第2話(その⑥)
しばらくすると、カイゼルスベルク村旧市街から少し離れた場所にあるボヌールとリアンが住んでいる家に到着きました。
二ナスとリアンはトランクからキャリーケースをおろし、その間にボヌールは玄関の鍵を開け、キャリーケースを玄関扉から少し離れた所に置いた後、ボヌールとリアンが一緒にリビングに入ると、突然クラッカーの音が部屋中に鳴り響きました。
「「「リアン! ボヌールちゃん! 誕生日おめでとう!」」」
クラッカーの音を聞いたボヌールは、突然顔色がかなり悪くなったのと同時に、その場で嘔吐してしまいました。
「ボヌールちゃん!? 大丈夫か!?」
後からリビングにきた二ナスは、目の前の光景に驚いてボヌールに近づこうとすると、ボヌールはその場で耳を塞ぎながらしゃがみ込み、泣き叫び始めました。
「Mère! Père! 置いていかないで! 一人にしないで!」
突然の状況に困惑している中、リアンはボヌールを優しく抱きしめ、背中をさすりました。
「大丈夫。大丈夫だよ。誰もボヌールを一人にしないよ」
リアンは優しくそう声をかけたものの、ボヌールは落ち着く様子は全然ありませんでした。するとリアンはボヌールを抱っこすると、背中をトントンしながら優しい声色のまま歌を歌い始めました。
「Frère Jacques, Frère Jacques, Dormez-vous? Dormez-vous? Sonnez les matines! Sonnez les matines! Din,dan,don. Din,dan,don.」
リアンが「Frère・Jacques」を繰り返し歌っていると、次第にボヌールは落ち着きを取り戻しました。
「すいません。一旦ボヌールを部屋のベッドに寝かせてきますね」
「わかった。俺たちで嘔吐物を処理しとくから、それに関しては気にしないでいいからな」
「すいませんが、お願いします」
リアンはそう言うと、ボヌールを抱いたまま二階のボヌールの部屋へ向かいました。