第51.5話 助演の選ぶ道
第2章 曙光と絆の先へ
第1幕 開雲見日
第51.5話 助演の選ぶ道
Side ルート
夜。晩飯を食った俺は、どうにも胸の中がざわざわと落ち着かず、村のはずれで風に当たっていた。
「はぁあ……」
ミオはレルデップさんたちと一緒に街へ向かった。
あまりにも急な話で、事情を聴いたエレンたちは駄々をこねて引き留めた。―――正直に言えば、俺もミオには行かないで欲しかった。
「はぁ…」
「メランコリックなルート兄を発見…」
「ほぉあッ!!?」
突然背後から掛けられた声に跳び上がる。振り返ると、そこにはエレンが立っていた。
「な、なんだ…脅かすんじゃねぇよ。」
「さっきからため息ばっかり。幸せ逃げちゃうよ?」
「んなこと言ったって出るもんは出るんだよ。どうしようもねぇだろ。」
「つまりルート兄は今、メランコリックな気分。」
「め、めら…?」
コイツは四人組の中で一番つかみどころが無い奴だ。こんな風に、時々意味不明なことを言う。
ミオ曰くこういうやつをを”でんぱ少女”というらしいが、詳しいことは教えてくれなかった。
「っつーか、いったい何の用だよ。子供がこんな夜更けに。」
「おねーさんが居なくなって寂しいんでしょ。」
「……そりゃあな。そういうお前の方が寂しんじゃねぇのか?」
「寂しい。しっぽ吸いしたい。」
「しっぽ吸い…??」
「お日様の香り。いい香り。ジョンに似てるけど、ジョンよりいい匂いがする。」
そう言えば、エレンはよくミオの尻尾に顔をうずめてたか。アレ匂いを嗅いでたのかよ…
「ルート兄は、おねーさんのこと好きなんでしょ。」
「ん、んんー?ななな何の、何のことかなぁ~?」
「分かりやすいとかいうレベルじゃない。一緒に居る時のルート兄は幸せオーラが全開だった。鼻の下も伸びてた。」
「そ、そんなわけっ」
「じょーだん。でもバレバレなのはホント。」
「ぐっ…はぁ……そうだよ。俺はミオが好きだった。」
最初は”頭のおかしな奴だ”と思った。
森の中で大声を出すとかどうかしてるって。
そんで次は”すっげぇ強ぇ奴だ”と思った。
ラージボアを一瞬で仕留めちまうなんて。
でも、村の中では―――ただの優しくて、気さくで、よく笑う普通の奴だった。
恋に落ちたのがいつかなんて、憶えてない。気が付いたら、好きになってたんだ。
とんでもない美人で、とんでもなく強くて、とんでもなくいい奴。惚れないわけがなかった。
しかも村には俺以外に同年代が居ない。
上は親父たちが一番近いし、下はエレンたちが一番近い。育った時は退屈だったけど、今はむしろ感謝してた。
このままいつか一緒になったいいなぁ…なんて、思ってたんだ。
「何で過去形?」
「……もう会えないからな、諦めるしかねぇだろ。」
俺は村の狩人だ。いつかジャックの親父さんの跡を継いで狩人の頭になるのが昔からの夢だった。
そういう未来しか、考える必要が無かったから。
「ダウト。自分も村を出て冒険者になるつもり。」
「ん、んんー?ななな何の、何の―――」
「天丼は嫌われる。正直に言うのが身のため。」
「―――何で分かった。まだ誰にも言ってねぇのに。」
「私はおねーさんが認めし電波少女。分かることは分かる。」
「…そーかよ。でもまだ決めたわけじゃねぇし、じっくり考えてから―――」
「ううん。ルート兄は冒険者になる。」
「はぁ?何でお前が決めてんだよ。」
そうは言ったが、エレンの言葉には不思議と説得力があった。
こいつの発言はいつもふざけているくせに妙な自信に満ちているが、今回のそれは俺も納得するような重みがあった。
「私の勘は100パー当たる。今までに外れたことは無い。」
「……そーかよ。」
***
ミオが旅立った翌々月、俺は一人街へと向かうことになった。
