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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
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第35話 待ち望まれた命

第1章 永遠と須臾の煌めき

第2幕 千載三遇

第35話 待ち望まれた命


今回の本編、ほんのちょ~っとだけ長めです!

「う………ぁ、ダメダメ。寝ちゃダメだ……はぁ…」


 お母さんがお見舞いに来てくれた翌日、カーテン越しに中天へ昇る陽の光が見える。

 あの魔法で体調が改善したのは確かだ。しかし精神的な疲労には効果が及ばず、二週間の時をかけてすり減った気力のしわ寄せに、私は必死の思いで抗っていた。


 魔力は常にカラカラ。そのせいで食欲も失せるほどの吐き気に、視界が歪むようなめまい、頭が割れんばかりの頭痛と、まさに状態異常のオンパレードだ。

 終わりの見得ない苦痛は、私の精神を蝕み続けている。特に眠気は限界に近い。まぶたに鉛がぶら下がっているかのようだ。


「このままじゃ、君が孵るよりも先に私が力尽きちゃうかもなぁ…」


 今や抱えるほどの大きさになった卵が、力強く魔力を脈動させる。

 始め炎のような橙であった卵の模様は、死んだ兄弟を取り込んで母親の鱗を思わせる深紅へと変わり、孵化が近いことを予感させていた。


「君は、産まれてきたらどんなドラゴンになりたいかな。」


 私はこのままぼーっとしていては眠ってしまうと思い、半ば無意識的に卵へと語りかけていた。


「ヴァルグリスさんみたいな、勇敢で、高潔なドラゴンかな。それとも、気ままに空を飛び回って、誰にも縛られずに生きる自由なドラゴンかな…そういえば、ドラゴンは羽ばたいて飛ぶんじゃなくて、魔力を噴き出して飛ぶって本で読んだなぁ。ドラゴンは魔力を手足みたいに使うんだねぇ…」


 卵が私の独り言に応えることはない。しかしあまりの絶不調さに思考がフワフワと浮かんで移ろうようになった私が、それを気にすることも、話を止めることもなかった。


「ドラゴンの鱗って、奇麗だよねぇ。光を反射して、キラキラ輝いてたんだ。ヴァルグリスさんの…。……君の鱗も、あんなふうに真っ赤で奇麗なのかなぁ。…あのブレスも凄いよねぇ。私、もうちょっとで死んじゃうところだったけど…なんでだろうね。あれを怖いと思えないんだ。」


 一度閉じたまぶたはもう開かない。それでも眠るまいと、つらつらと口から言葉をこぼす。半分眠っているような状態で紡がれる独り言は脈絡もなく、ただ浮かんでは消える思考が駄々洩れになっているだけだ。


「…ごめん、ね。私が、ちゃんと、できなくて…君の、兄弟を……私は…殺して、しまったのかも…しれ…………」


 ―――そこで、ミオの頭がガクリと肩に項垂れた。彼女の意識が途切れたのだ。



 制御を失った魔力の繭が、解ける。



***



 真っ暗な世界で、一人ぽつんと立っている。


 地面は磨かれた石でできているようで、素肌の足で歩くとひたひたと冷たい。

 靴も靴下も履いておらず、服さえ着ていなかった。一糸まとわぬ、と言うんだろうか。


(ここは…?……私は、何をして…っ。)


 頭がズキンと痛む。思わず押さえるが、痛んだのはその一度だけだった。

 辺りには一切の風が無く、見えるのは自分の体と足元の地面だけ。ただ、なぜかここがとても広い事はわかる。


(―――何か、忘れているような気がする……っ。)


 また、頭が痛む。この断続的な頭痛は何なのだろう?

 そもそもここはどこで、どうしてこんな場所にいるのだろう?


「―――!―――――!」


 体は動くが、声は出なかった。静寂だけが冷たく私を包み込んでいる。思えば足音もしないし、自分の呼吸の音も、鼓動の音もしなかった。


(何でだろう、凄く、落ち着かない。)


 恐怖、ではない。

 …いや、これは恐怖なんだろうか?何か、とても大切なことを忘れていて、忘れていること自体を恐れているように思う。


(私は……ッ!)


