第1話 ため息の高等部生活。
貴族のための王立学院に入学するのを勧めたのは、母だ。
社会性に問題がある、って、思春期の息子に直接言うのはどうなの?
まあ、家庭教師の授業にも退屈していたところだったから、別に構わない。暇だし。
勉強も随分進んでしまったから、、親の監視下よりは自由が利くかな、、、っていう軽い気持ちだった。
王立学院は基本、家名を明かさない。16歳で社交界デビューすると、必然的にわかってしまうけれど。まあ、、、、いいんじゃない?楽しく中等部生活を終える。
軽装な近衛騎士を護衛に連れて、侍従のアデルと王立学院高等部入学一日目。
ほらね、、、どうするこれ、、、
女の子たちの熱い視線、男の子たちのチラ見、、こうなると思ってたんだよ。まあ、、いつものこと?
眼をウルウルさせて俺を見つめる子たちに、微笑んでみる。悪くはないかな?
・・・婚約者のカタリーナは、また同じクラス。なぜかは知らないが、婚約のことは黙ってて、とお願いされているで、公にはしない。俺的にもそのほうが気楽でいいし。
選択科目の剣術の授業は1年から3年合同で、試合形式でのクラス分けがある。
もちろん、模擬刀だけどね。俺は、、、余裕だな。
自分より一回りも大きい3年生をバッタバタ。調理実習中の女子からの黄色い歓声を頂く。まあまあ、、、身長はそのうち伸びる。はず。笑顔で手を振る。
成績も余裕だ。スキップしてもいいんだけど、母に止められた。
これ以上何を学ぶことがあるのかな?
それで、、、登校時には女の子が、よりどりみどりの貴族令嬢が、、手に手に、お菓子やお弁当をもって並ぶ光景が日常となる。もちろん、何でもかんでも食べるわけにはいかない立場なので、ありがたく頂戴する。護衛が。
おかげで、護衛騎士はここのところ、随分と貫禄が付いた。まあ、、太った。
「キャサリンちゃん、今日もかわいいね。」
だの、
「あ、アメリアちゃん、この間頂いたお菓子も美味しかったよ。」
だの、
「エリーちゃん、今日の髪型似合ってるよ。」
だの、
「イザベラちゃん、刺しゅう入りのハンカチありがとう。」
だの、、、、、
「リリーちゃん、いつもありがとう。さあ、授業が始まるよ?」
だの、、、
俺はほんの少しだが、背が伸びた。
*****
「あら、まあ、どうなさったの?」
私を突き飛ばしたご令嬢がそう言って、薄っすら笑った。
・・・・これは、、、誰でした?リリーさんでしたっけ?公爵家のご令嬢のとりまきかあ、、、、こういうの、忖度、って言うんだっけ?
カバンの教科書やノートが散乱してしまった。まあ、いつものことですけど。
「リーナ様、大丈夫でございますか?」
私を起こしてくれて、散乱した荷物を綺麗に揃えてカバンに入れなおしてくれた。
「ケガは無い?」
膝についた汚れをハンカチで拭いてくれる。
・・・これは、、、レインの侍従のアデル君。同じクラスだ。
ありがとう、と告げて、視線でレインを探してみると、、、
(ナニやってんだかな?)
という視線を隠しもしないで、少し離れて立っていた。まあ、、、、いつものことですが、、、
一つため息をついて、去っていく二人を見送る。
右手に、、、飴玉が一つ握らされている。
レインと婚約した10歳から、、、ずっと一緒だけど、アデル君にとっては手間のかかる妹位な感覚なんだろうなあ、、、私が泣きそうになっていると、いつも、そっと飴をくれる。
レインにはもったいない、良い侍従だ。あ、あの人だから続くのかもね。