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獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
18/37

第18話 限界

「第一章 永遠と須臾の煌めき」

の中の「第二幕 千載三遇」

の中の「第18話 限界」です


2025/07/16

 ヴェリシオンのセリフ中の人物名”アレク”を”ラヴィ”に変更しました。

2025/09/12

 細部各所の表現を変更


《重要なお知らせ》

投稿頻度を二日に一度から一週間に一度へ変更します。

それにより、次回の投稿は07/13(日)となります。

詳しくはページ下方の作者マイページから、活動報告にてご覧ください。

「はぁ~あ、降参。やっぱ同じSランクになっても届かないか~…姉様はもうSランクに居ちゃいけない気がする。」


 光と土埃が晴れ、周囲の景色が見えようになった時に目に入ったのは、リュドミラさんが氷の槍に全身を拘束された姿だった。


「1300年の人生と3度の大戦経験を舐めてもらっちゃ困る。それと、Sの上位ランクの設立は5次大戦終結当時のグランドギルドマスターに打診されたことがあったが断った。」

「居座ったのかよ……あーもーあたしだってそろそろ200なのにぃ…そこらの人間より経験積んでるのにぃぃ……」


 脱力して氷に体重を任せ、恨み言を漏らす姿にはこちらも脱力を禁じ得ない。この様子だけを見れば、先ほどまで天地を揺るがすような超規模戦闘を繰り広げていたとは思えない緩みっぷりだ。


「私とは桁が違うだろう、桁が。それでも言うってことは何だ?人間に勝てない相手でも居たのか?」

「…居たよ、何人かね。特に今代のエスト帝国の皇帝騎士団長と、南トゥルークの国家魔術師団長はヤバい。やり合えなかったけど、あの二人には勝てない。レベルが違うよ、アレは。」


 お母さんの質問に突然真顔になって応える。さっきまでの緩み切った空気が途端に引き締まった。


「いつの時代にも外れ値っていうのは居るもんだ。それに押し潰されずに努力し続けられる者だけが、さらなる高みに上る資格を得られる。」

「それで貰えるのは資格だけでしょ。」

「だからそう言っただろう。」

「理不尽」

「世界の真理だな。」

「姉様も理不尽を強いる側の人間だって言ってるんだけど?」

「そうだが?」

「はぁ…」


 悪びれもせず正面から返された反応に呆れたのか、もう返答しなくなったリュドミラさん。そして彼女から庭に視線を向けるお母さん。


「それで、はぁ…どうしようか?これ。」


 私たちの視線の先…というか視界全体に映るのは、戦いの余波で切り倒された大量の水臨樹。それからお母さんの最後の大魔法で耕され、表面の一部はリュドミラさんの一撃でガラス化している地面。


「ふぅ…っ……いや、やめよう。流石の私も疲れた。家は無事だし今日は寝る。後始末は明日だ。何かあったらクロックかミオに言って、私への伝言はクロックに残せ。アルにはすまんな、修行に関しては明日からにしよう。あとは頼んだぞミラ。」

「え?あー、まぁ…分かった。じゃあまた明日。」

「ああ」


 言いながら背を向けるお母さん。最後には背中越しに手を振り、そのまま家の中に入ってしまった。

 今の今まで呆然として声も出せなかった私とアルフォンスは、引き留めることも呼び止めることもできずただ見送るしかなかった。


「う~ん…姉様がこれくらいで疲れるかー…?」

「あの、ミラ叔母様?それってどういう意味なんです?」

「いや真なる魔女ってのはさ、そうなった時点で体の成長とか老化が完全に止まるんだよ。それこそ時が止まったみたいに。だから大戦時には最前線で三日三晩戦い続けたっていう姉様が、このくらいで疲れるなんてことは無いはずなんだけどなぁ……まぁ、姉様がハイエルフも含めた歴史上で最も長生きした人類だから、もしかしたら真なる魔女もエルフと同じで、ある時点から老化し始めるのかもね。この前会った父様もかなり年が来てたし。」


 そう言えば、リュドミラさんが来るって話を私にしてなかった上に、それ自体忘れてたこともあった。

 もしかして認知症だろうか?


