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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
29/77

第29話 置いてけぼり

第1章 永遠と須臾の煌めき

第2幕 千載三遇

第29話 置いてけぼり


2025/09/04

 細部各所の表現を変更

2025/09/08

 細部各所の表現を変更

「それで、大精霊と契約してきたわけか。」

「はい!そのおかげでコントロールがすごく上達したんです!それに帰る途中でも水槍でスカーレットディアを仕留められたんですよ!仕留めた奴はミラ叔母様に食べられちゃったのでお師匠様にはだべさせてあげられなかったですけど…でも、もうディニア様が居ない状態には戻れないくらいです!」

『あのね、あなたの成長(せーちょー)に合わせてあたくしに移譲(いじょー)する魔力の(りょー)は少しずつ減らしていくから、いずれはあなた一人で制御(せーぎょ)できるようになるわよ?』

「それでも契約を解除する理由にはならないでしょう。もう僕が死ぬまで一緒にいてもらいますからね!」

『ま、まぁアルがそこまで言うのなら、答えてあげないことも…ないけれど。』


 初めてクロックを目にした時のように頬を紅潮させて、興奮気味に語るアル。彼に一生一緒宣言をされたディニアさんは少し照れくさそうだ。


「アリステラ・フロラインだ。氷星の魔女…と言っても、精霊には伝わらないかもしれないが、これでも結構な有名人だよ。」

『ディニアよ。名前も異名(いみょー)も聞いたことは無いけれど、アルの師匠(ししょー)なんですってね?』


 ディニアさんの手と、お母さんが差し出した人差し指とで握手を交わす両者。お母さんの方は微笑む一方、ディニアさんの顔は真剣だった。


「ああ。三カ月ほど前からな。」

『……ふーん?今は眠っていらっしゃるのかしら…?まぁいいわ。”彼”が目を覚ましたら挨拶させてもらえる?』


 その言葉で、お母さんの微笑みが崩れる。一瞬驚いたような顔をした後、仕方がないといったふうに苦笑した。


「…やはり精霊同士では分かるか…挨拶だな、分かった。」

「”彼”?誰か居るんですか?」

「いや、今はいないよ。上手くなったっていう魔術、見せてもらえるか?」

「もちろんです!いきますよ…!」


 強引に誤魔化されたような気がするが、お母さんが話さないということは今話す必要が無いのだろう。

 それに私はまだ、魔力の封印が施された後のアルの魔術を間近で見たことが無い。果たして以前に比べてどれくらい進化しているのか。


 目を閉じ、慎重に魔力を練り上げるアル。そっと目を開いて、呪文を唱えた。


「…”水よ、我が手に。水球(レタウ=ララブ)”」


 両手の間に集められた球状の魔力が、中心から湧き出るように水へと変わっていく。本来なら一瞬で水に変えられるところを、アルはゆっくりと、噛み締めるようにして変換していた。

 やがて変換されきった水は波紋一つない球体を形作り、彼の手の中で静止する。


「…できました。」

「凄いな…!目を離したのはほんの一週間だぞ!それでここまで上達するとは…やはりもともとの素養はあったということか。」

「私のよりも綺麗なんだけど!?そんな、負けた…!?」

『ふふ~ん』


 アルの成長に目を見開くお母さん、あまりのショックに項垂れる私、それを見てかける言葉が見当たらずあわあわするアル、興味なさげに窓の外を眺めるミラ師匠、アルの技量に満足げなディニアさんに、台所でお昼の用意をするクロック。


 三者三様の反応を見せる中で、私はあまりの事態に頭を抱えていた。

 わずか一週間前までは私が助け導くものだと思っていたのに、すでに彼は私を置き去りにして遥か先へとテレポートしていたのだ。一体どうして!?


 いや、分かっている。彼を邪魔していた障害がディニアさんの働きによって取り除かれたからだということは。分かっているがしかし、自分の技量に一定の自信を持っていただけにこんなにもあっさりと追い抜かれた事実を、私が受け入れられていないだけなのだ。


「…い、いや、負けない。負けないぞ…!アルっ!!」

「はいっ!!?」

「今に見ていろ!私はすぐに追いつくからなっ!!」

「あ、うん!僕も頑張ります!」

「いや頑張るな!追いつけなくなる!」

「えぇ…?」

『これが世に言う、”らいばる”ってやつなのね!』

「くくくっ、まぁ、二人とも精進しなさい。どちらもまだまだ荒研ぎが終わった段階に過ぎないんだからな。」

「…いいなぁ、まだまだ成長できる余白があるっていうのは…うらやましいなぁ……はぁ………」

「皆様方、昼食の御用意ができマシた。」



***



Side ■■■



 どれくらい移動したんだろう…幌がある馬車の荷台に乗せられてから、もう何日たったのかも忘れた。

 いつも頭に麻袋をかぶせられてるから、外の景色は全然見えない。

 …でも、そのおかげでいやなことを見ないで済んでるから、このままの方がいいのかも。


 この馬車は、たまに止まる。

 ご飯のときとか、御者の人たちが寝るときとか。

 ご飯はいつも、黒くてカチカチなパンとペラペラな干し肉だけ。あの人たちが食べるものからはいい匂いがするけど、近付くとぶたれたり、蹴られたりする。


 寝るときは一緒に乗せられてる女の人が連れていかれることもある。そういうときは悲鳴とか、泣き声とか、怒鳴り声がして怖いから、耳をふさいで寝る。


 それが嫌になってあの人たちに逆らったみんなは…殺された。だから、あの人たちには逆らっちゃダメ。


 そう言えば、それ以外の時にも止まることがある。

 そういうときは、遠くの方から怒鳴り声とか、悲鳴とか、泣き声とか、あと気味の悪い笑い声がする。

 寝るときと似てるけど、そのときとは違って何かが燃える音と、焦げる匂いがする。

 それは、私がさらわれた時と同じ…お父さんが死んだときと―――


「嫌…!嫌…っ!」


 思い出したくない、思い出したくない。

 …だから、できるだけ息を止めて、耳をふさぐ。


 …怖い。私、これからどうなるの…?お父さんは、どこに行ったの?


「お父さん…会いたいよ…っ!」



Side END

あとがき


…ま~た暗いSideですよ。本当に悪癖になってしまいましたね…

でも実際この時点で起こってることですし…それにいつか必ず救いは訪れます。

そう、この作品の”ハッピーエンドタグ”の名に懸けて!


次回、光陰矢の如し…月日は流れてってやつです!

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