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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
28/65

第28話 新たな仲間を連れて

第1章 永遠と須臾の煌めき

第2幕 千載三遇

第28話 新たな仲間を連れて


2025/09/04

 細部各所の表現を変更

2025/09/08

 細部各所の表現を変更

 泉に湧いた水が静かに森へと流れ出す小川に立ち、水を汲む。昨夜は遅くまで話し込んでしまったから、少々寝不足だ。まだ重たい瞼を冷たい水で無理やり持ち上げる。


「~っ!冷たいっ!」

『元は地下水だもの。冷たくて当然でしょう。』

「分かっていても言わずにはいられないんですよ。こういうのは。」

『分かっているのにどうしてそんなことをするのよ。』

「目覚ましのためです。ただでさえ寝不足なのに、意識が浮かびきっていない状態では何をするか分かりませんから。そのままだと普段では考えられないような、意味不明なミスをすることもあります。」


 言っていてお母さんの顔が浮かび上がる。

 普段の彼女が魔法を暴発するところなんて1mmも想像できないが、寝起きはその限りではない。むしろお母さんを起こすときは暴発の危険を念頭に置いておかなければ命は無いと言ってもいいほどだ。

 やはりあの人は寝起きさえしっかりしていれば完璧なのだ。


 今日はいよいよ家に帰る日だ。出発は朝食後すぐの予定だが、アルはまだ寝ていた。あれだけ夜更かしをすれば無理もない。私が目を覚ませたのは獣人として体力のある体だったからだ。

 ミラ師匠は目を覚ました時点でいなくなっていたが、大方朝食狩りへと出かけたのだろう。


『ホント、人間というのはつくづく不完全よねぇ。』

「もし人間が完全な生物であったなら、凄い勢いで数が増えるでしょうね。そうすると食料が足りなくなって土地の奪い合いになる。最終的には同族同士で血みどろの戦争になって滅んでいるんじゃないですか?」

『ありえるわね…どうして内輪で争っているのかしら。そんな愚か者ばかりだとは思えないけれど。』

「たとえ同族をな薙ぎ倒してでも我を通そうとする者がいて、その者が周囲を巻き込むからでしょう。もしくは、たとえ同族であってもその間に絶対に埋められない溝があるか……というか、どうして目覚ましの洗顔からこんな話になってるんです?思うんですけど、ディニアさんの疑問ってどれもこれも哲学的過ぎませんか?」

『さぁ?そもそもわたくしは”てつがく”が何かを知らないもの。聞かれてもわからないわ。』

「そうですか…」


 彼女の会話の焦点は私たち人間の視点よりも、もっと高い位置から無機質に俯瞰したものになりがちだ。日常の些細なことから突然真理を突くような話題に移ろう。

 それもあって彼女との会話はかなりエネルギーを使うが、それに見合う貴重な情報ばかりがまろび出るのでやめられない。


『…それにしても、本当に不思議よね。あなたは獣人族で、獣神に祝福されている。自然神に強く祝福された私たちとはあまり相容れないはずの関係なのに、どうしてか忌避感が湧かない。』

「えっと……神や神話関係の知識には疎いので、分かりませんとしか。」

『…まぁ、仲良くできるのであればそれ以上考えることでもないわよね。あ、アルが起きた。』


 例の契約によって繋がってから今アルが何をしているのか、何を考えているかが分かるようになっているらしく、彼女は私との会話を中断してアルが眠る掘っ立て小屋へと滑るように飛んで行った。


 この世界には実在するとされる”神”。

 創造主であり全能の神である”創世神”に始まり、世界の法則を司る”時神”、”界神”。

 元素を司る”炎神”、”水神”、”風神”、”地神”。自然神と生類神を兼任する”聖神”、”魔神”。生類神である”獣神”、”龍神”。

 主要な神と言われれば、この11柱が挙げられるだろう。他にも”剣神”、”戦神”、”慈愛神”など、前世で言う八百万(やおよろず)の神々とは似たようなもので様々な概念に対応する神がいるため、数えればキリがないのだといつかの本で読んだ覚えがある。


 今のディニアさんの話によれば、どうやらその内”自然神”と”獣神”の眷属はあまり相性がよくないらしいが、私たちは例外だとも言う。


 昨夜話題に上がった”高位精霊の気配”に関してもそうだが、私はこの世界の見識が全然足りていない。これからはもっと読書量を増やした方がいいのだろうか?しかしようやく勝手の分かってきた剣術をおろそかにするのは…魔法・魔術ももっとやりたいことだらけだし…


(う~ん、時間が足りない!)


