第50話 夜明け
第1章 永遠と須臾の煌めき
第3幕 桑狐蓬矢
第50話 夜明け
お待たせいたしましたぁ…!
まさか展開が鬱過ぎて私が続きを書く気すら失せるとは……難産ランキング1位更新ですねぇ……
~Side ヴァルバティア~
(大丈夫、かな……)
家の方から立ち上る光の柱を、ぼくは羽ばたきを止めて見つめていた。
ミオは「お昼を獲ってきて欲しい」って言ってた。顔はお面で見えなかったけど、声がいつもより硬くて、どこか無理をしているように聞こえた。
たぶん―――ミオはあの光の柱のことも、最初から知ってたんだ。
ぼくを家から遠ざけるために、狩りに行かせたんだと思う。
(ミオ……)
しばらくして、光の柱は静かに消えていった。
つまり、ぼくを遠ざける理由になった”何か”が終わったってことだ。
ぼくは足で押さえていたラージボアを咥えて、家に向かって飛び立つ。これでミオが元気を出してくれることを、願いながら。
~Side END~
***
「………どう、しよ……ははっ…」
狐の面を外して、私は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。クロックの自爆で黒く焼け焦げた荒野に、木々の匂いは残っていなかった。
一日で全てを失った。家族も、家も、目的も。
手元に残ったものと言えば、お母さんの虚界門の中に入っていたものくらいしかない。
びっしりと書き詰められたノートや、時代を一つ先取りしたような魔道具の数々。世界に二つとないほど貴重な素材なんかもあるかもしれない。
でも、そんなものはどうだっていい。
手を伸ばすだけで届いた温もりも、寄り添って過ごした日常も、何もかもが戻らない。
灰色の空、日の光は私の心を映すように陰っていく。
どんよりとした重い風が吹いたかと思えば―――それは烈風に切り裂かれて散って行った。
『ミオ、大丈夫?』
「ぁ……ヴァル…そっか、お昼…獲ってきてもらったんだっけ…」
『うん!ほら、ラージボアだよ!ミオも好きでしょ?』
「うん…そう、だね…」
地面をいっぱいに映す視界の端に、彼の足が入り込む。
『……ミオ?どうしてこっち向かないの?』
「ごめん、今…ちょっと元気、出なっ、くてっ…」
堰を切ったように、涙がこぼれだす。
「お母さんとっ、クロック、がねっ…しィっ、死んじゃったんだ…!…もう、二度と、会えなくなっちゃった…!」
抑えていた感情が溢れ、喉の奥が締まる。
ヴァルは私を囲むように体を下ろし、降り始めた雨を大きな翼の片方で遮る。
『悲しいの…?』
「うぅ……ぐうぅっ…!っ、どうしてっ…!どうしてっ!…っ…うわあああぁぁぁ!何でっ!どうしてっ!!っぐ、ゔぅ……うあぁっ…!」
止めどない慟哭が、雨音に消えていった。
涙も枯れないまま、消耗しきった意識は薄れていく。その横でヴァルは、初めて見る弱りきった私に戸惑いながらも、ただ何も言わず寄り添ってくれた。
***
「うっ……」
肌を撫でる冷たい隙間風に目を覚ますと、そこはヴァルの翼膜の下だった。雨露をしのげるよう、覆ってくれていたらしい。
「ヴァル…?何で、外で……ぁ」
口にした瞬間、全てを思い出した。帰るべき家はもうない。二人の家族も。
『あ、ミオ!起きた?昨日は、泣いてたから……その、大丈夫?』
「ヴァル…その、ありがとう。そばに、居てくれて。まだ……大丈夫、では…ないけど……」
涙がぶり返す。でも、ヴァルの前で泣き崩れるばかりではいけない。必死に嗚咽を抑えて言葉をつないだ。
そんな私に、彼はぽつりと言う。
『…そう言えば、アリステラが言ってたよ?私が居なくなっても立ち止まっちゃダメだって。』
「ぇ……」
『言われた時は何か分からなかったけど、ミオが悲しくて動けなくなったら伝えてって言われてたんだ。たぶん、今のことだよね?』
息が詰まった。
お母さんは……私がこうなることを見越して、ヴァルに言伝を遺していたの…?
「ほっ、ほか、他にはっ?他には何か、言ってなかったっ?」
『えぇっ?う~ん、あんまり覚えてないけど……あ、目標が何とかって言ってた気がする。え~っと、確か……”ぼうけんしゃ”、だったかなぁ?』
「冒険者……」
そうか……そうだった。私は全部を無くしたわけじゃなかった。
いつの日か、お母さんと同じS級冒険者になると約束した。死に別れる直前にだって、理想を諦めないと誓ったばかりだった。
まだ夢の一つも叶えてない。アルにだって会いに行かなきゃいけない。ここで立ち止まっている場合なんかじゃない。
「っ……ヴァル、ありがと。」
『…もう大丈夫?』
「うん。私、冒険者になるよ。」
『”ぼうけんしゃ”が何かは分からないけど、ミオが元気になってくれたんだったら、ぼくもうれしい!』
視界を覆っていた靄が晴れたような気分だ。
涙はまだ乾かないけれど、やるべきことがもう一度心に灯った今、前に進む力が湧いてきた。
「まずは、朝ごはんを食べよっか。」
『あっ!そうだよ!見て見て、ぼくが昨日狩ったラージボア!ちゃんと見てよ!』
「はいはい、分かったよ。」
雨上がりの朝の空気は少し冷たく、でもどこか清々しかった。荒涼とした大地には不釣り合いなほど、軽やかな夜明けの風だった。
***
第1章 第3幕 完
第1章 完
あとがき
祝!第1章完結!
それにしても50話ですか!総文字数は12万文字超、投稿開始から半年も目前です!いやぁ色んな意味で長かったような短かったような……
とは言え第1章はこの物語の序章―――つまり旅に出る前の”プロローグ”であって、次回の51話からようやく獣剣の本編へと話が広がって行くわけなのです!
と、いうわけで!
次回、冒険者になるため、早速レルデップさんに会いに行きますよ!




