7 メイド長レライ
一週間後、四人とその従者や騎士やメイドたちがオミナード王国に向かった。
初めての一緒に行く遠出に気分は高揚し終始にこやかに旅程は進む。
一日目の宿に着くと馬車の荷物や四人の支度の指示をメイドたちにしているのはメイド長レライであった。
「メイド長! ここで何をしておるのだっ?」
宿の玄関先でイードルは驚愕のあまり声を大きくしてしまった。
「わたくしの耳はまだ声を小さくなされても聞こえます。
それと、この留学中はメイド長とはお呼びにならないでくださいませ」
「でででは、何と?」
「レライとお呼びください」
『『『無理ですっ!!』』』
フェリアとサバラルとゼッドは心の中で叫んだ。
予定通り六日目の昼過ぎに国境の街へ着いた。留学する学園はオミナード王国の王都にありその王都までは五日ほどの旅程である。
その夜、宿での食事を終えるとレライの部屋に集合になった。これはレライが四人を呼び出したわけてはなくイードルたちの部屋へズカズカと入り込み会議などできないとの判断だ。
「明日第一目的地に到着いたしますので明日のお支度は正装に近いものとなります」
「王都が目的地ではないのか?」
「最終的には目的地でございますが明日はオミナード王国王家の離宮へとご招待いただいております」
「なるほど」
ここまでの道のりでは宿だけではなくバーリドア王国王家の離宮や貴族家の家に宿泊してきたので特に違和感を感じずに受け止める。
「王家の方がお迎えくださるそうなのでそのつもりでいらしてくださいませ」
「わざわざか?」
離宮を使わせてくれるとはいえ迎えるのは執事やメイドだと思っていた。
「はい。そのように伺っております」
「わかった。では失礼のないように支度を頼む」
「かしこまりました」
翌朝は朝から湯浴みをし時間をかけて正装してから出発し国境を越えた。
夕方近くに到着した離宮はさすがに立派なもので旅衣装で入るような雰囲気ではなくレライの気配りに皆感心する。
執事の案内で玄関を通るとそこには短い濃茶の髪にピンクの瞳を細めて笑顔で出迎えてくれた青年がいた。
「やあ! 皆さんよく来てくださいました!」
体躯はゼッドより大きくゼッドよりデカい声で大陸共通語を使い気さくに声をかけてきた。。
「ヨンバルディ第二王子殿下でございます」
四人に聞こえるようにレライが呟く。
「「「「っ!!」」」」
四人は絶句したしてしまう。確か第二王子は四人と同じ年齢だと聞いているが目の前の御仁は二十五六に見える。
『彼がもしかしたらフェリアの相手だったかもしれない方なのか……』
「ご招待いただきまして感謝いたします。イードル・バーリドアです」
いち早く立ち直ったイードルは同じく大陸共通語で返すがイードルはヨンバルディと対等な立場なので頭は下げない。
「私はヨンバルディ・オミナードです」
イードルがフェリアとサバラルとゼッドを紹介してそれぞれが頭を垂れ一言ずつ挨拶を交わした。
「流石ですね。大陸共通語は皆さん完璧なようだ。
本日はプライベートなご招待です。気兼ねなどせず過ごしていただきたい。
晩餐の用意をしておりますのでこのあと食事を共にいたしませんか?」
「ありがとうございます。是非ご一緒させてください」
ヨンバルディとイードルが二時間後と時間を決めイードルたちはそれに従いそれぞれに充てがわれた部屋に案内をしてもらう。
フェリアが部屋に着くと専属侍女として連れてきたスージーとエイミが荷解きを始めた。
フェリアは邪魔にならないようにソファセットで寛いでいる。
「そこまで荷解きするの?」
「はい。明日は移動なさらないとお聞きしておりますのでドレスの皺伸ばしのためにもいくつかは広げておきたいのです」
「そうなのね。ずっと馬車移動だったから丸一日休めるのは嬉しいわね」
そこにノックの音がした。フェリアが寛ぎスタイルから姿勢を正したことを確認したエイミがドアを開けて出迎えるとお茶のセットが用意されたワゴンを押してお仕着せを着た女性が入ってきた。
『近くで見ると本当に大きいわ』
凝視されていることに気がついた離宮メイドはフェリアに笑顔を返した。