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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第2章 曙光と絆の先へ
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第51話 失われなかった家

第2章 曙光と絆の先へ

第1幕 開雲見日

第51話 失われなかった家

Side レルデップ・クール



「それにしても、ミオさんとの出会いは印象深いものでした。あれほど個性的な方にお会いする機会は、私とてそうそうありませんよ。」

「そんなにか?デップさんは都の方にだって行ったことがあるんだろ?前にいろんな人を見て来たって言ってたじゃねぇか。」

「当時はそれでも驚いていたのですがね……ミオさんは格が違いました。もう私が彼女を超える衝撃を味わうことは無いでしょう。」

「ミオってそんなに変わってるのか…?」

「それはもう―――」


 村での滞在予定も今日で最終日だ。私たちは例年通り塩や衣類を売り、代わりに根菜や干し肉といった長旅でも品質の変わらない食材を仕入れておく。

 利益はほとんど出ない。安く売り高く買い取る―――半ば慈善事業だが、生まれ故郷を助けるためならば本望だ。


 次に会えるのは恐らく来年の今頃。

 その時レザフが生きているのか、私が生きているのか、はたまた二人とも死んでしまうか……先のことは誰にも分からない。

 だからこそ、別れに悔いがのこらぬように、思ったことは全て語り合っておくのだ。


 しばらくして、荷物の確認をしていた商会の者が声をかあげた。


「会長!帰りの用意ができました!」

「分かった。……どうやら今年も、お別れの時間が来てしまったようですね。」

「おう。来年もちゃんと来てくれよな。村の皆で待ってっからよ。」

「ほっほっほ!あまり老骨に無茶を言わないでください。そろそろ息子に引き継ごうと思っているのですから。」

「ノスの野郎か?アイツぁ生意気なんだよなぁ…デップさんと違ってやりずらくなっちまう。」

「では、それまでにきっちり教育しておかなければなりませんね。ほっほっほ!」


 馬車の後について村の端へと歩きながら、そんな冗談を交わす。


 ノス―――ノサリウスは、私が不在の商会を上手く回せているだろうか?

 今回は経験を積ませるため、熟練の秘書を補佐につけて任せて来たが……いささか不安でならない。アレは優秀だが、それゆえに他者を見下すきらいがある。

 本格的に矯正するべきだろうか?……まぁ、それは今回の手際次第にするとしよう。


 そう考えていたその時―――

 私たちが向かっていた村の端に、土埃と風を巻き上げながら巨大な影が降り立った。

 大変見覚えのある赤い龍。私たちが知らぬはずもない存在だった。



Side END



***



 朝食を終えた私たちは急ぎレザフさんの村へ向かった。レルデップさんがまだ村に滞在しているかもしれない―――そんな期待を胸に。

 そしてその期待は裏切られなかった。


 村の端に着陸した私たちに、近くにいたレザフさんたちが慌てて駆け寄る。


「ミオ?どうしたんだ急に。ついこの間来たばかりだろ…まさか、森に何かあったのか?」

「いえ、森には何も。ただ私が、森を出ることにしたんです。レルデップさんがいらっしゃるなら、街までご一緒させていただけないかと思いまして。」

「そうなのか…?でも、昨日お前の家の方で光の柱が立ってただろ?」

「あぁ…」


 途端に胸が痛み、あの時の光景がよみがえる。

 私は歯を食いしばり、感情を押し込めた。


「……問題ありません。すでに解決したことですし。それよりレルデップさん、急なお願いで恐縮なのですが、街の方まで商隊に同行させていただけませんか?」


 レルデップさんは真剣な目で私を見つめ、静かに答える。


「それはもちろん構いません。けれども本当に大丈夫なのですか?顔色があまり優れないように見えますが。」

「大丈夫……では、ないかもしれません。でもそれはこちらの事ですから。それに…正直に言うとあまり思い出したくないのです。」

「そこまで言うなら、あんま深くは聞かねぇけどよ…」

「そうですね……ありがた迷惑かもしれませんが、道中でならばいつでも相談に乗りますから、誰かに話したくなったらいつでも言って下さい。」

「……ありがとうございます。」


 やはりこの村の人たちは優しい。だが今はその優しさに甘えられるほど、心の整理がついていない。

 私はぎこちない笑みを返すことしか出来なかった。


「……私たちはもう出発するつもりでしたが、ミオさんの準備は出来ていますか?」

「えぇ。必要なものは全て魔法の中にしまってあるので。」

「魔法の?まさか…!ぁ、オホンっ…失礼。それでしたら、よいのですが。」


 何かに気付いて一瞬目を輝かせたレルデップさんだったが、すぐにいつもの柔和な笑みを取り戻す。

 きっと虚界門のことを知っていたのだろう。魔力量に依存していくらでも広がり、しかも内部では時間が経過せず内容物同士が干渉しない虚界門は、行商人にとっては破格の性能だ。

 とはいえその分難しいので、入口を開くだけで上級魔法扱いだし、容量によっては特級上位の難易度に匹敵する。これは魔法を極めた達人たちがもつ特権のようなものなのだ。


 そこへ、村の方からから軽快な足音が響く。


「お、マジで来てたんだなぁミオ!どうしたんだよ、この前来たばっかなのに。」

「デップさんについて街に行くんだとさ。」

「え、街?何でまた…」

「前にも話したけど、冒険者になろうと思って。」

「え!?でもまだしばらくは鍛えるって…」

「ちょっと色々あってね。予定を繰り上げることにしたんだよ。」


 私の言葉を聞いたルートは驚きに目を丸くし、それから視線を落とした。


「そう、なのか……なぁ、冒険者になったらやっぱり、村にはあんま戻って来られないか?」

「え?まぁ、そりゃあ。旅をすることが目的だし、村には年単位で戻って来られないだろうけど……」

「……」


 さっきからルートの様子がおかしい。始めは「元気はつらつ」というふうだったのに、先ほどからは意気消沈し、思い悩んでいるようだ。


「えっと、ルート?」

「あ、いやっ……そのっ…そうだ!村の人たちに挨拶してかねぇのか?何も言わずに居なくなったら、みんなめちゃくちゃ怒るぞ…?特にあの四人組が。」

「あっ…わ、忘れれてた…!」


 思い出した目的にいっぱいいっぱいになっていた私は、言われてようやく思い当たった。


 その時、またしても村の方から走り寄ってくる足音が聞こえてくる。

 見れば、この2年ですっかり成長したエレンたち四人が、大手を振ってこちらへ駆け寄ってくるところだった。


 ―――そうだ。

 私は全部を失ったわけじゃない。守るべき約束に、目指したい場所。

 それから第二の家族。大切にしたいものがこんなにもたくさん、残っているのだから。

あとがき


ふぅ…久々に筆が乗る、書いていて楽しい回でした!

手元に残った”大切”に気付き、順調に気持ちを持ち直していく主人公。刻まれた傷跡は、きっと時間が埋めてくれることでしょう。

それでは…!


次回、様子のおかしなルート君。その胸にはいったいどんな思いが…?

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