銀髪の女
『銀髪の女』
私は過去の恋愛の記憶を消すため、髪を銀色に染めた。そして赤いカラコンを入れた。19才になり、大学を退学した。そして、公園のベンチに座りながら、携帯を使っている。美形中の美形と言われた。今は危険な見た目になった。心が表れている。
大学の親友とたまに会ったりする。
「すごい事になっているね。ロックバンドのボーカルみたい」
「あはは。別れてから心が荒んでね。歌下手だし。なれるならなってみたい」
友人の一人暮らしのアパートで話すことがたまにある。デートの時はさすがに会おうとは思わないが。
恋はいいものだ。ビジュアルバンドの真似をしている訳じゃない。でも、昔の彼氏とはよく行った。それで、一応仲が良くなった。ホテルでして、中高と付き合った彼氏だった。
彼氏は普通の格好を望んだ。私だけが気合の入った格好だった。
新しい恋人ができるまで、この格好でいようと思った。
街を歩くと、
「格好いいね」
「ちょっと怖いけど」
そんな事を聞いたりする。ただの私のファッションだ。彼氏は違う場所へと行った。だから、もうもう二度と生きて逢える事はないだろう。
私は公園で、ただ一人で時間を潰していた。私はこの格好だとナンパされる事も少ないかなって思った。
親友は楽しそうだ。やはり女にとって恋愛は最高のゲームかもしれなかった。私はずっとこのままではいられない。
20になるまではこの格好でいようとした。結婚なんて興味はない。飲み屋で客兼正社員になった。16からここで働いている。年齢をかなり偽っていたが。
そして、サービス券を貰って、一人の時、親友といる時。そこで酒を呑みに来た。
「彼女連れか?」
店長にそうからかわれる。銀髪に染めてからだ。そして、休みの日に、閉店になってから、一時間だけ二人で呑める。
そこでナンパされた。相手はアマチュアバンドのベーシストらしい。
「今度客としてきてよ。金は取らないからさ」
「悪くないね」
そうやって、バンドのライブに来た。結構盛り上がっていた。プロにはなれないのかもしれないけど、演奏は上手い。ボーカルのデス声も悪くない。
そうして、楽屋まで行って、ベーシストに逢いに行った。
「よかったよ」
「それは何より」
「店でいつでも待っているよ」
「そのうち貸切できるまで、売れてみせる」
そんな事を言いながら、バイト先にちょくちょく来る様になった。今度はプロになるらしい。インディーズバンドでデビューする事になった。そう聞いた。
「よかったじゃん」
「で、さ」
「うん」
「俺と暮らさないか?」
「いいよ。どうせやる事ないし、店長も正社員よりバイトの方がいいと思うし」
「結婚したりするかもな」
「まだ付き合ってもいないのに」
「今から付き合おう」
「この格好でいいの?」
「その格好も惹かれた一つだよ」
「分かった」
そして、付き合って一年して結婚した。誓いは形には残す事はなかった。ただピルだけ飲んでしただけ。その後は、ただゴムはしてもらうが。
ファンクラブの会報に私の写真を載せていたら、意外と反響が出た。ジャケ写で私の顔をメンバーでもないのに、写された。売り上げが上がったらしい。
私は酒を呑みながら、夫の帰りを待っている。もう、初めて付き合った彼氏を忘れた。それぐらい濃い日常を送りながら生きていたからだろう。
離婚はなさそうだ。浮気も不倫もしない。おそらく。
親友も呼んで、バンドのメンバーで酒屋を貸切にした。いつも行っていた場所。正式に仕事をさせてくれた場所だ。夜明けまで呑んでいた。ずっと、こんな日々が続くなんて思いながら呑んでいた。