第22話 彼もまた…
第1章 永遠と須臾の煌めき
第2幕 千載三遇
第22話 彼もまた…
Side アルフォンス・クロムウェル
皆が寝静まり床に就いた夏の夜。部屋には気温調節用の魔道具が備え付けてあるので、寝苦しいなどということは一切ない。イルムの実家にも同じような魔道具があったけれど、まさかこんな森の中にもあるとは思わなかったので、望外の幸運だ。
しかし僕は暑さとは別の理由で眠れずにいた。
(僕には、魔法の才能が無いのだろうか?)
毎晩そんな言葉が脳裏をよぎる。
イルムの統治に忙しいお爺様に代わり、魔術を教えてくれるという魔女様の元へ来てすでに3か月。
魔女様の義理の娘だというミオさんは、僕たちが来た当時でさえすでに中級魔術師。今ではもう上級魔術師であり初級魔法師だ。
しかもミラ叔母様に弟子入りして剣術まで修めている。最初のうちはミラ叔母様に瞬殺されていたようだけど、最近では何分も木刀がぶつかり合う音がしていた。
それに対して僕はどうだろう?イルムではお母さまやお爺様に天才だ何だと持て囃されておきながら、基礎の基礎たる魔力の制御すら彼女の足元にも及ばないレベル。それから大した成長もできないまま、毎日毎日座禅を組んで瞑想するか、庭の外周を走って基礎体力をつける日々だ。
(このまま伸びなかったらどうしよう?魔法使いは長年の夢だったのに…それか、あまりに鈍いせいで魔女様に見捨てられやしないだろうか?)
不安不満に押しつぶされそうな思いで、泣きそうになる。でも涙は出ない。このところずっとそうだ。
きっかけは…ミオさんが初級魔法師として魔女様に認められた時だったような気がする。
彼女が剣術でいくら成長しようと、僕はエルフなのだから魔術や魔法で追いつけると思っていた。
彼女がすでに中級魔術師でも、それは魔女様に教えてもらい始めたのが早かったからで、僕ならすぐに追いつけるだろうと思っていた。
(思ってたのに…)
胸が重い。苦しい。
明日もまた何もつかめずに終わるのだろうか?もしかしてこの先ずっとそうなのだろうか?
(…憂鬱だ…)
ようやく不安を眠気が追い越し、自然と瞼が閉じる。僕の意識は、闇の中へと落ちていった。
***
「ミオ、また狩りに行って来てくれないか?」
「何で?昨日ミラ師匠と狩ってきたばっかじゃん。」
翌朝、食後のティータイムに魔女様が言った。それを怪訝に思ったのだろうミオさんが首をかしげる。
確かに昨日の午前中、二人は森に入って、この家ほどもある巨大なイノシシの魔物を仕留めてきた。ミラ叔母様は自分の分は自分で獲って来るので、当然その肉がまだ残っている。
「アルと二人で行ってきて欲しいんだ。」
「「え…?」」
まさか僕の名前が出ると思っておらず、二人して目を丸くしてしまう。
「アルには実戦経験が足りてないからな。それに今のお前なら守りながらでも狩って来れるだろう?」
「…まぁ。」
「アルも、森を歩くぐらいならもう問題ないよな?」
「はい…そう、ですが…」
「な?だから二人で行ってこい。それにこの三か月、二人とも年が近いのに最低限の会話しかしてないじゃないか。たまには二人きりで私たちに聞かれたくないような話でもして来ればいいさ。」
「なるほどデートか!ふはっ、甘酸っぱいなぁ二人とも!」
「デっ!?」
ミラ叔母様はいつものように快活に笑うが、僕はいわれのない邪推に顔が熱くなるのを感じた。
「はぁ…師匠、あんまりそういう茶化し方しないで下さい。セクハラですよ。」
「そういやあんたたまにそれ言うけどさ、そもそも”せくはら”って何?」
「細かいことはいいんです。」
「いや意味わかんなきゃ配慮のしようが無いじゃん。」
「察してください。」
「無茶言うなよ!」
(……あれ…?ミオさんは、どうしてセクハラを知ってるんだ…?)
この世界は大抵の国が貴族社会で、法というよりも権力者が人々を支配していいる。基本的人権などの概念すらないのだから、当然セクハラも存在しない。
それなのに、どうしてミオさんはそれを知っているんだろうか。
思い返してみれば、ここに来た初日にも気になることを言っていた。確かあれは、ミラ叔母様の凄い食事量の話をしていた時のはず。
(ピンクの…悪魔…)
あの状況でその言葉が意味する存在は、ぽよぽよで一頭身な、星の戦士だけだ。
(まさか…)
「僕は…ミオさんと話してみたい、かも…?」
「えっ…?」
「ほら!アルはミオのこと好きだってよ!」
「…えっ!?いや、ちょっ、違いますからね!?」
(これは、確かめなくちゃいけない…!)
Side END
***
結局師匠二人が無理やり送り出し、私たちはこうして森を歩くことになった。
天気は快晴で雲一つ無い狩り日和。しかし森の中では水臨樹から蒸発した水が雲を作り、森の中だけで雨が降っていた。
通常動物と違って魔物は雨の日でもずぶぬれになりながらうろついているので、狩りには支障はないはずだけれど。
「えっと…アルフォンス、君?」
「アルで、大丈夫です。魔女様もミラ叔母様も家族も、みんなそう呼んでいますから。」
「いいの…?じゃあ、アル君さ、うちにk…」
「あの!」
「えっ」
お母さんが言う通り、彼とはあまり話をした記憶が無い。会話の糸口に困ったので、とりあえず家の居心地でも聞いてみようかを思ったところ、意外にも話を遮られた。
「実は、ミオさんに、聞きたいことがあって。」
「まぁ、いいけど…」
(弱気な彼らしくないな…?話を遮ってまで聞きたいことって何だろ?)
いつしか降っていた林内雨はやみ、会話がしやすいようにケープのフードを取った時だった。
耳を疑う質問…いや、断定をする言葉が投げかけられたのは。
「ミオさんって…転生者、ですよね?」
「…え?」
あとがき
暗闇、もしくは霧に包まれた道を歩むアルフォンス君。書いているだけでも結構鬱でした。
そんな彼が一時的にその悩みを忘れるほど興味をひかれたのは、主人公の出自(?)について。
あとこれ本文で直接は言ってないんですけどアルフォンス君自身転生者なんですよね。
と、言うわけで。
次回、転生者二人が顔を突き合わせたら何が起きるのでしょうか?




