿を現し始めていた。
あとがき
今回はアムヌーでの冒険者生活に向けた準備会ということで、地理や経済なんかの予備知識がてんこ盛りでしたね!
商隊の仲間として主人公と知り合った冒険者たちも、いつか活躍する場面があるかも…?
ではでは…!
次回、アムヌー編…開幕です!