 この先やりたいことは無数にあるが、ともかく目下最優先事項は無事に家に帰ることだ。まずはその一歩として、予備用に水筒へ水を汲むのだった。



***



「よし、じゃあそろそろ出ようか。」

『…もう行ってしまうのね。』

「え?ディニア様はいかないんですか?」


 腹ごしらえを済ませ、持ち物も全て背負った。「さぁ、あとは歩き出すだけだ」となったところで、泉の上から寂しそうに眺める彼女の声が上がった。

 それに返したのはアルだが、私も同じことを思っていた。


『ほら、この泉の魔力を管理しなければいけないから。わたくしが離れると結構な量の魔物が生まれるようになるわよ?それも継続的に。』

「それは、そうかもしれませんが…」

「うーん…?」


 それを聞いては仕方ないとは思うが、そうなると当初から彼女の契約の目的でもある”俗世を見る”ことができないのではないだろうか?


『あ、そうよ!危なかったわ、言われなければ忘れていたかも。ちょっと待ってね…』


 そう言って手中に生み出した水球の形を、粘土のようにグニャリと変える。形をこね回すと同時に魔力をこめていき、最終的に作られたのはミニチュアサイズの幼いディニアさんであった。


『よしっ!』


 彼女がそう言った瞬間、水が意思を持ったように動き出した。


『本体はここから動けないけれど、分身のこの子が経験したことは私にも共有されるの。だから連れて行ってもらえるかしら?』

「もちろん!」

『あと、分身は確かにわたくしみたいなものだけれど、こまめに本体にも会いに来てね。』

「はい!あっ、でもどのくらいの頻度で…」

『そうねぇ、大体20年くらいに一度でいいかしら?』

「にじゅっ、いえ。それならお安い御用です!」

「おぉ…」


 さすが1000年を孤独に生きた大精霊、こまめの基準が20年とは恐れ入った。しかし柔和に笑うディニアさんは満足そうだ。


「では大精霊様、いずれまたお会いする機会があればよろしくお願いいたします。」

『そうね、私の契約者の叔母ですもの。仲良くさせてもらいたいわ。』

「また20年後に会いに来ます!」

『待っているわよ、アル。』

「今のところ私は割と近くに住んでいますし、この場所も気に入ったので近いうちに来るかもしれません。」

「あ、僕もそうでした。やっぱり20年しないうちに来るかもです!」

『ふふ、今から楽しみね。それじゃあ三人とも、また会う日まで。あなたたちの旅路に、水の女神アウクァの祝福があらんことを。』


 この世界に来てから初めての別れ。少し名残惜しい気もするが、来ようと思えばいつでも来れる場所であることに変わりはない。それこそ、また会う日までの些細な別れというやつだ。

 しかし心の中で割り切るよりも前に、その空気に水を差す声がアルの手元から上がる。


感動的(かんどーてき)な別れのところ悪いのだけど、あたくしは一緒に行くのだからあまりしみじみする必要(ひつよー)はないんじゃないかしら?』


 見た目相応にディニアさん(本体)よりも幼い声で、少し舌っ足らずに話すのはディニアさん(分身体)であった。


『……昔のわたくしって、こんなに空気が読めなかったのかしら…?』

あとがき


う~ん、なんだか思った以上に泉イベントが長引きました。正直な話これに関しては一話2000~3000文字縛りが悪さをしたような気がします。

文字数が多くなりすぎるために重要な挟むべきイベントがいくつかの話に分割され、それで足りなくなってしまった文字数を背景や世界観描写で埋める。みたいなことが多発していたので…

今後はもう少しうまくまとめられるように頑張ります。


次回、まだ何も決まっていません!



~蛇足~


さて、ここらで神や精霊の裏設定について少しだけ語りましょうか。


人間は基本”聖神”の祝福を受けた存在で、神々の陣営的には一応聖神陣営に属するくらいの立ち位置です。

しかしこれは本当に”基本”というだけで、本編でも語られている通り獣人は”獣神”の祝福を受けていますし、エルフは水、風などの個人差はあれど”自然神”の祝福を受けています。

逆に今後登場する”魔神”を信奉するようになった(闇堕ちした)人間は”聖神”から見放され”魔神”の祝福を受けるようになる…というふうに、人間はどの神の祝福を受けるかは割と軽い感じで切り替わったりもします。


対して精霊は”自然神”の”眷属”であり、自然そのものを体現する者。まさに”八百万の神々”そのものに近い存在です。

道端に転がっている石や、森に生える木、その一個や一本全てに精霊が憑いています(微精霊と呼ばれる力や意識を持たず、居るかどうかも分からないような微かな魔力の塊みたいなものではありますが)。

彼らが上司である自然神から与えられた役目は自然の管理だけです。とはいえ自然の管理とは何もせずただ流れに任せるということでもありますので、大精霊など意識を持つ上位の者は基本暇を持て余しています。


そこでその暇つぶしの一つとなるのが、人間との契約なんです。彼らにとって人間は娯楽なんですね~。

しかし誰でもいいわけではありません。上司と仲の悪い”獣神”の眷属や、精霊の天敵でもある”龍神”の眷属なんかとはほとんど交流しません。

だからディニアさんは獣人である主人公に対して忌避感が無いことと、かつ彼女からすでに高位精霊の気配がすることに疑問を感じていたわけですね~。


~蛇足 おわり~

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