 一際大きな頭痛が私を襲う。その瞬間、頭の中に景色が流れ込んできた。


『機会は待ってくれない。自分からつかみに行かなければ、強さは手に入らないぞ。』


 顔の見えない藍髪の女性が、私に語りかけている。


『我は、そろそろの、ようだ………後は、頼むぞ…狐族の、娘よ…』


 景色が進むにつれ、頭痛はどんどん酷くなる。


『私は戻る……頑張れよ。』


 頭が割れるんじゃないかというほどの痛み。それは、記憶を掘り返そうとするほど酷くなっているようだ。


(痛いっ、痛いっ!……でもっ、思いっ出さなきゃ、ならない、気が…するっ!)


 あまりの痛みに意識が遠のきそうになった―――その時。


ガシャアアアン!!


 闇が満ちていたこの空間に白い亀裂が入り、粉々に砕け散った。

 それと同時に、全てを思い出す。モヤがかかって見えなかった現実が戻ってくる。


「卵ッ!!うっ、痛った…!」


 起き抜けに自分が出した声が頭に響き、ズキリと痛む。それに耐えながら薄目を開ければ、あの真っ暗な世界ではなく自分の部屋に戻ってきていた。


「たっ、卵は…」


 やはり私は眠っていたようで、液化魔力は解除されていた。しかし卵は模様を失うことなく、未だに魔力の波を漂わせ続けている。


「よっ、かっ、ったあぁぁぁ……!」


 どうやらもう液化魔力に入れておく必要は無いらしい。ほっとして、卵の表面を撫でてみる。

 感触はすべすべとしていて、温かい。柔らかく魔力の波を発しながらも常に一定の魔力を吸収しており、その様はまるで呼吸しているかのようだ。


「きっと、生まれてきてくれるよね…」


 2週間に及ぶ無茶の代償は重く、一昼夜寝た程度では治らない。今でも軽く視界は揺れているが、何とかこの命をつなぐことができたのだから、その甲斐があったと言える。

 気付いたら、だんだんとこの卵のことが愛らしく思っている自分がいる。これが母性本能というやつなのだろうか。今ならこれを守るためなら何でもできるような気がする。


「ふふっ」


 魔力は絞られた雑巾のような状態だが、それでも健気に吸い取るこの子のためならば惜しむべくもない。

 抑えきれぬ喜びに笑みが漏れ、卵を撫でる手も止まらなかった。



***



 しばらくそうしていただろうか。再び眠気がやってきて、もうひと眠りしようかと思ったところだった。



―――パキっ



 何かが折れるような、割れるような音が微かに耳に入る。私の意識は冷や水をかけられたかのように一瞬で浮き上がった。


「ま、まさか…!」


 前面に、それらしきヒビは見えない。ゆっくりと、優しく、卵を回してみる。

 まだ、まだ見えない。さらに回して、反対側が見えて―――



 そこに、ヒビが入って盛り上がった殻が、あった。



 私が力加減を誤って傷つけたのなら、盛り上がるのではなく凹んでいるはずだ。つまり…これは、内側から力が加わったということ。卵の中で準備を終えた赤ん坊が、外へ出ようとしているということ。


「お、お願いっ…!頑張って!」


 全身は強張るし、鼓動もうるさい。

 そうだろう。何せ一度諦めかけた苦労の果実が、まさに今実るか否かの瞬間なのだから。


パキ、パキ…


 ヒビは時間をかけて、少しずつ広がっていく。

 ある程度の大きさになると、赤い口先が顔を出した。まだ深紅とは呼べない、明るい赤だ。

 胸が震える。涙が出そうだ。


パキ、パキ…


「キュー!キュー!」

「あぁ、ああ!よかった…!」


 ヒビはやがて穴となり、殻を突き破って小型犬ほどのその子が這い出した。それは私の胡坐の中でか細い、でも確かに命の強さを感じさせる鳴き声を上げ、私の足に頭をこすりつけながら自らの誕生を主張している。

