表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣剣の魔女  作者: Dy02-SK
第1章 永遠と須臾の煌めき
17/37

第17話 宴

「第一章 永遠と須臾の煌めき」

の中の「第二幕 千載三遇」

の中の「第17話 宴」です


2025/09/14

 細部各所の表現を変更

Side リュドミラ・クロムウェル


ガイイイイィィィィンッッ!!!!!


 あたしが放った居合に乗った魔力の斬撃は、地面からせり上がった大きな一枚岩に防がれた。


「これが40年分の成長か?なら以前の方が強かったと思うが。」

「様子見だよ様子見。この40年でアリス姉様が衰えてる可能性だってあるでしょ?殺しちゃうわけにゃいかないんだからさ、必要でしょ?」

「ぬかせ…!」


 下段後方へと構えなおすあたしに、アリス姉様が杖を振るう。

 練り上げられた4つの魔力の塊が水に変化し、それぞれ別の方向から水槍として射出された。


バシュ、バババシュ


「ぬるい!ッ!?」


 それらを切り捨てて踏み込む刹那、感じた悪寒。思わず背を振り返れば、切り捨てたはずの水しぶきの水滴一つ一つが凍り付き、あたしを狙っている最中だった。


 魔法師と剣士、どちらが強いのか。終わりを知らない永遠の議題だ。

 十分な実力を持った両者がぶつかり合うとき、剣士は往々にして守りを強いられる。なぜなら魔法師の間合いは剣士よりも広いからだ。

 手札が豊富で、攻撃の起点をどこにでも置ける魔法師は攻めに優れる。だからこそ、剣士には虎視眈々と機会を待つ忍耐力が要求された。


 あちらも様子見のつもりで放ってきたのだろう中途半端な数と威力の水槍。それをアタシは隙だと見誤ったが、その本命は…


「私が”氷星”と呼ばれる理由を忘れたとは言わせんぞ。」

「っ…忘れるもんですか…!」


 後ろからの奇襲は全て弾いたが、それで落ちるほどやわな攻撃ではない。周りにはいつ攻撃に転じてくるかわからない親指ほどの氷のつぶてが、縦横無尽に飛び回っていた。

 その数、裕に300以上。あたしを中心にドーム状に隙間なく囲っていて、間を縫っての離脱は出来ない。


「そっちがその気なら、あたしも全力で行く。死んでくれるなよ、姉様ッ!」


 全身に巡るエルフ特有の豊かな魔力。それを心臓に集め、魔力の濃度を急激に高めていく。

 深紅の魔力光が胸からあふれ出し、制御を失えば一帯を丸ごと焦土に変えるほどの魔力がうなりを上げる。


「―――目覚めろ、あたしの心臓!」


 気合十分、愛刀の柄で胸を殴りつける。アリス姉様は何かに気付いたような顔で氷を動かしたが、もう遅い。


 ”魔力炉”はもう、起動した後だ。



***


Side アリステラ・フロライン


 魔力が一点に集まり、ミラの胸が強く光り輝いた。


「―――目覚めろ、あたしの心臓!」

(あれは、”魔力炉”!?ミラも持っていたのか…!)


 ”魔力炉”とは、赤眼の者がごくまれに持つ強靭な心臓を利用した特殊能力だ。

 大量の魔力を圧縮して鼓動に乗せることで、魂から魔力を無理やり引き出して出力を上げる…以前会った使用者は”蛇口を広げるようなもの”だと言っていた。


「ウラァッ!!」


 とっさの攻撃もむなしく氷の繭は切り裂かれ、舞い上がる砂ぼこり。礫の魔法は細かく砕かれ過ぎて制御を失った。

 過去の経験通りなら、今の状態のミラに速度では勝てない。


(マズいな…)


 剣士と魔法師、大抵の場合先手を取るのは魔法師だ。

 だが剣士はそれを想定して守りの技も磨いているから、後手を押し付けられても致命的な隙は生まない。

 剣士が負ける時と言うのは、攻め時を見誤ったときか、物量に押しつぶされた時だ。だが今のミラはそのどちらの窮地も跳ね除けた。


 そして、魔法師が負ける時と言うのは……剣士に先手を許した時だ。


「シィッ!!」


 ガイイィンッ!


