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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
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第45話 紅蓮

第1章 永遠と須臾の煌めき

第3幕 桑狐蓬矢

第45話 紅蓮


《重要なお知らせ》

次回以降は投稿日を改め、水・土での投稿となります。

よって次回の投稿日は10/25(土)となりますので、よろしくお願いします。


Dy02-SK

 私たちは村での用事を済ませ、帰途についている最中だ。鮮やかな夕焼けが広がる空の上で、お互いだけの優雅な道程である。


「いやぁやっぱりレルデップさんもいい人だったなぁ…あそこまで全員優しいと、あの村に何かあるんじゃないかと思うほどだよ。」

『別に何もないでしょ。あそこはでっかい岩のとこみたいな変な感じしないし。』


 そんな他愛もない話をダラダラと続けていると、気付けばもう家が奥の方に見えて来ていた。

 この世界に転生してから早15年。前世の「常に何かに追われている」ような感覚が抜けきって、こうしてなんでもない時間をただ享受する意義を理解した。

 確かに娯楽は少なく、何もすることが無い退屈な時間は大いにあって、それが大半である。しかし時間効率などを頭から捨て去り、ただその時々でやろうと思ったことができる余裕というのは、何物にも代えがたい一種の贅沢とも言えるのではないだろうか。


 …いや、そう言えば私にとっては魔法や剣が娯楽のようなものなのか…?そうなると前世とあまり変わっていない…?しかし転生前後で私の心境は大きく変わっているし…


「う~ん?」

『…ねぇミオ、もしかしてまた変なこと考えてる?』

「いやー、別にー…」

『もう着いたけど』

「ういー」


 呆れ気味なヴァルの声にもう一度考えてみれば、ただ今の私が幸せならそれでいいのだから深く考える必要は無いのだろう。

 そう思いなおし、いつの間にか玄関前に着陸していた彼の背から降りた。


「ヴァルはもう寝る?」

『うん、おやすみー』

「おやすみ。」


 ヴァルは家の前の立ったまま朽ちた水臨樹のうろ(・・)で眠る。

 私は彼がその中で丸くなり、目を閉じるまでを見守ってからドアノブに手をかける。すると、中から微かに咳をする音が聞こえた。


「お母さん?大丈夫ー?」


 ドアを開けて中に入ると、その音がお母さんの寝室から響いていることに気付く。風邪でもひいたのだろうか?しかしどうやら、ただ咽ているだけではないようだ。


 その苦し気な音は終わる気配が無く、少しでも息を吸うたびにまた吐き出しているようで、まともに呼吸ができているように思えない。しかも途中から痰が絡まったような水音まで混じり、何かを落としたのかガラスが割れる音までする始末だ。


 これはただ事ではないと、靴紐も緩めないブーツから無理やり足を引っこ抜き、急いでお母さんの部屋まで行ってノックも無しに扉を開く。


「ちょっと大丈―――お母さんっ!!」


 相も変わらず散らかり放題な部屋の奥、大きな作業机の上に立ち並ぶフラスコの一つが落ちたのだろう。砕け散ったガラス片が床に散らばっている。

 その作業机の上では長引く咳に目をつぶって眉根を寄せ、ただそれに耐えるお母さんがいた。顔色は青く机に腕をついて俯いており、口を押える指の隙間からは―――



 鮮やかな赤い血が滴っている。



「”光癒(ウォルグ=リーア)”…あれっ、”光癒”!…何で効かないの!?”天光よ、ここに。それは人を護りし聖尊の慈悲。我が意に従い、彼の者を癒せっ!天陽の微笑(リアーパル)”っ!!」


 何度治癒魔法をかけてもお母さんの咳が止まることは無い。それは特級治癒魔法の完全詠唱であっても変わらなかった。

 今まで何度だって練習して実際に使ってきた魔法が、突然その効力を失ったのだ。無力感という冷気が足元に忍び寄り、体温を奪っていくようだ。それはすぐに恐怖へと変わって、私を焦燥に駆り立てる。


 ”魔法が使えない?何でこんな肝心な時に!”

 ”咳ばかりで全然息が吸えてない…このままじゃ…”

 ”嫌だっ、いやだイヤだッ!そんなのダメだ!そんなはずない!”


 想定外の事態に勝手に頭が回り始め、やがてそれはとっ散らかって制御不能なものになった。

 瞬間的にあらゆる思考が駆け巡り、その全てが拾い上げようとする網をすり抜けて流れて行ってしまう。


 咳込み続けるお母さん。その口から吐き出される血は回を増すごとに量も増えており、手で抑えきれなくなった彼女は真っ赤に染まった口元をさらけ出して、止められない咳嗽反射に苦しむことしか出来なくなっていた。


 咳の度に血が飛び散って私の白い着物と赤の袴に跡を残す。

 新たに喀血された血液が口角から流れ出して、すでに机の上に収まりきらなくなった血だまりが床にまで手を伸ばし、紅蓮の花を咲かせた。


「あっ……あぁっ…!」


 呼吸が苦しい。心臓がうるさい。何でこんなことになった?

 窓から入る夕焼けの光が部屋中を紅く染めるのに、お母さんの血だけははっきり見える。

 助けるにはどうすればいい?得意の魔法は効かないのに。


 浮かび上がった思考は、汲み取れずに流れて行く。指先一つ動かせず、口からは意味のない音だけが漏れ出るようにして発せられるばかり。


 おびただしい量の出血に焦燥は加速し、今や足先や指先は冷え切って感覚がなく、ただお母さんの咳と喘鳴の音だけが私の意識にこだました。


「ぜひゅっ…ゴホッ…がっ………」


 ―――アリステラは、呼吸困難による酸欠で意識を失い「べちゃり」と血だまりに突っ伏した。


 同時に、ミオの思考も突然電源が切れたように停止する。

 絶対にありえない、ありえてはならない現実に、彼女の意識が本能的に拒否反応を示したのだ。


 血液の匂いが充満する寝室。先ほどまでの騒音は嘘だったかのように家中を静寂が支配した。











 ガダッ、ガダッ、ガダッ―――バンっ!

 大きく重たい足音が廊下で響き、半開きだった寝室のドアが勢いよく開かれる。


「マスター!」


 入ってきたのは夕飯のため倉庫に食材を取りに行っていたクロックであった。彼は玄関を開けるなりセンサーがとらえた、濃い血の香りに緊急対応機構を作動させたのだ。


「マスター、私の事が分かりマスか?マスター!」


 彼は瞬時にアリステラへと駆け寄り、体には触れずに意識の有無を確認する。


(…意識無し、出血多量。スキャン起動…出血部は肺。状況からして酸欠による意識喪失と診断。対応を開始。)


 論理コアが状況を分析し、優秀なセンサーが状態を観察し、極めて冷静な思考プロセスが最適解を導く。

 その対応はうつろな目で立ち尽くすミオとは対照的であり、リミッターを解除した彼の駆動系が唸りを上げてアリステラを抱え、床に横向きで寝かせて処置を始めた。


あとがき


…………

…………………………遂に、始まりましたね。

第1章、その”最終盤”の開幕です。

……アレッ!?イツノマニカ2000PVコエテル⁉…アッ……


《盛大な咳払い》


次回、アリステラは何故、喀血したのか?その真相と共に、伏線の回収が始まります。

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