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6 留学話の行方

「父や母には留学について了承をいただきましたわ」


「そうか」


 フェリアは留学すると決めるだろうと予想していたイードルであったが落胆は隠せなかった。


「イードル様とわたくしの婚姻は政略的なものであると理解しております」


「っ!!」


 イードルは悲しげに目尻を下げフェリアは悲しげに笑った。フェリアは池へと視線を移す。


「ですが、リナーテ様のことがありわたくしは自分が思うよりわたくしに感情のある婚約だったのだと思いましたの」


 イードルはリナーテ男爵令嬢に多少の好意を持ちフェリアを多少蔑ろにしその結果淑女を愚弄する言葉を吐いてしまいドレスの罰を受けることになったのだった。


「それはどういう意味なのだ?」


「イードル様はリナーテ様へのご好意が強くあったわけではなく正義感で自分に酔いしれて物語の主人公になったおつもりであった故の行為だということですが」


 イードルはあまりに恥ずかしい半年ほど前の自分に眉を顰めて顔を覆った。


「本当にすまない」


「あ、いえ、そうではなくて」


 顔を覆ったまま頭を下げるイードルを止める。


「ただわたくしはその時に不安になったのです。そしてその不安はわたくしがイードル様に政略結婚以上を望んでいるからだと気が付きましたの」


「それはっ!!」

「ですがっ!」


 その感情について聞き募ろうとするイードルと否定しようとするフェリアの言葉が重なりイードルが聞き手に回る。


「わたくしがもっと政略結婚だと割り切っていれば事は小さく済んだのではないかとも考えました。淑女としてもっと冷静に判断せねばと……」


 イードルが項垂れる。フェリアの視線も下を向いてしまっている。


「しかし近頃のイードル様のわたくしに対するご対応を見て再び考えさせられ戸惑ってはいます」


「そ! それはすまないっ!」


 フェリアを愛おしく思うようになったイードルは王宮内ではそれを隠そうともせず、特に二人の時には前面に押し出している。イードルはこれまでのことも反省しそれも踏まえてフェリアとの距離を縮めるためにやっていたという面も無きにしもあらずなのだが、まさかそれがフェリアの戸惑いを生んでいるとは思っていなかった。


「あ、いえ、本当に謝ってほしいのではなくて」


 深く頭を下げるイードルを再び止めるフェリア。フェリアを困らせなくないイードルは神妙な面持ちで頭を上げた。


「現在、わたくしの感情は自分でもよくわからない状況なのですわ。

しかしながらあの事件以降、淑女たる者のあり方について改めて心に留めたのです」


 イードルのドレスの罰はフェリアにとっても淑女について考える機会となっていた。


「ですから、イードル様。わたくしの淑女としての矜持を信じていただけませんか?」


「いや。フェリアの全てを信じて待っているよ。気を揉ませてしまってすまない」


 項垂れるイードルの手をフェリアは両手でそっと包んだ。その優しさにイードルは一生懸命に笑顔を向けた。


 と、そーーーんな心情的にドタバタしてドギマギしながらやり取りして肩を落とすくらいホッとしてと二人で悪戦苦闘したにも関わらず、王妃陛下のたった一言でこれまで反対の結論で解決してしまった。


「イードルも一緒に留学すればいいわ」


「「はい??」」

 

 王妃陛下の言葉に二人で同時に首を傾げたことは不敬には取られなかった。


「一週間後に出発で準備してね。

サバラルとゼッドにもそう伝えてあるから。

本人にじゃなくて彼らの母親に、だけど」


「はあ??」

「え!?」


 サバラルとゼッドの名前が出たことが理解できないフェリアは首を反対に傾げ、不穏な空気を読んだイードルは驚愕した。王妃陛下はいたずらが成功した子供のように笑っていた。


 サバラルとゼッドはイードルの側近でドレスの罰を一緒に受けた仲間だ。

 サバラルは公爵家長男で宰相の息子であり、ゼッドは侯爵家長男で騎士団団長の息子である。

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