 外見は未だ年若いお母さんだが、体はすでにガタが来ているのかもしれない。

 1300歳。そうなるのも仕方がない年齢だ。むしろよくここまでピンピンしていられたと思う。


「姉様とやるのもこれが最後だったかもなぁ…正直これ以上成長するビジョンが見えない。」

「もしかして…僕の修行の途中で亡くなってしまったり…?」

「無い無い。姉様責任感すっごい強いし。自分が面倒見れるか分からないのに弟子にしたりしないよ。アルが独り立ちするまではちゃんと生きてるだろうから。」

「そう、ですよね…」


 リュドミラさんは笑顔で言うが、アルフォンス君の顔は晴れない。

 正直な話、私も不安だ。もし…お母さんが死んでしまったら?


(…あまり深く考えたくない。少し想像しただけで吐き気がする…)


 弟子二人組の顔は、暗く沈んでいた。



***



Side アリステラ・フロライン


「はぁ…はぁ……ぅぐっ…」

『全く、よくもまぁこんな体で無茶しようと思ったね。君、ホントは大馬鹿なんじゃないかい?』

「だ、まれ…あの子らに、感づかれる、っぐ…訳には……」


 自室のベッド。あまりの痛みに呻き声を漏らしながら蹲ることしか出来ない。

 いつもの挑発にすら、満足に返答できなかった。


『君さぁ、僕が居なかったらとっくの昔に死んでるんだよ?ここで無茶して寿命縮めてちゃあ本末転倒じゃないか。』

「はぁ…あぐっ、うぅ……」

『…チッ、見せてみろ。』


 レイスのように透ける翡翠色をした彼の…”ヴェリシオン”の実体の無い手が、私の額に触れた。その瞬間、全身に彼の魔力が流れ込んで、同時に針で刺されるような激痛が走る。


「が、あ゛ぁっ…!?」

『うーわ何このぐっちゃぐちゃな魔力腺…君、真なる魔女だよね?魔力で生きてるんだよね?それで何で血管と同等の器官が全身ズタズタになってんのに生きてんの?魂魄保護にまでヒビが入ってるし、これじゃあ”侵食”してくださいと言わんばかりだぞ………はぁぁあ、しょうがないなーもう…ラヴィ以来最高の英雄に免じて、最後に一回だけ!!特別に修復してやる。ただし、マジで次は無いからな。現世への介入はホントシャレになんないほど疲れるんだ。』

「ゔぅう…あがっ!?」


 彼の魔力が損傷個所を通り、残り少ない”まだ私のものである魔力”を引っ張り出して乱暴に縫い合わせ、傷を塞いでいく。

 その度に魔力の流れが正常に戻って楽になっていく半面、業火に焼かれるような、雷霆(らいてい)に貫かれるような、形容しがたいほどの痛みに襲われる。


『黙れ。痛いのは分かる。だがバレたくないんだろ?ここで悲鳴でも上げてみろ、さっきの見栄が全くの無駄に終わるぞ。』

「っ、う…ぁ……っ!」

『よーしいい子だ。もう少し………ハイ終わり。っあーもう疲れた二度とやらんわこんな無駄なこと。何で僕が高々人間一人のために半分も魔力使わなきゃいけないんだよクソが。』

「はっ…はっ…はっ…」


 さっきまで虫の息だった人間に掛ける言葉とは到底思えない罵声が耳に入るが、今はそんなことに構っていられるほどの余裕はもはや残っていなかった。


 久しく感じていなかった痛みが大波のように襲ってきた上、魔力も勝手に使われてもうほぼ空の状態。魔力欠乏症を起こし、私は視界が歪むような酷いめまいと、吐き気と、さっきの激痛の名残に襲われながらも、抗えぬ眠気に意識が落ちていった。


『ホント、救えないバカだよ。君は……それは、僕も同じか。』


 彼の呟きを聞いた後は、記憶が無い。

あとがき


語ることは何もありません。全て本編の通りです。

何でこんな暗い話になってしまったのか、私にも分かりません。

本来なら―――


「あーあーどーすんだよこの惨状。直すのめんどくせーなーおい。この前の暴食に加えて貸し追加だからなミラ。」


―――みたいな話にするはずだったんですけどね。

”ヴェリシオン”の再登場も本来ならもっと後でしたし、彼が魔女様の治療をするシーンなんてプロットにはありませんでしたし。


まぁ降ってきてしまったものは仕方がないので受け入れていただくしかないと。

私も受け入れるしかありませんので。


さて。このところシリアス続きですからね!そろそろ日常が恋しくなって参りました。


次回、アルの修業が始まります!

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