 肌に触れるその子の体温は火傷しそうなくらい熱いが、むしろそれが命の証明のように感じて、私に安心感をもたらした。


「キュー、キュー…キュー……キュゥ…」


 しばらく経って鳴きつかれたのか、その子は足と布団の間に鼻を突っ込んで眠った。肌を通して伝わる早い鼓動と短く繰り返す呼吸が、私の努力…ひいてはヴァルグリスさんの覚悟が報われたのだと教えてくれる。


「生まれてきてくれて…ありがとうっ…!」


 今までに経験したことが無いほどに大きな感動に、私はただ打ち震えて、静かに涙を流すのだった。



第1章 第2幕  完

あとがき


 私としては、戦闘シーン以外ではこの作品で現状最も良い出来だと思うのですが…いかがでしたでしょうか?

 主人公の苦節連なること二週間。死を賭したヴァルグリスさんに託された卵が、遂に孵りました。

 この仔龍はこの後の展開でも重要な役割を果たしますので、ここまでこの話を進められたことに私はなんだか感慨深いものを覚えます。


 さて、今回にて第2幕「千載三遇」は終幕を迎えました。

 その幕名にもある通り、主人公にとって大変重要な出会いが三つありました。

 それすなわち、”リュドミラ”、”アルフォンス”、そして今は名も無きこの”仔龍”です。

 それぞれ”剣の師匠”、”兄妹にしてライバル”、”我が子”という肩書がある訳ですが、それが今後のお話でどのように絡んでくるのかは…まぁ、お楽しみにということで。

 ともかくとして今回またこの作品に一つ区切りがついたわけですが、問題はこの後の第三幕がですね…


 今現在まさにプロットが崩壊している最中なんですよね。


 いえ、仔龍が生まれることはもうこの作品の初期構想からあったのですが、この後の構成がこのままでいいのかと思ってしまいまして。

 というのも、第28話にてアルフォンスと旅路を共にすることになった”ミニディニアさん”、憶えていらっしゃいますか?


 実は彼女当初のプロット通りなら存在しないんですよ()


 そんなふうに色々その場その場のアドリブで進めていった結果、第28話で新キャラとして登場したばかりのミニディニアさんは、第30話でそれまで大した登場シーンも無くフェードアウトしてしまったわけなんです。

(もしかしたらその辺りを読んでいて違和感を感じた人も居るかもしれません。なので今後28~30話の間に彼女のためのお話を差しこむか、もしくは過去編として入れたいなーなんて思ってはいます。)


 とまぁ、そんな凄惨な新キャラ殺しがあったのでですね、この後ではそんなかわいそうなことが起きないように、最低限魅力が書ききれるプロットを練り直したいなーとか思っていたら…あれよあれよという間に、色々前提がぶっ壊れちゃいまして。

 現在進行形で完全な練り直しを求められているんですね()…ホント、どうしてこうなった……


 長々と話しましたが結論ですね、”第3幕の投稿までかなりかかる”かもしれません。正直今のところ完全に見通しが立っていない状況でして…


 ほんっとーに申し訳ないのですが、どうか、どうか気長にお待ちいただきたく存じます……はい……この未熟な作者をどうかお許しください…


 ただ、これだけは確実なので言わせていただきますが、失踪だけはしません!絶対に!

 もうホントこれだけは100%断言できます。え?何でかって?


 それはですね…『獣剣』の本筋がまだ始まってすらいないからですよ。


 まぁまぁまぁ、これ以上はただのネタバレなのでね。私が口を挟むのはここまでといたしましょう。

 そんなわけで、しばらくの間は投稿済みの話の修正、改善を進めつつ、第3幕のプロットづくりに頭をひねることになりそうです。


 それではまたいつか、そう遠くないうちに……

《意訳:皆さんに忘れられないうちに会えるといいなぁ…(涙)》


 Dy02-SK

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