第23話 吉凶
第1章 永遠と須臾の煌めき
第2幕 千載三遇
第23話 吉凶
林内雨が止んだギャップの近くでは、低木や下草の水滴が差し込む太陽光を反射して煌めく。
神秘的な巨大樹の森の中、振り返る私とそれを正面から見つめ返すアル君。次の瞬間にその口から紡がれた言葉に、私は耳を疑った。
「ミオさんって…転生者、ですよね?」
「…え?」
転生者だとバレていたのだ。なぜ!?それも全然接点が無かったアル君に!
突然の指摘に脳内はてんやわんやだが、慌て過ぎて逆に一度立ち止まって考えられた。
(転生者だってバレることは、別にマズい事でも何でもないのでは…?)
何せ一番身近なお母さんはもう10年前の初対面の時にその結論に至っている。それがミラさんやアル君なら、それこそまだ出会って三カ月で話す機会が無かったと説明すればいい。
しかもこの世界では転生者のことを”迷い人”だと言うはず。それをアル君が”転生者”と言うのなら―――
「…もしかして、アル君もそうだったの?」
「えっ、僕…は、まぁ……はい。」
「そ、っか。そうだったんだ…いや、びっくりしたよ!まさかこんな身近に同郷が居るなんて!あ、私は前世日本人だけど、アル君もそうなの?」
「はい。僕も日本人でした。」
「いやぁー、ホント凄い偶然だね。ちなみになんだけど、何で分かったの?」
「それは―――」
その後は、歩きながら彼と大いに語らった。それはもうやってくる魔物を片手間になぎ倒し、建前としての狩りは終えたにもかかわらず会話のために森を練り歩くほど。
道中何匹もの比較的小型な(平均体長約2m)魔物を仕留めながら、それらを魔力で紡いだ糸で縛り上げ引きずる。
同郷だと分かったことで精神的な距離が縮まり、私たちは急速に仲を深めた。
日が暮れ始めて家に戻る頃になれば、彼は私との会話で目を逸らしたりどもったりするようなこともなくなっていた。
「ただいま。」
「ただいま戻りました。」
獲物の血抜きをしてから氷室にしまい家に入ると、リビングでくつろぐ師匠二人の姿が見えた。
最初のうちこそ”なんてありがた迷惑だ”と思っていたが、今になってみれば話をする機会を作ってくれたことに感謝しかない。
「おかえり。」
「おー遅かったなぁ。ミオ大丈夫か?アルに何かされてないか?」
「ちょ、止めて下さいミラ叔母様!人聞きの悪い。」
「そうですよ師匠。それもセクハラです。それにもしそんなことをしてたら、アルは今頃どこかの水臨樹の赤い染みになってるでしょうね。まぁ、アルはそんなことしないでしょうが。」
「赤い、染み…!?あの、ミオ?それ冗談ですよね…?そうだと言ってください!」
「また”せくはら”ぁ?…マジでそれ何なのさ…」
「くくくっ、これは驚いた。多少改善されるだろうとは思っていたが、まさかこんなに仲良くなるとは。この調子だと、ミラが言っていた通り二人が結婚する未来もあるかもしれんな。」
「お師匠様まで悪ノリが過ぎます!それよりミオ!?冗談ですよね!?そうなんですよね!?」
「あはははっ!」
何だか、我が家は一層賑やかになったようだ。
***
Side ???
彼ら四人が歓談に花を咲かせる頃、遠く離れた名もなき猫族の村では…
「うわああぁぁぁ!」
「助けて、助けてぇ!」
「ひゃはははは!無駄な足掻きだ、大人しく捕まるのが身のためだぜ!」
(家が、燃えてる…?)
あちこちで火の手が上がり逃げ惑うみんなと、それを追い回す革鎧姿の男の人たち。みんなが捕まると男の人は斬られて、子供は連れていかれて、女の人も連れていかれるか、服をビリビリに破かれている。
ついさっきまで、遠くから獲物を狩って無事に戻ってきた戦士たちを歓迎する小さなお祭りをしていたところだったのに。みんな笑って、私だって幸せだったのに。
「見回りの男衆はどうしたんだッ!?」
「周りをうろついてたボンクラ共のことなら、お頭が全員殺しちまったよ!」
「多少は腕が立つようだったが、お頭には手も足も出なかったなぁ…」
「そんなバカな、■■■■■たちが…っ!ぐあぁ!」
「みんな森へ入れ!散り散りに逃げるんだ!ぐっ、早く!」
「あ……あ…」
(何で、こんなことになってるの…?あの人たちは、何で私たちを襲うの?)
視界に映るのは男の人たちに立ち向かう村の戦士。いつも優しくて、みんなのお肉を獲ってきてくれる頼もしい人たちだ。今も一人、また一人と敵を倒している。
それでも、男たちの中に一人だけ桁違いに強いあの大男には、誰も敵わない。その男は肩に担いだ大剣で戦士たちをのして回っている。
「クククッ、アーッハッハッハァ!!弱い!弱いなぁ猫族の戦士たちよ!誉れ高き獣人がこの程度とは……これまでもそうだったが、実に嘆かわしいぞ!!」
男は笑っていた。人を叩き斬って、血と中身が地面に飛び散り、返り血に全身を紅く濡らしながら。
(これは何?どうしてみんながこんなひどい目にあってるの?……………あぁ、そっか…これはきっと、悪い夢なんだ。)
そう思った。思いたかった。そうじゃなきゃ、いけなかった。
(だって、目の前でお父さんが血まみれになってるなんて、そんなはず…ないのに。)
「■■■…走れ…逃げ、ろ……」
「チッ、全部無駄なんだよ。下らねぇ邪魔ァすんじゃねぇ。」
立ち尽くしていた私をかばったお父さんが、血だまりに倒れる。うつぶせに動かなくなった背中には、深い剣の傷が刻まれていた。その傷から血がとめどなくあふれて血だまりを広げ、その血が私の靴を濡らした。
「おとう、さん…?」
Side END
あとがき
私がSideを書くと、どうしてこんなに暗い話になってしまうんでしょうね…?
6話、9話、17話、18話、22話、そして今回の23話と6つのSideを書いてきましたが、9話以外全部暗い話なんですよ。もうこれ呪いか何かですよね…
さて、今回の後半で登場した猫族の少女と、彼女の村を襲った盗賊団の頭領は、かな~~~り先で再登場を果たす予定です。
というか最初はこんな話を書く予定はなかったんです。それなのに主人公とアルフォンス君の会話と言うか距離が縮まるイベントが想像以上に早く終わってしまったものですから、急遽この時期に起こったはずのイベントを差しこんだと言いますか…
そもそも私がSideを書く時と言うのは書くことに困ったとき…あっやべ、要らんこと言った…
(盛大な咳払い)えー、長々と語りましたが、色々間に挟まったことでうやむやになっていた問題を解決しましょうか。
次回、アルフォンス君の覚醒イベントです!




