第47話 「誓い」
「第1章 永遠と須臾の煌めき」
「第3幕 桑狐蓬矢」
「第47話 誓い」
本編ちょっと短めです!
突然現れたパステルグリーンの煙。シオンと名乗る大精霊の登場に、それまでの悲しみも恐怖も吹き飛んで、純粋な驚きだけが胸を満たした。
「お母さんも、精霊と契約していたの?」
「ああ。例の歴史書にも書かれていた、”落第生の評価が突然逆転した”という話は覚えているか?」
「うん……あ、まさか…!」
「そうだ。その時にこのシオンと契約し、私は真なる魔女となったんだ。」
―――つまり、彼が言っていた最初の”英雄譚の立役者”というのは、そういうことだったのか。
ならば”現状の命綱”というのは―――
「シオンが、お母さんを生かしているってこと?」
『察しがいいね。その通り。ボクがアリスのボロっボロな魔力腺を無理やりつなぎ止めてやってるのさ。……ホント、心の底から感謝しろよ。本来ボクの魔力は、こんなことに使うほど安くないんだからな。』
「彼の憎まれ口はあまり気にしないでくれ。こうは言いつつも、毎回助けてくれるから。」
『おい、ボクは身を削る思いでやってるんだぞ!ボクの魔力は”来るべき時”のためのものであって、本来キミのような死にぞこないの苦痛を、引き延ばすために使うようなものじゃない!』
シオンの怒りが部屋に轟く。
突き放すようなその声にはしかし、どうしようもない悲痛さが滲んでいた。
『さっさとボクを適当な弟子に引き継がせていればよかったんだ!そうすればボクがムダに魔力を消耗することもなかったし、キミが……こんなに苦しむこともなかっただろっ…!』
「言っただろう…これは、私のわがままなんだよ。」
『……もういい。それで、今度こそボクを彼女に継承するってことでいいんだな?』
「ちょ、ちょっと待ってよ!それってつまり、お母さんが死ぬってことなんじゃ…」
理解した瞬間、再び冷気が背を這い上がる。
けれど、それを引き留めるように、お母さんの手が私の手を握った。
「聞け、ミオ。」
その声も、手も、微かに震えていた。
「確かに、私とシオンの繋がりを絶てば、私は死ぬ。これはすでに限界を超えた状態であって、彼の真摯な介護によって延命されているに過ぎない。」
「こんな状況になるまでお前に打ち明けなかったのは、私の罪だ。だがもう時間がない。取り憑いている魔神の魂は、私が死ぬか、抑制できなくなった瞬間に私の体を乗っ取るだろう。」
「私の体は魔法に最適化され過ぎている。それが魔神に渡れば、世界中が戦火に包まれるかもしれない。だから……手遅れになる前に私は、死体も残さず跡形もなく消えなければならない。」
「それに、体を失った後の魔神がどんな悪さをするかも予測がつかない。だから”介錯”が必要なんだ。残酷なことを言うようだが、ミオ。お前にしか頼めない。私が逝った後、魔神の封印を―――頼む。」
英雄の、最後の願いだった。
神すらをも打ち倒して歴史にその名を刻みながら、死に様すら人類に捧げるその覚悟は、まさしく大英雄のそれであった。
『魔神の封印に関しては、ギリギリボクの領分と言えなくもない。力を貸すことはできる。
けどそれだってアリスと契約したままじゃ無理だ。
……彼女は心も体もとっくに限界で、いつ乗っ取られてもおかしくない。今だって体を内側から焼かれるような痛みに耐え続けてる。』
出来ることはもう一つしかない。
答えは出ている。けれど、心が追いついていない。
思えば、兆候のような出来事はいくつかあったのだ。
15年も一緒にいて気が付けなかった自分に、沸々と怒りが湧く。どうしてあの時、些細な違和感を追求しなかったのか。
……いや、例えそうしていたとしてもお母さんが話すことは無かったんだろう。
それに、打ち明けられたところで私に出来ることなんて無い。
どこでもそうだ。
例え世界が変わろうが、現実っていうのは本当に……無慈悲で、理不尽極まりない。
私はおもむろに、いつかお母さんに送られた狐の面を取り出した。
これはケジメだ。この面を付けたら、もう迷わない。
決めたことを―――やり遂げるまで。
「…お母さん。私はこの先、理想は必ず押し通して見せるよ。もう二度と理不尽に負けたくない。」
未だ感情の整理なんてついていない。それでもただ一つ、はっきりしている思いがあった。
―――面を、かぶる。
「やるよ。お母さんを、これ以上苦しませるわけにはいかない。」
あとがき
鬱な話は筆が全然進みませんねぇ…過去一の難産でした。
さて、半ば諦めから覚悟を決めた主人公によって、長きにわたる魔女の苦難に終止符が打たれます。
次回、英雄の終着点。




