第24話 目指すは楽園
第1章 永遠と須臾の煌めき
第2幕 千載三遇
第24話 目指すは楽園
設定の変更により主人公たちが今いる国は”トレイトス王国”に変更になりました。
アルと打ち解けた翌日。
血抜きだけして冷蔵していた昨日狩ってきた魔物たちを庭で解体していると、家から出てきた彼に声を掛けられた。
「ミオさん。」
「ん?どうしたのアル。」
「どうやったら魔力の扱い、上手になると思いますか…?」
「う~ん…」
声の抑揚とか表情から、相当困っているんだろうということは分かるのだが、中々難しい問いだ。
お母さん曰く、私は制御や感知などの魔力に関する才能がずば抜けているらしい。だから魔法は、出来るまでやっていたらいつの間にか出来るようになっていた…というのが正直な感想だ。
(特に何かきっかけがあった、わけ…では…)
「あ」
「何かあるんですか!?」
「いや、別にそれがきっかけで出来るようになったってわけじゃないんだけど…凄い魔力が濃くて綺麗な場所だったから、何かあるんじゃないかと思って。」
あれはミラ師匠に剣を教わり始めてしばらく経って、初めて一緒に狩りに行った日のことだったか。
彼女は私の抗議を全く意に介さずどんどん先に進んで行くので、お母さんとの時とは比べ物にならないくらい遠くまで行った。何日も野宿を繰り返し、彼女の直感に従って森を練り歩く。帰ってきたときにはお母さんが相当おかんむりで、何時間も叱られた―――ミラ師匠が。
ただそれに見合う収穫もあった。
不思議な魔力を発する大岩や、強大なBランク魔獣であるグリフォンとの戦闘。それから、あの規格外な巨樹の麓に湧いていた、精霊たちが舞う美しい泉だ。
「ぜひ行きましょう!もう猫の手も借りたいぐらいで、夜も眠れないんです…!」
「分かった。じゃあ明日行こうか。」
「え?今日じゃないんです?」
「だって解体は終わらせなきゃだし、お母さんたちにも伝えておかなきゃいけないし、もしかしたらミラ師匠の付き添いが必要だって言われるかもしれないでしょ?」
「えーっと…もしかして、遠いんですか?」
「うん。少なくとも森で一泊はしないと着かないね。」
***
「はっ…はっ…」
ミラ師匠に事情を話し、二つ返事で了承をもらった翌日。
朝食後すぐに家を出発しすでに3時間。水臨樹の極太な根によって盛り上がり何度も繰り返す上り下りをものともせず踏破していく女子二人に対し、アルは息を切らせて割と必死に後を追っていた。
彼は毎日欠かさず庭の外周を走っている。ちょうど体が成長期ということもあり、体力はじわじわと向上していた。しかし獣人族の高い成長率および基礎スペックをもつ少女や、長年のたゆまぬ努力を山のように積み上げた女性についていくには届かない。
見かねたミラ師匠が「…一度休むか。上から見てくる。」と言って枝の上へ跳び上がっていった。
「分かりましたー。」
「はぁ…はぁ~…ふー…ありがとう、ふぅ…ございます……それにしても、結構、遠いんですね…」
「あの時は木の上を跳びながら移動してたからね。行くのがあの泉だけだとしても、徒歩だと何泊かしないとダメだよ。」
「はぁ…イルムから、こっちへ来た時の旅を、思い出します…」
「そう言えば、その時何か変わったことあった?」
「いえ?特には、はぁ。ただ…初めてにしては、過酷過ぎる旅でした…」
この世界においてアルくらいの子供がする一般的な旅とは、各国や商業ギルドなどが整備する街道を徒歩か馬で移動していくものだ。
特に行商人や貴族の子供はこのような旅を経験する機会が多いが、基本的に馬車だし最低でも馬に乗る。貴族は体面と安全のため騎士見習いなどの例外を除いて絶対に馬車だし、行商人も積み荷を運ぶため馬車だ。
イルムとうちの間には4000m級の山々を擁し、私たちの暮らす”トレイトス王国”とイルムを含む”東方諸国”を隔てる”ネブラ山脈”がある。
そこは先日遭遇したグリフォンや、ドラゴンの眷属であるワイバーンをはじめとしたBランクオーバーの魔物が当たり前のように跋扈する場所であり、ミラ師匠やお母さんたちみたいな超人でもなければ近づくことすら避けたい魔境だ。
それに加えて山脈の周囲は小国なら丸ごと飲み込むほどの面積を持つ水臨樹の森が広がっていて、この魔力が豊富な森は魔力が原因で生まれるとされる魔物にとって最高の環境だ。平均的な脅威度ランクこそD程度に収まっているが、その生息密度はダンジョンにも引けを取らないレベルである。
要するにアルは、馬を全く使わないという子供としては異常な手段、国境をまたぐという非常識な距離、街道を外れて魔境を突っ切るというもはや大人ですらありえない道のりをたどってきたのだ。
「改めて考えてみたけどホント、なんて言うか…一生に一度も無いような貴重な経験をしてきたんだねぇ。これはアルフレッドさんもご満悦なんじゃない?」
「そこは、ミラ叔母様に対して…ふーっ…怒ってほしい、所だけどね。」
「あはは…”水球”。のど乾いたでしょ?」
「うん。ありがと。」
「よっ…休憩はそろそろ終わりにしよう。」
私が詠唱はせずに魔法名だけで、つまりようやく使えるようになった初級”魔法”で生成した水をアル飲んだ時、ちょうどミラ師匠が枝から降りてきて淡々と言う。
「進行方向に狼系の群れが居るけど突っ切るよ。」
「はい」
「そう言えば叔母様はこちらへの配慮とか全くなかったですね…3カ月で忘れてました。」
「おい」
「あ、僕は戦闘には不参加で。流石にこの体力で入っても邪魔なだけでしょうし。」
「はぁ…まぁいいや。ならアルはあたしの後ろで、最後尾はミオ。アルは戦闘になったらその場で止まれ。あたしとミオで上手いことやる。」
「お願いします」
「了解です」
「それじゃ、昼飯を狩るぞー!」
「…量足りるのかな…?」
あとがき
…中々本題に入れませんね。
リュドミラさんと魔女様の手合わせもそうでしたけど、理由とか道中とかいろいろ考えるとどうしても描写というか、場面が増えて一番大事なところが次話に持ち越しになっちゃうんですよね…
と、いうわけで。
次回、アル君の悩みが例の泉で解消される…かも?




