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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
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第48話 永遠の如き生涯。されどその幕引きは須臾に等しき

「第1章 永遠と須臾の煌めき」

「第3幕 桑狐蓬矢」

「第48話 永遠の如き生涯。されどその幕引きは須臾に等しき」


遅くなりました…

書き上がったのでどうかお納めください。

 この森では珍しく、乾いた風が吹く晴れた庭。


「…15年、ありがとうな。」


 お母さんは、いつものように。けれど今回はお母さんに代わって私が作った生き木の玉座にもたれかかり、力なく言った。

 斜め後ろには、クロックが無言で立っている。


 魔神の放つ気配なのだろうか、辺りには形容しがたい不快な雰囲気が漂い始めていた。


「それは…私のセリフだよ。」

「…楽しかった。正直、1304年の生涯で一番だったかもしれない。」

「………」

「色んなことがあったな…」

「…」

「私はもう、お前と一緒に居てやれない…けれどお前は前に進み続けるんだ。」

「……っ…」

「どうしても辛くなったら…アルフォンスの元を、訪ねると良い。きっと、お前を助けてくれる。」

「ゔんっ……!」

「………長かった。だがそれも今日で終わりだ。」


 泣いては、ダメだ。

 もう、決めたのだから。


 ―――ただ、最後に…


「ははっ、まだまだ甘えん坊だなぁ…そんなんじゃあ、心配になっちゃうじゃないか。」


 強く抱きしめたその体はやせ細り、もはや抱き返す力もない。

 嗚咽が、喉を引きつらせる。


「っ…わたっ―――私はっ!」

「…うん。」


 こぼれる涙が、仮面の裏を伝う。


「私はっ、絶対に、負けないっ!いつか、お母さんのっ、再来だって!…うぐっ…そう、言われるぐらいに…!」

「…うん。」


 涙で、前が見えない。それでも、お母さんが優しく笑っているのが分かる。


「……ぐっ………ぅっ…強く、なるからッ!」

「……その言葉だけで、十分安心できるよ。だってお前は、覚悟を貫き通すことの意義を、知ってるだろう?」

「っ…」

「だから、そろそろ―――”お別れ”だ。」

「自爆プロトコルの起動ワードを検知致しマシた。」


 若竹色であったクロックの目が、静かに赤く変わる。


「ミオ御嬢様、最後に私からも御挨拶させて頂きたく存じマス。貴女様が此の屋敷へ御出でになられてからの5116日の間御仕え出来た事は、私が起動してからの60943日間の内、最も重要な経験の一つで御座いマス。此の最も貴重で、得難い機会を私に下さった事に、至上の感謝を。しかし、今日を以って私がミオ御嬢様の御傍を離れざるを得ない事については、御詫び申し上げマス。また、本日より新たな門出を迎える御嬢様の無事と御武運を、心よりお祈り申し上げマス。」


 彼の言葉は、出会った時と同じ、完璧な礼で締めくくられた。


「二人とも、本当にっ…ありがとうっ…!」

「ああ」

「…起爆プロセスの開始まで、残り2分です。安全を御確認下さいマセ。」

『……しんみりするのは終わりだ。ここからは本当に覚悟を決めろ。欠片とは言え本物の魔神の魂だ。油断すればお前すら取り込まれる可能性があるってことを忘れるなよ。』


 そこまで口を閉じていたシオンが、苦々しげに言う。


「…分かって、る。」


 迷いは捨てた。覚悟も決めた。

 今は―――今だけは、感情も、記憶も、感覚も、全てをシャットアウトとして魔術の構築だけに意識を沈める。

 お母さんの自決後、魔神の魂を逃がさずこの場に釘付けにすることが、私の役割だ。封印自体はシオンがやってくれる手はずである。


「…”天光よ、ここに。それは祝福されし天上の息吹。我が衛となりて、此の身を守らん。天慈の聖護(アザファー)”」


 聖属性の障壁が、幾重にも重なり合って私を包み込む。


「…起爆まで、10、9、8、7―――」

「…ミオ、私は一足早く、旅の終点で待っているよ。」

「3、2、1、0―――」


 クロックの動力源として使われていた超高純度の魔力結晶が、意図的にショートさせられた。

 光が爆ぜ、轟音が森を駆け抜ける。


 瞬間、結界が2、3枚砕け飛んだ。その威力はかつて身をもって体感した怒れる紅龍(ヴァルグリス)のブレスに、勝るとも劣らない。


 2秒、3秒…続く爆炎によって結界がもう2枚削れたところで、ようやく静かになる。


 煙が晴れた先には―――何も、残っていなかった。

 15年を共にした家は跡形も無く、水臨樹はなぎ倒され、地面は高温にガラス化している。


 その爆心地、私の眼前に、晴れた煙から姿を現す影があった。


『■■■■■■■■■■■■■■■!!■■■■■■■■■!!!』

「っ…!」


 不定形な黒いモヤ。それは世界を拒むか、あるいは世界に拒まれるように、周囲の空間を歪ませている。

 私が知る中でソレに最も近いのはシオンだが、それよりもはるかに存在感が薄く、酷く邪悪なモノだ。

 ソレが放つ声は、黒板を爪で引っ掻いたような、アルミホイルを奥歯で強く噛んだような、言いようのない強烈な不快感を掻き立てる。


 アレは存在していてはいけないモノだ。本能がそう訴えかけてくる。


「”天晴の衛霊(エウクラ)”、”緊縛の(ウォルグ・イロウ)天鎖(=アディンネ)”!ぐぅっ……シオンッ!」


 精神防御を施し、展開した聖属性の鎖がモヤ全体を包むように拘束する。

 ソレの意識はこちらには向いていないようだが、縛る鎖に抵抗する力は荒れ狂う波のように強大で激しい。

 長く保てそうにない私は、歯を食いしばりながらシオンの名を呼んだ。


『我らが契約に従い、その力を以って世界を救済せん。かつて魔神の瘴気に侵されし幾千の土地を、その祈りで以って浄化せし人類復興の象徴、”救世の聖女”よ、我が召喚に応じ、顕現せよっ!』


 シオンの口から紡がれる詠唱。それに呼応するように魔力が線を成し、地面に魔法陣が描かれる。

 陣が完成すると同時に巻き起こる風とあふれる光。現れたのは、シオンと同じエメラルドグリーンの煙だ。

 やがてそれは、荘厳な修道服を纏った女性の姿を取った。


『…私をお呼びとは珍しい。英霊”ノイ・タブラス”、召喚に応じ…と、口上を述べている場合ではなさそうですね。』


 ソレの抵抗は時間とともに激しくなっている。耳をつんざくような理解不能の奇声を上げながら、鎖を引っ張って波打つように蠢いていた。


『アレは魔神の魂の欠片。もろもろの理由で顕現は1分が限界。何が何でも封印しろ。』

『相変わらず口の悪いお方。ですが、承知いたしましたわ。』

あとがき


アリステラさん……はぁ…もうこれ以降彼女が出てこないと思うと、気分が落ち込みます。

さて、母であり魔法の師でもある彼女がクロックとともに亡くなり、局面は魔神の魂の封印へと移ります。


次回、封印ための奥の手としてシオンが召喚した聖女ノイの実力や如何に。


ちなみにヴァルは主人公に言われて自分のお昼を狩りに行っていて、詳しくは言われていませんが何となく状況を察している状態です。

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