第20話 最初の試練
第1章 永遠と須臾の煌めき
第2幕 千載三遇
第20話 最初の試練
2025/09/14
細部各所の表現を変更
「ふいー…こっちは終わったけど、そっちはどう…って、何やってんのお前…?」
解体を終えたリュドミラさんが、血まみれの腕を水球で洗いながら問う。その後ろではアルフォンスがお母さんの指導の下座禅を組んで目を閉じ、瞑想で魔力制御の鍛錬をしていた。
そんな中私は何をやっているのか。
前世の日本人は一目見さえすれば分かるだろう、全力のラジオ体操第二であった。
(これが終われば後は深呼吸…だったよな?)
10年以上の月日を経て再び必要に迫られた記憶に不安を覚える。しかし小学生のうちに家族で散々やった動きは思いのほか体が覚えて…いや、転生しているのでこの比喩は間違いだな。手続き記憶として定着していたらしい。
腕を大きく動かし、膝も深く曲げる。全身の筋肉が連動し、血が巡るのを感じる。
(そう言えば、前世の科学では記憶は脳の神経細胞に宿っているっていう話だったけど、おそらく脳も含めた全身が入れ替わっている私の記憶はどこから来てるんだろう…?やっぱり魂とかにも記憶ってされるのかな…?)
この世界には魂が実在する。
もちろん科学的な検証がされた訳ではない。けれど、死んだ人間の思いが魔力だけの思念体として”レイス”という死霊系の魔物になることもあるし、高位の死霊魔術には死者の魂を召喚して会話をするようなものもある。
そもそもこの世界の生物にはすべからく魔力が備わっており、魔力とは魂から湧き出るものだと信じられている。それは先のレイスのように肉体を失い、霊魂のみとなったとしても魔力は失われないからだ。
(…ま、今私が考えたところで何の意味も無いか。)
余計な思考を振り払い、先ほどまでの高強度な運動で高鳴っている拍動を落ち着けつつ、最後の深呼吸に移る。
「すうぅぅ~……はあぁ~…」
ラジオ体操は、第一を正しい姿勢で行うだけで汗ばむ程度には体を動かす運動だ。それを全力で二番まで行えば―――
「準備万端…!」
体は温まり、引きこもりがちで固まっていた全身の筋肉もほぐれ、血行は促進される。
正直途中から全力でやっていたら体力切れになるんじゃないかとか思ったりしていたのだが、そこは腐っても獣人族。息切れすら起こさずにやり遂げ、むしろ丁度良い状態になっていた。
心なしかいつもよりも頭の回転が速いような気もする。視野が広がって気分が良い。
(…あれ?もしかして悪くなってた血行が良くなっただけ…?)
「あー…あたしの話…いや、いいか。ほら。」
「わっ…!?」
いつの間に拾っていたのだろうか、投げ渡されたのは1mとちょっとの木の枝。木剣の代わりなのだろうが、それにしては細い。適当にたたきつけると折れてしまいそうな印象だ。
「あたしは剣を極めた。逆に剣以外は素人だ。だからあたしには剣しか教えられないし、教える気もない。というかそもそもあたしは人に教えるってことが苦手だ。それでもやる気はある?」
「はい!」
お母さんがそうしろと言ったから、というのは確かにある。でも少なくとも今は、憧れの剣術を学べることにこの上なくワクワクしている!
「そ。じゃあ、今渡した枝。そのまま打ち付けたら折れるのは分かるよね?」
「はい。」
「姉様から魔力制御は一通りできるって聞いたから、その枝を自分の魔力で覆って。あ、枝自体には流すなよ?それ用に術式付与されてないから、下手に流すと破裂する。」
「分かりました。」
慣れないことをするので、目を閉じ集中。
魔術を使うときのように、魔力を汲み取って腕に集める。それが腕から手へ、手から指へ、指から枝へと纏わせていくイメージ。
魔力と言うのは、自分の体から離れれば離れるほど制御が難しくなる。枝の内部には入らないよう、握る指先から螺旋を描いて、表面だけにゆっくりと、慎重に、着実に。
「ほー…さすが姉様がステラに自慢するだけある。上手いね。」
「むむむ…!」
這うように進んで行った魔力が、たっぷり1分ほどかけて完全に枝を覆った。慣れない体外での制御により魔力の表面は波打ち、額からは汗が流れ落ちる。
「これじゃあ、さっきのアルフォンス君のことは言えないな…!」
「いいねぇあんた、センスが良い。纏わせ続けられるだけ初めてにしちゃあ上出来だよ。このまま5分維持しな。」
「ご、5分…!?」
気を抜けばすぐに霧散してしまいそうになる魔力を気合で押しとどめているのだ。運動不足な人間がプランクをしているに等しい。それを5分?正気か?
この先時間が経つにつれ余裕がなくなっていくことは目に見えている。だからまだギリギリ話せるうちに、疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「ってか、そもそも…何で、付与なんですか…?手合わせとか…しないので?」
枝を受け取った時、私はてっきり「掛かって来い。今の実力を見てやる。」的なことを言われるんじゃないかと想像していた。
「まぁそれでもいいんだけどさ。せっかく上手く魔力使えるんだから、そっちからやった方がいいじゃん。ほら、最初は出来ることからとかってよく言うでしょ?」
軽く言うリュドミラさんの顔からは、計画性のけの字も見られない。どうやら本当にその場の思い付きだけでこれを課したらしい。
(…なるほど、確かにこれは…教えるのが下手だな!)
出来ることからという方向性は間違っていないだろう。できないことをやれと言われても意欲を削ぐばかりで非効率的だ。
だが出来ることだからと言って、その強度を誤っては異路同帰に終わる。
とは言え、この程度でモチベーションが失われるほど私の剣術に対する憧れは小さくないし、苦難を伴う修練はすでに魔術で経験済みで耐性もある。むしろ加減を知らないこの大きな壁を、「クソが!絶対乗り越えてやるからな!」という気持ちでいる。
私はこのポンコツで不憫な、それでも力量と実績は確かな師匠の下で生き残る術を学ぶのだ。
(絶対に、諦めてやらないからな…!)
誰に対して思うのか定かではないが、私の心に火が付いた瞬間だった。
あとがき
なんか最近あとがきに書くことが無くて困ってるんですよね…
あ、今『獣剣』とは別の小説の設定を練っていまして。それが終わったらまずは短編として書く予定なので、投稿したらもう一度宣伝させていただこうかと思います。
一応ジャンルはSF…SFなのかあれは…?まぁ近未来のSFっぽい何かです。
(小説を書いてる人間なのに小説のジャンルには詳しくなくてすみません…)
次回、この投稿時点では色々未定なのでお楽しみに!




