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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
37/65

第37話 やんちゃ坊主を鎮める方法

第1章 永遠と須臾の煌めき

第3幕 桑狐蓬矢

第37話 やんちゃ坊主を鎮める方法


2025/09/29

 細部各所の表現を変更

2025/10/04

 ルートに対する主人公の口調を敬語に変更

2025/10/12

 細部各所の表現を変更


本編長めです!

 ヴァルが生まれて2週間。私の体力は滞りなく回復していったが、体というのは動かさなければ鈍るものであることを強く実感した。現に朝の素振りの剣筋は、ヴァルグリスさんと会う直前と比べてわずかに精彩を欠いていたのだ。

 何はともあれ、元通りとはいかずともすでに不調は無い。再び己を鍛えるのみである。


 この2週間で最も大きな変化と言えば、それはやはりヴァルのことだろう。

 彼の成長は目覚ましく、最初の3日間こそお母さんやクロックに怯えた様子で私にべったりであったのに、お母さんが液化魔力を与えてからというもの、枷が外れたかのように活発に動き回るようになっていった。


 初日のポーションもそうだったが、彼は魔力のあるものに対して強く興味を惹かれるらしく、そういった物がわんさかあるお母さんの寝室や倉庫の方に行こうとする。

 始めは足取りがたどたどしいので微笑ましく見ていられたのだが、成長速度が著しいのか日を追うごとにどんどんすばしっこくなり、今では気を抜くとすぐ見失ってしまう。


 しかもその好奇心の向かう先が魔力だけでなくなってきていて、今やいつ何に突撃するか分からない立派な問題児と化していた。


「あ~もう、だから何でもかんでも口に入れたらダメなんだってば!」

「くくくっ、大変そうだなぁママさんは。」

「見ての通りですよ…おいだからコルクを咥えるなって何度言ったら分かるんだ!」


 朝食を終え私が飲もうとしていた魔力回復薬の口にガジガジとかじりつくヴァルを引っぺがし、動けないように胡坐の中で拘束するが、そんなことはお構いなしだと力を籠めるヴァル。


「キュア!キュゥウ!」

「ダメだ!特に窒息は治癒魔法でも治せないんだからマジで勘弁してくれ!」

「くははっ!まぁ、そうだな。確かに治癒魔法の効果は絶大だが万能じゃない。くれぐれも気を付けておけ。」


 ヴァルと格闘する私を見て哄笑するお母さんは、言い終えると紅茶のカップを傾けていた。本を開きながら足を組むその姿は”寝起き以外完璧超人”の名に恥じぬ整いようである。


「キュウゥ!」


 人の苦労を笑うのは如何なものかと視線だけで抗議していたところ、意識が逸れたのを好機と見たか、頭だけは自由にできる状態のヴァルが私の太ももに「ガブっ!」とかぶりついた。


「あだぁ!?こ~の問題児めぇ…!」


 即座に足を身体強化(カチカチ)にしたが、ここまでヤンチャをされると頭にくるものがある。

 まさか彼に向かって手を上げるわけにもいかず、ヴァルを睨みつけながらやり場のない怒りをどうにかこうにか抑制していく。


「随分お悩みのようだから、私が一つアドバイスを授けよう。今の彼は目に映る何もかもが未知の状態なのは分かるな?この屋内という狭い世界で、目につく”知らない物”全てに興味を示すのは道理だ。だが逆に考えてみろ。この家以上の未知を見せつけてやれば、いざここに戻った時”ここは大した物も無い場所だ”と思わせられると思わないか?」

「つまり、出かけて来いってこと?」

「そうだ。だが延々と森を歩くのはあまり意味をなさないだろうから、どこか目新しい場所まで行ってくると良い。あぁそうだ、例の大精霊の泉には行かない方がいい。子供とは言え龍は精霊の天敵だからな。」

「この森であの泉以外に近場で目新しい場所というと…森のほとりにある村とか?」

「ん、いいじゃないか。…いや待てよ?そう言えばお前まだあの村……さすがは深窓の令嬢。最寄りの人里にさえ行ったことが無いとは…恐れ入った。」

「過保護すぎて連れて行ってくれなかったのはどこのどなたでしたっけ?」

「ふむ…まぁ一理ある。村に行くのは良い選択だと思うぞ。決して大きな村じゃないが、ここよりははるかに人が多い。ヴァルにとってもいい刺激になるだろう。あ、道中狩りを見せるのもいいかもな。」

「…分かりました。鈍り解消のためにも狩りは良いでしょうし、用意が済んだら出かけてきますね。」


 相変わらず自分の不利を見ると途端に話を逸らしてなかったことにするのだから、ずるいと言う他ない。

 だがそれももう慣れたものだ。こういう時は私が忘れるまで突き放してしまえばいい。


「ん…?どうして敬語なんだ?」

「はて、ご自分でお考えになったらよろしいのでは?」

「すまん。」

「自業自得というものです。」


 私の返しに間髪入れずに謝罪したということは、分かっていて聞いたのか。ならばなおさら許すつもりにはなれない。

 どうせ私は村から帰るころには忘れているのだから、せいぜいそれまで反省していればいいのだ。



***



「キュア!」


 背負う籠(当然クロック印)で揺られるヴァルの鳴き声を聞きながら、森を歩くこと数時間。道中コカトリスやその他魔物との遭遇戦はあったものの、森の浅い所ならば自由に歩き回れるだけの実力はあるので狩ったり撒いたりと危なげない旅路であった。