「おっと。これは私も、うかうかしてられないな…!」


 瞬間的に10m以上の距離を詰めてきたミラの袈裟斬りは、展開速度と強度の双方に優れる光属性の障壁で防ぐ。

 続く連撃も最小限の障壁で防ぎきり、わずかな間隙をついてただの”風球(ドヌ=ルルブ)”を生成・開放し、突風で両者を吹き飛ばして再び間合いを確保する。


 気休めに過ぎないこの間合いでも、私にとっては十分。


「”九頭大蛇(レタウ・エシ)の氷像(=アルディフ)”」


 咆哮を上げて地面から乗り出した5m級の九頭竜は、ミラに向かってその顎で噛み砕かんと迫り寄る。

 だがその牙が届くよりも、構えと魔力の練り上げまで終わらせたミラのほうが早かった。

 ミラの髪は炎のように揺らめき、炎のように燦然と、橙色に輝いている。


 一撃が、閃く。


 大気が裂かれ、水平切りの軌跡通りに何もかもが分断された。

 ……私の結界と、それが守るもの以外が。


「あっぶな…!」

「まだまだぁッ!!」


 寸での所で展開した障壁に守られた私は風魔法で上空に逃れ、それを追うようにミラが飛び上がる。

 付近一帯の水臨樹が倒れる轟音が辺りに響く中、私は風魔法を、ミラは瞬間的に魔法で生成する障壁を足場に空中戦が始まった。


「…もう、手加減はいらないな?」

「その確認すら不要だねっ!!」


 まるで迸る雷光のような速度で三次元的に飛び回る彼女に問いかければ、挑発的な答えが返ってきた。


「なら、後で泣いても知らんぞ…!”氷星よ、ここに”」


 魔力の消費は無視して、三重の障壁を全球に展開。安全を確保してから、威力の担保のために詠唱。


「その詠唱…!絶対止めるッ!!!」


 さらにギアを挙げて障壁に切りかかるミラだったが、私が本気で展開する光属性の障壁は半端な硬さではない。例え一枚割られようと、二枚目三枚目が受け止める間に修復が完了する。


「”全てを凍てつかせる氷風(ひょうふう)よ、大地を打ち付ける雹霰(ひょうさん)よ。我が衛となりて、敵を滅ぼせ”!」

「ハアアァァァッ!…っ…クソっ!連撃で割れないならっ、一撃で…!”光よ、ここに。その一閃は、天を裂き、地を割る。我が剣に宿りて、敵を滅ぼせ”!」


Side END


***



「何…アレ…」


 開いた口が塞がらないというのは、こういうことを言うのだろうか。レベルだとか、経験だとかそういうことじゃない。私とアルフォンスは、次元の違う戦いにただただ圧倒されていた。


 人の域を超えた者同士の全力を懸けた戦い。両者の魔力が、最高潮に達する。


「”極寒が齎す氷嵐(ミェイハルフィン)”っ!!!!」

「”世を穿つ光剣(ルビラック・クシェ)”ッ!!!!」

「ひいいぃぃぃっ!?」

「ねぇこれ結界大丈夫なのっ!?」


 天を覆う幾千の氷槍と、金色に輝く閃光の真向切りが衝突し、本日三度目の閃光が、世界を埋め尽くした。

あとがき


今作初の本格的なバトルシーン、いかがでしたでしょうか?

その異名に恥じぬ天を埋める星の如き氷の大魔法を使う魔女様とか、

身体強化に傾倒して魔法を捨てたはずのリュドミラさんが実は剣を極める過程で魔法との融合に成功していたりとか、

中々面白い話が書けたかと思います!


次回、戦いは終わりましたが、面倒な後始末が…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