第26話 契約と封印
第1章 永遠と須臾の煌めき
第2幕 千載三遇
第26話 契約と封印
『わたくしと契約すればあなたの願いを叶えられるわ!』
「契約…ですか?」
水で作ったクッションにもたれかかり、尾びれをこちらに向けてニヤリと笑う大精霊。しかしそれを受けたアルの反応は懐疑的だ。
『そう。あなたが魔力をうまく使えないのは、その制御能力に対して保有する魔力が大きすぎるからよ。そうねぇ…例えるなら、羊が多過ぎて手に負えなくなった羊飼いのようなものかしら。』
「なるほど…?」
『そういうことだから、わたくしが好き勝手に動くあなたの魔力を抑え込めば良いのよ。ちょうど牧羊犬のような立ち位置ね。』
「そんなことが…!」
「大精霊様の言う通りだよ。事実、精霊と契約したエルフの子供が、途端に魔法が上手くなった…というのは良くある話だ。ただし、その逆もままある。」
『そうねぇ。ヤンチャな子や幼い子と契約を結ぶと、その影響を受けて今まで通りに魔法が使えなくなってしまうことはあるかもしれないわ。でも安心して、この泉にあふれる魔力から魔物が生まれないように管理しているのはわたくしなんだもの。魔力の扱いに関しては絶対の自信があるわ!』
彼女はその力を誇示するように、泉の水を操ってアルの彫像を作った。その再現度のすさまじさと言ったらなく、これに色が付いたら見分けがつかなくなるかと思うほどだ。
しかしそうまでしてアルに契約を進める姿に、私は疑念を抱いた。何か裏があるのではないだろうか、と。
例えば契約した後に体を乗っ取るような……いや、”自然の体現者”とも呼ばれる大精霊がまさかそんな悪霊みたいなマネをするはずはないが、聞いておいて損は無いだろう。
「あの、部外者が差し出がましいかもしれませんが、大精霊様はどうしてそんなに契約を結びたがるのですか?」
『それはもちろん、彼の願いを叶えるためよ。何と言っても巫女姫の息子たっての願いですからね!……けれど、そういうことが聞きたいのではないのでしょう。当然わたくしにも目的はありますわ。』
大精霊はクッションごとこちらに寄り、一段と声のトーンを落として言った。
『実はこの泉に移り住んでからというもの、一度も契約を交わせていないのよ。だから俗世の様子を見に行きたくて。そこにあなたたちが来たものだから、この機を生かさない理由は無いでしょう?』
「それって一体、どのくらい…」
『時間なんて数えてはいないけれど、そうね…大体1000年ぐらいはここにいるんじゃないかしら。』
「「わぁ…」」
千年の孤独、それは想像もつかないほどに苦痛な拷問に違いない。
面倒を避けて森に住むお母さんでさえ一人になったのは7、80年前。それにクロックも居るのだから完全に一人なわけじゃないし、たまに都市に出たりもしていたらしい。
それでも私と出会う頃には人恋しくなっていたというのだから、大精霊のこころうちには一体どんな渇望が渦巻いているのかも分からない。
『そんな憐れむような反応をされるほど過酷な生活ではなかったわよ?もともと精霊は人間ほど孤独に弱くないし、この子たちも居たもの…ともかくそういうわけだから、どうかしら?お互いにとって益しかない話のはずだけれど。』
「…僕は、自分の力をちゃんと使えるようになりたいです。だから、ディニア様!どうかよろしくお願いします!」
『ふふ、こちらこそよろしくねアルフォンス。』
決意の表情を浮かべたアルは示しあ合わせたわけでもなく大精霊の胸へと手を伸ばし、大精霊はそれを両手で包み込み自身の胸に触れさせる。途端、柔らかくも強い光が辺りを照らした。
光が収まった時、アルの右手には浅縹色に輝いている”杖に抱き着く人魚”の紋章が浮かび上がっていた。
『これにて契約は成ったわ!盟友アルフォンスよ、その足跡はわたくしが照らしましょう。壁が立ち塞がればその上までわたくしが押し上げましょう。あなたに害為す怨敵には山水の怒りを見舞いましょう。わたくしたちは常にともにあり、わたくしはあなたを支える最も大きな柱になりますわ。末永く続く私たちの友情に、水の女神”アウクァーレタウ”の祝福を!』
「あっ…えっ、えと、祝福を!」
『ふふっ!ありがとう。』
突然の口上に何が何だかという様子だったアルが最後の文言だけをオウム返しすると、大精霊―――ディニアは、私たちの挑戦を見届ける時のお母さんのように柔らかく微笑んだ。
『それじゃあ早速だけど、牧羊犬としての役割を果たさせてもらうわね。』
一度宙返りをして手をこちらに向け、真剣な眼差しをしたディニアの手から陽光をキラキラと反射する水の鎖が紡がれる。
次の瞬間、それは獲物に飛びつく蛇のように鋭くアルの胸へと飛び込み、そのまま体内へと入り込んでいった。
「ちょっ、アル!?大丈夫なの!?」
「…うん、大丈夫みたい。違和感はあるけど痛くないし、何でか分からないけどこれが悪い物じゃないって分かるんだ。」
「契約者と精霊は常に念話の魔法によって繋がっているような状態になることがあると聞いたことがある。だからそれは、大精霊様が本当にアルのためにやっているという確固たる証明だよ。」
二人は安心して見届ける姿勢のようだが、私としては延々と吸い込まれていく水の鎖に不安を殺しきれない。流石にこのままではマズいのではないだろうか。
『ん~…!あなた、本当に魔力が多いのね!ちょっと想定外だわ。でも、わたくしに掛かればこれくら…いっ!』
「うっ!」
ディニアが気合いとともに手を握り込み、アルの胸との間に鎖がピンと張る。鎖は水製のはずなのにギシギシと金属がこすれるような音がして、アルの胸が淡く発光し始めていた。
「ま、魔力光!?」
魔力が圧縮され、爆発間近の状態で起きる魔力の発光現象。それがアルの胸で起きている。
しかし当の魔量の制御権を持っているのはディニアか、もしくは未だ制御力が未熟なアルか。
いい加減見ていられなくなった私は暴れ狂う魔力を抑え込もうと一歩踏み出るが、右肩をつかまれて振り返った。
「大丈夫だよミオ。見てなさい。」
この場にいる人間で間違いなく最も経験豊富な彼女にこうまで言われては信用するしかないが、しかし私の視線は依然光り輝いているアルの胸元に釘付けである。
『わ、た、く、し、にぃ~っ…まっかせっな、さぁ~いっ!』
あとがき
…結局たどり着けませんでしたね。まぁ、こういうこともあります。
私は一話一話が2000~3000文字くらいに収まるように書いているので、これ以上話を続けると長くなり過ぎちゃうだとか、逆に入れないと全然足りないから途中までで続きは次回に持ち越しとか、そうことが良く起こるんですよね。
さて、今回はアルフォンス君が遂に泉に住まう水の大精霊様と契約を果たしました!次回こそは彼が真の力を発揮するところをお見せできればいいなと考えております!(描写の都合で出来ないかも…実際どうなるかは今の私にはわかりませんが)
次回、ようやくアルフォンス君の覚醒なるか!?