「お、そろそろ森の端が見えてきたかな。」


 水臨樹は大きい。それはもう途轍もなく大きい。ゆえにまだ距離はあるが、森が途切れる先から差し込む陽光が見えていた。


「お母さん以外の人間には初めて会うんだよな……ちょっと緊張してきたかも。」

「キュっ、キュウ!」

「ヴァルも緊張してるの?あ、気になったものを噛んだりしたらダメだよ?人のものだったら色々面倒なことになるかもしれないからね……ん?」


 微かに感じたのは生き物の気配。でもこれは魔物や動物のものじゃない。耳を澄ませて聞こえてくるのは、四足ではなく二足の足音だ。


「…おーい!そこに誰か居ますかー!?」


 音がした方向に向かって少しだけ魔力を乗せて声をかけると、木の向こうから人影が姿を現した。距離は50mくらいだろうか。顔は見えず、大人の男性らしいことぐらいしか分からなかった。

 向こうも私を認識したのか、きょろきょろと辺りを見回しながら大きく手を振っている。


「ヴァル、ちょっとつかまっててね…!」


 ただの移動に時間をかける理由は無い。足に魔力をこめ、あっという間に人影の元にまでたどり着いた。


「あ、あんた、随分と足が速いんだな…」

「そう?こんにちは。えーと…私はミオです。あなたの名前を聞いてもいいですか?」


 そこにいたのは茶髪茶目の青年だった。背には弓を担いでいるので狩人なのだろうが、結構な細身であまり強そうには見えないし、雰囲気に覇気も無い。身長は高めで、私の頭がちょうど彼の肩程度だった。


「え、あぁ、こんちは。俺はルートだけど…っていや、それより!何であんたみたいな女の子がここに居るんだ!ここは魔の森だぞ!?あとさっきみたいな大声は出さないでくれ!魔物が寄ってきたらどうするんだよ!」


 言葉に感嘆符を付けながら小声で話す器用なルート青年はかなり焦っているようだ。

 …考えてみれば確かに迂闊だったか。とはいえこの辺りに住まう魔物に見つかったところで私の敵ではないし。心配させたようなので、謝っておくだけ謝っておくか。


「あーごめんなさい。次は気を付けます。」

「分かればいいんだが…あんたどうしてこんなとこに?」

「私は森の奥に住んでる―――、あ、すみません。さっきので引き寄せられた奴が居たみたいです。」

「はぁ?…って、おい、ありゃあ…!?」

「ブオオオ!!」


 私が察知した直後、背後の方から響く鳴き声。振り返ってみれば、100mほど先で地面に前足をこすらせ、今にも突撃する瞬間を探っている大猪(ラージボア)が居た。あの様子では突進してくるまでもう秒読みだろう。


「おぉラージボア!ラッキ~!」

「どこがラッキーなんだよ!?俺たちじゃ相手できねぇ!逃げるぞ!」

「まぁまぁ落ち着いて。大丈夫だから。」

「あんた死にたいのか!?ラージボアの突進を知らないわけじゃないだろ!?」

「いいから見てて下さい。あ、後ろに居て下さいね?」


 確かにラージボアの突進は脅威だ。あのダンプカーのような巨体はそれに見合わぬ速力を持っている。素人ならば、この距離でにらみ合った時点で8割方が死を覚悟するだろう。

 だが私は素人ではない。鍛錬を積み、今までに幾度となくあれを狩ってきた身だ。


「~~っ!俺は知らないからな!」


 いくつか問答してようやく説得を諦めてくれたようだ。ラージボアの死角になる水臨樹の影から、彼が逃げ始めたまさにその時。


「ブオオオオオ!!!」

「キュっ、キュウゥ!!」

「大丈夫だよヴァル。私に任せて。」


 気合十分な咆哮と共にラージボアは走り始め、私との距離がぐんぐんと縮まる。


「おいあんた!マジでやばいって!」


 50m。

 虚界門から雪宗を取り出し、構えをとる。


「~~~っ!クソっ!」


 30m。

 ルート青年が必死の形相で私に駆け寄ってきているが、あの様子なら放っておいても大丈夫だろう。見る限り彼が戻るよりも私が斬る方が早い。


(月影流・居合…)


 15m。


飛燕三日月(ひえんみかづき)


 抜刀とともに二度斬り払い、刀身に纏う魔力がかまいたちのようになってラージボアの前足を根元から両方とも切断した。支えを失ったラージボアは倒れ込み、顎から腹にかけてを地面にこすりつけながら轟音とともに失速していく。


 そして私の目算通り、目前で停止する。こうなればあとは簡単。


十六夜円鏡也いざよいえんきょうなり

「キュキュキュ!!」


 跳び上がって空中で首を両断。そのまま一回転して絶命したラージボアの背に着地。最後に籠から投げ出されてしまったヴァルを回収すれば―――


「うん!完璧!」

「キュウ!キュウ!」

「おっと、大丈夫、大丈夫。もう終わったからね~。」

「……うっそだろおい…」

あとがき


久しぶりに世界観が広がるお話でしたね!

魔の森(水臨樹の森)にある魔女様の家。実はそう遠くない場所に人里があります。

魔女様の家を中心に、ヴァルグリスさんVS.ドラグイーターの戦場跡地と点対称の位置にあります。


次回、村へ凱旋

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