第3話 1も17も変わらん
「第一章 永遠と須臾の煌めき」
の中の「第一幕 転生諸変」
の中の「第三話 1も17も変わらん」です
2025/06/15
細部各所の表現を変更
「あ、そう言えば名乗っていなかったな。私はアリステラ・フロライン。“氷星の魔女”なんて呼ばれていたりする。これでも結構すごい魔女なんだが……それは一旦置いておこう。一つ聞いてもいいだろうか?」
「あぃ。」
先ほどの彼女の発言に気を取られていたら、女性―――アリステラさんが先に話し出してしまった。仕方がないので、俺の疑問は一度置いておくことにする。
「その…君は見る限り”狐族”のようだし、いくら“白髪の”とはいえどうしてそんなにはっきり受け答えができるんだ?精霊族でも、変化の類でもないようだし…差し支えなければ教えてもらえるか?」
「…わぁらぁい。ぃるいらぁぉろあらぁんぃあぁれぇ…」
アリステラさんがかなり気になることを言っているが、彼女は俺のこの強烈に訛った喃語を理解できるのだろうか?俺が聞く側だったら絶望する自信がある。
「そうか…他にも何か無いか?」
どうやら彼女のリスニング能力は非常に高いらしく、こちらを見る瞳に困惑や誤魔化しの色は見られない。
一体どれだけ察しが良ければ今の発言を、それも一瞬で翻訳できるのだろうか。
ともかく、俺は一切を包み隠さずに答えた。
名を桜木澪ということ。
元は18の男であること。
目を覚ましたら赤ちゃんになってあの場所にいたこと。
前後の記憶が無いこと。
本当に間一髪だったことなどなどを、聞かれれば間髪置かずに正直に。
そうして受け答えを終えたのち、アリステラさんは一つの仮説を導き出した。
「ミオは恐らく“迷い人”だ。」
彼女の説明は続く。
「迷い人とは、不定期に現れる異界の者たちのことだ。一番有名なのは帝国の勇者召喚だが、稀に自然とやって来る場合がある。その一人になってしまったんだろうな。その体については詳しいことは分からない……が、世界を超える際に何かあったのだろう。実際、迷い人の中にはこちらに来た時に身体の一部を欠損した事例がある。」
何と!不可抗力とは言え四肢を失っていた可能性があるのか!なんとも恐ろしいことである。
だが、これでここが異世界であることも確定した。
すでに終わったことに怯えていても仕方がない。思考を切り替えていこう。
「…ミオはこれから、どうしたい?」
「?」
「今のところ君が元の世界に戻る方法は無い。これは時期的な問題じゃなく、技術的な問題だ。この命題に関しては古くから優秀な研究者たちやm帰りたい迷い人がその生涯をもって取り組んだが、あいにく成果はかんばしくなくてね。斯くいう私も、一時期はそれにのめり込んだものだ。」
そう言うと、遠い過去に思いを馳せているのか、どこともなく見上げながら一つため息をついた。
「…あぁすまない、話が逸れたな。要するに私が言いたいのは、君は元の世界には帰れず、なおかつ身を寄せられる場所は限られているということだ。今の状況で取れる選択肢は三つ。一つ、各組織が運営する孤児院に入ること。二つ、神殿に入ること。そして三つ、個人の里親を見つけその人物と家族となること。ただし二つ目の神殿に行った場合は、将来的に神官になることがほぼほぼ確定する。」
確かに、赤ちゃんになってしまった俺が生きていくには誰かの世話になるしかない。
憧れの異世界にやってきたと内心浮かれていたが、今の俺は彼女の罪悪感と善意のおかげで世話をされているに過ぎない。
今更ながらにその事実に対して理解が及び、どうしたものかと頭をひねる。
「私としては君を家族として迎え入れることを前向きに考えている…あぁ、罪悪感とかが理由ではないぞ。わたしは長い事この森に一人―――いや、正確には一人と一機で生活してきたのだが、いかんせん孤独でな。実は君を連れてきた当初から久々に子供を育ててみようかと考えていたんだ。」
「おぅなの?ぇも、ぉえはみらめろぉりろぉぢぁあぁい…」
「あぁ、それに関しては私も同じだから気にする必要は無い。私は魔女―――“真なる魔女”だから、そこらのエルフよりも長生きなんだ。今は確か1200の末だったか…まぁ1300歳くらいだな。だから私にとっては、1歳も17歳も大した差じゃない。」
(へぇーそうなんだ。1300歳……1300歳っ!?)
俺は口をあんぐり開けてフリーズしてしまった。いくら何でも驚きである。
1300年前というのは日本でいうところの8世紀、“710立派な平城京”でお馴染みの奈良時代だ。
そんな昔から生きているなんて、あまりにもスケールの大きな話に想像力が追いつかない。
「もし、それでも孤児院や神殿に行きたいのなら、わたしが信用できるところに責任をもって送ろう。君からすれば、私は出会ったばかりで信用ならない謎の魔女だしね…」
アリステラさんは寂しげに苦笑した。
対する俺は1300歳ショックにボケーっとしていた思考がようやく戻ってきたので、真面目に考えてみる。
実際のところ彼女の言うとおりだ。俺にとって彼女は初対面な謎の魔女である。
しかし先ほどまでの真摯な振る舞いから見るに、嘘とついてはいないはずだ。というか、そもそも俺を害する意思があるならまだ意識がないうちにあれこれ済ませているだろう。
「…ぉえは、あぃしゅであひゃんぃぉらぇれほぢぃ。」
判断理由はむしろ他に安心できそうな選択肢がないというところが大きいが、それを包み隠さず言う必要もないだろう。
「…本当にいいのか?」
「ぅゆ!」
「そうか…!分かった。それじゃあミオ、お前は今日から私の娘だ!」
先ほどとは打って変わって喜色満面。声音にも張りが戻っている。
ここまで大っぴらに喜ばれると、不思議とこちらまで嬉しくなってくるな。
「そうと決まれば、この家のもう一人の住人にも挨拶をしておいた方がいいだろう。おーい!クロック!ちょっと来てくれ!」
(そう言えば、この家にはもう一人…いや、もうイッキ住んでいるんだったか。しかしイッキとは一体どういう意味なんだ…?)
あとがき
主人公「爆破魔法!?結界!?何そr―――」
アリステラ「(意訳:俺のターン!!)」
まごまごしてたら先手を取られちゃいましたね。魔法に関してはもう少しお預けです。
いやー、それにしても衝撃的でしたね!1300歳ですよ?まさかのエルフどころかハイエルフに匹敵するご長寿さんでした!
あと一応主人公は会話を重ねるごとに滑舌が良くなっていたりいなかったり…
次回、アリステラさんの同居人が...!デュエル、スタンバイ!