第44話 成り上がった商人
第1章 永遠と須臾の煌めき
第3幕 桑狐蓬矢
第44話 成り上がった商人
「よっ…ありがとヴァル、お疲れ様。」
『じゃあボクはお昼探してくるね~』
「行ってらっしゃーい」
私が降りたのを見てすぐに飛び立つヴァル。アレは村に着くかなり前からもうお腹がすいていたな…?
森の方へと飛んでいくヴァルから目を離して前を見ると、レザフさん他数人の村人たちが迎え出てくれていた。
「いらっしゃいミオ。調子はどうだ?」
「今日も最高ですよ!そうそう、この前話したスコーパーですが、今日来る前に駆除しておいたのでしばらくすれば森も元に戻ると思います。」
「ホントか!ありがてぇ。じゃあ約束通りデップさんを紹介すっかね。ほい、このヒゲモジャでハゲのおっさんガッ、いってぇ!?」
茶化すよう言ったレザフさんは、隣に居た長いヒゲとスキンヘッドが特徴的な外套姿の壮年男性に頭をひっぱたかれた。
「お耳汚しをして申し訳ない。一応、紹介にあずかったレルデップ・クールと申します。」
「これはどうもご丁寧にありがとうございます。ミオ・フロラインです。」
差し出された右手を握る。その手はいくつもの剣ダコで固くなり、ゴツゴツとした質感になっていた。
「おや?」
「どうかされましたか?」
「あぁいえ、言うほどの事では…」
「あ、もしかして私に剣ダコが無いからですか?」
「…はい。腰に剣を差されていますし、何よりあなたほどの強さでタコが無いはずはないと思っていたのですが…」
おずおずと、心底不思議そうにいうレルデップさん。一度言い淀んだのは、「腰の剣は飾りか?」という皮肉になると思ったからだろうか。
「私の場合痛くて鍛錬を続けられないので、タコは魔法で治してしまうんです。」
「魔法も使われるのですかっ?…あ、いえ失敬、これは失言でしたな。」
「あははっ、大丈夫ですよ。確かに私は獣人ですが魔法もできる…というか、正直剣よりも魔法の方が得意ですよ。」
村の人たちは獣人のことを知らないので、容姿を不思議がられたことはあったけれど……こんなふうに世に言う”獣人の普通”との違いを指摘されるようなことはなかったので新鮮だ。
「そうだぜデップさん。ミオの魔法は凄いんだ。昼間でも夜になっちまうし、ケガも一瞬で治しちまう。俺と一緒に狩りぃ行った時にゃあ、タフベアをわざとおびき寄せて魔法で一撃だったんだぜ?」
「それは、何とも…豪傑の行いに相違ありませんな……いえ、すみません。年頃の娘に豪傑は不適切でしたな…」
「私は気にしませんが…というより母に近づけたようで、むしろ嬉しいかもしれません。」
「あー……なぁ、立ち話も何だし、そろそろ家に来ないか?ちょうど、ミオに教えてもらったマードの根が昨日からいい具合になってるし、淹れようか?」
「マードの根をいれる…?まさか、お茶ですか?それは…」
マード草とは前世で言うタンポポの事であり、私は嗜好品の無い村で手軽に楽しめるよう、いわゆるタンポポコーヒーを勧めたのだ。
「マード茶!いいですね、ぜひ飲ませてください!あ、レルデップさんはきっと飲んだことは無いでしょうし、一度試してみてはどうでしょうか?紅茶と違って苦みが特徴的なお茶ですよ。」
「そう、ですね。それでは一杯、頂きましょうか。」
***
Side レルデップ・クール
私の外套をはためかせ、ともすれば飛ばされてしまうのではないかと思うほどの烈風が吹いた。
そして風の中心から、赤き龍は舞い降りる。
艶やかな深紅の鱗、一軒家ほどもある体躯、凶悪なまでに鋭い爪に、悠々と風を掴む翼。実物は初めて見たが、それだけでドラゴンであると理解させられる”格”があった。
その背から降りるのは、これまた龍にも負けぬ存在感の持ち主であり、白絹のような柔らかな髪と、そこから生える狐耳が一番に目を引いた。
耳があるということは尾もあるわけで、それは抱えるほど大きく膨らんでおり、その手触りは触らずとも極上のものであろうことが分かる。
振り向けば力強い鮮赤色の瞳がこちらを見据え、さながら神話に語られる”戦乙女”のような芯の強さがうかがえる端正な顔立ちだ。
その身を包むのは、商人同士のつてで聞いた極東の民族衣装のようで、瞳に合わせた鮮やかな赤とクリーム味のある白とのコントラストがメリハリを利かせている。
腰に差す剣もサーベルのような反りがあるもので、おそらくこれも極東発祥の”カタナ”という武器なのだろう。白の下地に黒で荒波の模様が鞘に彫られた、シンプルで上品な装飾だ。
どれもこれもが珍しく、職業柄幾千人と相手にしてきた私でさえ見たことが無い特徴の方が多い。「…とは言え、話してみれば案外普通の子供なのではないか?」そう思わずにはいられなかった。
だがその希望は易々と打ち砕かれることになる。
まず自己紹介の時点で彼女は”フロライン”と名乗った。しかもレザフから事前に”魔女の娘”であると聞いている。
”魔女フロライン”―――そう聞いて真っ先に出てくるのは、あの三傑の一角と名高い”氷星の魔女”だ。
けれど、ここでは耐えた。「まさか氷星の―――」などと聞くのは、彼女に対し失礼極まりないからだ。
しかし握手をした私は、驚きに声を漏らしてしまう。なぜなら彼女の手にタコが無かったからである。
行商の道中に自衛するためのものとはいえ、私も剣を嗜む者であるため分かる。この少女は私よりもはるかに強い。それなのに、修練を積めば必ずできる剣ダコが無いというのは一体どういうことなのか。
私はまたも驚きを隠せなかった。
なんと獣人であるにもかかわらず、中級魔法の中でも難しいとされる治癒魔法を、当たり前に使うと言うのだ。
もうそれからはボロボロだった。商人としての体面など完全に崩れ去ってしまった。
しかしこの少女がいかに例外的であるかは身をもって思い知った。
ゆえに、「外見に見合わぬ経験と能力を持ち、精神的にも熟した将来有望な新星」というのが、彼女に対する私の第一印象となった。
Side END
あとがき
ふぃー!何とか主人公の描写をリカバリーできましたぁ…!
危ない危ない。まさか成長した主人公の外見描写を忘れるとは…さすがに笑えませんね…
さて、今回はいかがでしたでしょうか?
スコーパーを蹴散らした主人公は村へ到着し、レルデップさんに対して鮮烈な印象を植え付けました。
彼が今後どんな影響を与えるのか、気になるところでございます。
次回、魔女様がお話に出てくる…予定です!




