第49話 魔神の魂片
「第1章 永遠と須臾の煌めき」
「第3幕 桑弧蓬矢」
「第49話 魔神の魂片」
二度も締め切りをブッチしてしまい、申し訳ありません…!本っ当にお待たせいたしましたっ…!!
色々と理由はあるのですが、突然スランプになってしまって…
次回以降の更新は、”水・土のどちらかに不定期”ということでお願いいたします。
安定しない更新が続くかもしれませんが、これからもよろしくお願い致します…
Dy02-SK
『■■■■■■■!!■■■■■■!!!!』
光り輝く聖鎖に縛られた魔神の魂片は、理解不能な奇声を上げ、禍々しい泥のような瘴気を撒き散らして暴れていた。
瘴気は腐りきった生ごみような激臭を放ち、吸い込むだけで吐き気を催す。しかも触れれば魔力の制御が乱され、魔力腺が切られているのか皮膚がピリピリも痛んでいる。
不快な奇声と悪臭の精神攻撃のみならず、直接的にも魔力制御を乱してくる。
あらゆる手段でこちらの集中を乱し暴れまわる魂片を、私が抑えていられる時間は長くないだろう。
(お母さんは、こんなのを体の中に封じ込めてたの…!?)
欠片でさえここまでの脅威である神の魂に、私は恐れ慄いていた。
『”聖なる神よ。大いなる光の神よ。我が切々たる求めに応え、闇を討つ清浄の力を与え給え。”』
吹き荒ぶの瘴気の嵐の中で、澄んだ詠唱が響き渡る。
それは魔神の魂片を囲む正三角形と、その頂点に位置する三つの魔法陣を描き出した。
『”祓除。其は邪を滅する威女神の加護なり。
拭浄。其はあらゆる魔を打ち払いし聖光の息吹なり。
封絶。其は悪すら包み込む慈悲の御手なり。”』
描かれた魔法陣は互いに繋がり、天まで上る巨大な結界が築いた。
それは魂片から噴き出す瘴気を遮断し、聖鎖を握る私にようやく新鮮な空気が戻って来る。
『”現世に跋扈せしめる魑魅魍魎を、天中の幽獄へ招かん。いざここに顕現せよ!神獄へ続く門扉!”』
声高に唱えられた魔法名とともに、結界内部から凄まじい光が噴き上がる。
魂片の奇声は苦痛に悶える悲鳴へと変わり、噴き出す瘴気は光に押し流されてやがては浄化されていく。
明らかに手ごたえがあるように見える。だが光に揉まれながらも、魂片は未だ鎖と結界から抜け出そうと力強くもがいていた。
『…小片とは言え、やはり”神の魂”となると容易ではありませんね。』
「だっ、大丈夫なんですかっ!?」
『全力は尽くしますが……一分で封印を終えるのは不可能です。』
「つまり……封印自体は出来ると?」
『この”奇跡”が発動した時点で、封印は確定した結末です。しかし”門”の向こうへ送るには、抜けられる程度まで清めなければなりません。彼の魂は呪いと憎悪に染まりきっています。浄化し終える頃には、シオン様の魔力が底をついているかもしれません…』
「じゃあ、私はもう縛るのをやめて、アレを攻撃した方が良いですか!?」
『はい。貴女様が浄化を肩代わりすればするだけ、シオン様の負担は減ります。どうか、彼のために力を貸してくださいませ。』
「そういう、ことならっ!」
(攻撃魔法は散々練習してきた。今こそ全力をぶつける時!)
聖鎖を解くと魂片は飛び回り、結界を体当たりで破ろうとし始めた。しかし光り輝く奇跡の障壁には、一切の揺るぎが無い。
私は手をかざし、練り上げた魔力で新たに魔法を紡ぐ。
「”聖火よ、ここに。それは聖山の空を駆ける光龍の焔。我が意に従い、敵を焼き尽くせ!熾天烈火!!”」
結界内に黄金の炎が満ちる。
魂片の悲鳴は一層痛々しい物へと変わるが、この魔法だけでは”浄化”とやらを終わらせることはできないようだ。
「”炎よ、闇よ。それは星の光。命散らして最後に輝く須臾の煌めき。その烈威を以って尽滅せよ!超新星!!”」
内部で起きた爆発が、結界に干渉して凄まじい音と光が発生する。だが、これでもまだ終わらない。
「”烈日の怒り!!”」
「”斬裂暴風域!!”」
「”極寒が齎す氷嵐!!!”」
…
……
………
何発の特級魔法を使ったのか、もう覚えていない。
それでも思いつく限りの魔法を打ち込みつづけ、ようやく結界の中の様子が変わった。
『■■…■■………■■■■…』
「はぁ…はぁっ……ど、どうだ…?」
『……どうやら、彼の魂も力尽きたようですね。』
散々噴き出していた瘴気は鳴りを潜め、奇声にも力が無い。魂片は空中で力なく浮遊していた。
その瞬間、魔法陣の中央に”門”が開く。
いくつもの天鎖がのび、抵抗する力を失った魂片を絡め取って、ゆっくりと門の中へ引きずりおろしていく。
やがて門は閉ざされ、結界と魔法陣も消えた。焼け焦げ、抉れた森に静けさだけが戻ってくる。
「おっ…終わった……」
体から力が抜けて膝をつく。
大量の大魔法を使ったせいで魔力は残り少なく、傷ついた魔力腺の痛みが全身を駆け巡っていた。
『シオン様、魔神の魂の欠片は天上の檻に封印されました。』
『……ようやく、終わったか…帰れ、ノイ。1秒でも早く。これ以上、ボクに魔力を使わせるな。』
『承知いたしました。』
振り返ると、女性の形をとっていた煙は静かに霧散し、シオンの姿も薄まって消えかけていた。
『契約を、する。手を出せ。』
彼の絞り出すような声にお母さんの最後が重なる。
反射的に差し出した手を、シオンは乱暴につかんだ。
『我、英霊を従え、邪に抗う者なり。
軌跡を共にし、その旅路に勝利の栄光を齎さん。
終点にて彼の者を戦列に加え、共に戦えり。
其との約定の下契約せん。』
つかまれた右手から、光があふれる。その光景は、やはりアルとディニアさんが契約した時とほとんど同じだった。
光が収まると、手の甲には”火に包まれた剣”の紋章が刻まれていた。同時に、残っていた魔力が一気に引きずり取られる。
「ぐぁっ…!?」
『……クソッ、まだダメか。ミオ、ボクは寝る。詳しい説明は次に起きた時にしてやる。祝福に関しては必要になったらだ…じゃあな。』
「えっ、ちょ、待ってよ…!」
呼び止める声は虚しく荒野に消え―――そばにはもう、誰も残って居なかった。
あとがき
母は死に、従者も死に、新たに得た仲間も沈黙。主人公の心には、ぽっかりと大きな穴が開いてしまいました。
その隙間を埋められるのは…離れていった彼らの次に近しい人たちだけです。
次回、絶望に負けるな、主人公…!