「それじゃあ、行って来る。」
「気を付けてね。あんたはミオちゃんみたいに強くないってこと、忘れちゃダメよ?」
「お袋……さすがにアイツと同じことができるなんて思ってねぇよ…」
「まぁでも、正直安心したわぁ。だってあんたが村の中で結婚できるとは思えなかったから。」
「それは余計なお世話だよ…」
相変わらずお袋は抜けてるんだか、むしろ逆に鋭いんだか…まぁ俺の緊張はほぐれたんだから、きっとお袋の思惑通りなんだろうな。
「ルート兄も居なくなるなんて、オレ寂しいよ。まだ弓も上手くなってねぇのに…」
「ジャック、弓はお前の親父の方が教えるのがうまいっていったろ?俺よりずっと、お前のためになる。」
「そうことじゃっ…!」
顔をくしゃくしゃにして引き留めようとするジャックに罪悪感が湧く。
でもこれが―――俺の選んだ”道”なんだ。
「帰ってきたときは魔物のお話、いっぱい聞かせてね!」
「お前それミオの時も言ってたよなぁ?」
「だって違う魔物かもしれないでしょ!」
「ったく、普段は大人しいくせして魔物の話となるとこれだもんなぁ…」
ティミーは昔からずっと変わらなかった。弱気で知りたがり。
でも実は村で一番槍が上手い。天賦の才って奴なんだろうな。
「私たちもー、寂しいけどー…でもぉ、お姉さんを追いかけたいんだもんね~?」
「だっから違うっての!何度言ったら分かるんだよ!?」
「バレバレだよぉ~、素直じゃないなぁもぉ~」
リリーはエレンと似てなんでも見透かしてきやがる。
おかげでうちの女連中には俺の秘めていたはずの恋心が筒抜けになっちまった。ホント勘弁してくれよ…
「勘、当たったね。」
「そうだな……でも正直、お前のアレに背中を押されたのは事実だ。感謝はしてる。」
「崇めよー。」
「た、だ、し。リリーと組んであの事を周りに言いふらしたのはマジで許さん。いつか一泡吹かせてやるから覚悟しとけ。」
「無理。ちなみにこれも、私の勘。」
「……ッチ」
こいつは通常運転にもほどがある。俺との別れを何とも思ってないのか?
「寂しい。でもその先にはきっといい未来が待ってる。」
「心を読むのはやめろって言ってんだろ!」
全く…けどこいつの勘が外れる気がしないってのもまた癪だ。癪だが―――きっとこの先ずっと、俺はこいつに会うたびにいいようにやられるんだろうな。
俺の勘がそう言ってる。
「…行くんだな。」
「…おう。俺は冒険者になるよ、親父。」
「死ぬなよ。どうしようもなくなったら逃げろ。俺が言いたいのはそんだけだ。」
「ありがとな、親父。」
「お前が選んだ道だ。それに……シシは我が子を谷に突き落とす、だったか?ミオが言ってたんだが、案外的を射てると思ってな。俺が見られなかった分まで、存分に外の世界を見て回れ。土産話でもしてくれりゃあ、それが最高の親孝行だ。」
「…分かった。任せとけ!」
最初は反対された。けど俺がてこでも折れないと分かったときからは、ずっと背中を押してくれてたんだ。
―――俺の、最高の親父だ。
初夏。緑が力強く葉を広げる季節に、俺の新たな人生が幕を開けた。
Side END
あとがき
本作初めての全編Sideストーリーとなりましたが、如何でしたでしょうか?
衝撃的な出会いから始まった主人公に対する思いを、離れることで初めて強く実感したルート君。
やはり大切なものは手に届かない場所に行ってから、はじめて気付くことが多いですよねぇ。
そんな彼の今後は書こうとは思っていますが、いつ書くかは全くの未定です。
本編に絡むように進むのか、はたまた本編とは離れた場所でSideとして進むのか…それは今の私には分かりません。
彼の初恋の行方は未来の私の筆先に懸かっているということで…それでは!
次回、主人公の視点に戻ります。




