第32話 奥の手
第一章 永遠と須臾の煌めき
第2幕 千載三遇
第32話 奥の手
2025/09/05
細部各所の表現を変更
2025/09/14
いくつかの詠唱と魔法名を変更
2025/09/15
細部各所の表現を変更
2025/10/21
細部各所の表現を変更
『お前たちが失った、この至高なる光で消し飛ぶがいいッッ!!!!!』
紅龍の口内で途轍もなく凝縮され、うなりを上げる焔の渦。そこから発せられる魔力は凶悪なほどの威圧感と、残酷なまでの殺意をはらんでいる。
光り輝く火球の周囲には魔力光がきらめき、その頻度は今までに見たどんな魔力現象よりも多い。つまりそれは、あの家の周囲を耕しまくったミラ師匠とお母さんの魔法すらも凌駕しているということだ。
この様子を見て流石に相手の力量を悟ったのか、大蛇は尻尾を巻いて森へ逃げ出す。
そして私もようやくあの光の危険性に思考が追いついた。
「ぁ、やっっっば…!!?”天光よっ、ここに!それは祝福されし天上の息吹っ、我が衛となりてこの身を守らんっ、天慈の聖護”っ!!」
瞬時に枝の上でしゃがみこみ、首を手で守りながら足で体の前面を覆う。背を幹に預け、全身を覆うように出来るだけ小さな3重の…いや、それでは足りない。5重の結界を全球状に張り巡らせる。
今この瞬間においては、結界を構成するこの正多角形の集合体だけが私を守る最後の命綱である。そう思うと非常に心細いが、これ以上追加で保険を掛けるだけの時間は与えられなかった。
『今さら遅いわッ!喰らえ、そして地獄に堕ちろッッ!!!この裏切り者がァッッッ!!!!!』
ドッッッッッ!!!!!
刹那、世界から音が消える。否、全ての音をかき消す轟音が、この巨大樹の森全域に鳴り響いた。視界は光が埋め尽くし、背を向けて目を閉じていてもなお貫通するほどの閃光が走る。
私が貼った結界の最外殻は一瞬にして砕け散り、二枚目もほんのコンマ数秒しか耐えられなかった。三枚目と四枚目は最低限の時間を稼いだがしかし、これも散る。
最後に残った五枚目は―――
「…た、たす、か…った?」
―――全体にヒビを走らせながらも、ギリギリで持ちこたえていた。完全詠唱で効力を高めていなければ、私は今頃死んでいたという事実に身震いする思いだ。
視界は先の光で潰され、未だ耳鳴りは激しく自分の声すら聞こえない。あまりの爆音に平衡感覚すらイカれているようで、立てずに四つん這いになるのが精いっぱいだった。
「”天慈の聖護”、”天衛の揺籃”、”光癒”」
割れかけの結界を破棄して三重で張り直し、温度や気体成分などを正常化するものも貼っておく。最後に回復魔法をかければ耳鳴りも止んで、ようやく周囲に意識が向き始める。
森はひどい有様であった。
そこにもはや木は無く、爆心地は巨大なクレーターと化し、半径2kmほどの領域が丸ごと焼け野原となっている。
私が居るのは爆心地から1kmほどの位置。ちょうど森と爆心地の中間地点だ。地面には炭化した水臨樹の残骸があちこちに転がり、さっきの爆発の規模を物語っている。
羽ばたく音に見上げてみれば、空では渾身の一撃を放ったドラゴンがゆっくりと地面へと降りてくるところであった。
『ふぅ…ふぅ………フン、地を這う蛇風情が我に手を出すなど、身の程知らずにも限度が有ろうが。』
地に降り立ったドラゴンは、足元に転がる大蛇の死体を見下ろして勝ち誇るように言う。
『…しかし我に見舞ったこの傷が、生涯で最も死に近づいた一撃であることに変わりはない。その不屈の闘志には敬意を表する。』
今度は態度を一変させ、少しだけ頭を下げ祈るような姿勢をとった。
私はその姿に見とれていた。ドラゴンは、やはり本の通り高潔で誇り高い精神を持っていたのだということに。
(ドラゴン…!やっぱりかっこいい…!!)
だから、まだ誰も気づいていなかった。
狩られたはずの獲物が―――虫の息で、まだ生きているということに。
「ギ、ギィ…ギシャアアアァァァァッ!!!」
『ぐぉっ!?』
突如「カッ」とエメラルド色の目を見開いた大蛇が、ドラゴンの喉笛に勢い良く噛みついたのだ!その牙は先ほどの肩口よりもさらに深く、強く食い込んでいく。
しかもそれだけに留まらず、何百mとある蛇の巨体をドラゴンに巻き付ける!火事場の馬鹿力なのか、全身雁字搦めにされたドラゴンは身じろぎ一つとることができない。
『ぐ、ぅ…やはり蛇は、どこまでも蛇なのだな…!騙し討ちなど、腐っても龍の血を引く者のすることかッ…!?この、卑怯者の、糞っ垂れめがっ!!』
ドラゴンの声音には、離れた場所から聞いてるこっちですら背筋が冷え込むほどの怒気が含まれていた。しかしそこには、騙されたことへの憎しみ以外の怒りもあるように感じる。
『我は、まだ……まだ、死ねぬ…!!死ねぬのだッ!』
「ルゥアアアアアアッッ!!!!」
魂から湧き上がるような咆哮と同時、龍の全身から大量の魔力が噴き出す。それはただの魔力放出の域を超え、全身の鱗にヒビを入れ、破片を吹き飛ばしながらのものであった。
その魔力は濃い橙に輝き、かつてミラ師匠が見せた”魔力炉”を起動した姿によく似ていた。
「ギッ、ギイ!ギシイァァァ!!?」
『熱いだろう。これは私の命の灯火であり、私の怒りそのものでもある……!この怒りで、今度こそお前の息の根を止めてくれようッ!!』
縛られた右腕が、大蛇の体を引き裂きながら力任せに引き抜かれる。そして自分の首に食らいつく大蛇の頭を「グワシ」と掴んだ!
大蛇は我が身を断裂される痛みに悶え、龍から口を離してしまう。
「ギッ、ギシャァ……」
『今度こそ、捕まえたぞ…!!』
今度は龍の左腕が飛び散る血飛沫とともに解放され、同じく大蛇の頭を掴む!
『我が威光で殺しきれぬのならば、この手で確実に握りつぶしてくれるわァッ!!!』
「ギ、ギギィ…ギシィ!」
ドドドドドッ!!!
最後の抵抗とばかりに、いくつもの土槍がドラゴンの足と腕、胸を貫く。しかしそれに全くひるむ様子を見せず、万力の握力が大蛇を追い詰める。
「ルアアアアアアアッッッ!!!!!」
「ギシャァ……」
そして―――大蛇の頭蓋はその脳髄と血液をぶちまけながら、ドラゴンによって原形をとどめないほどに握りつぶされた。
あとがき
いやぁ今回も書きたいことがいっぱいかけました!ドラゴンの戦闘描写とか、その精神性とか、主人公が使えるようになった魔法の一部とか…
私は満足です。
ちなみにここだけの話、ドラゴンさんもドラグイーターさんも、どちらもメスなんですよ…!
次回、この観戦を経て主人公が得るものとは!?




