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60 ケイナーシェの思い

 メイドは入室するとケイナーシェを気にすることなくドアに向かって頭を下げてドアを大きく開いた。


 そして入室してきた人物を見てケイナーシェは目を見開いて膠着した。


「リアフィア様…………」


 パーティーのドレス姿のリアフィアが後ろにもう一人のメイドを伴い歩みを進める。そのメイドもケイナーシェの公爵家メイドの制服である。ドアを開けたメイドはドア近くに残っている。


「ケイナーシェ様。少しお話をよろしくて?」


 慈悲深く微笑む女神の声が優しく耳に伝わるとコクンと頷く。


 リアフィアの後のメイドスージーは持ってきた椅子をケイナーシェの向かいの場所に置きそこへリアフィアが腰掛けた。確かにこの部屋には椅子は一つしかなくそれはケイナーシェが使っているしソファに座ると二人の距離のバランスが悪い。


「私……何もやってません……」


 ケイナーシェはリアフィアの慈悲深い瞳に思わず零した。


「存じておりますわ」


 ケイナーシェの灰色の瞳からハラハラと涙が溢れる。


「ケイナーシェ様はどうなさりたいですか?」


「平民に戻りたいです……」


 涙を拭うこともせず真っ直ぐにリアフィアを見ている。


「そうですか。でも残念ですがこの王都では難しいでしょう。それにお若い貴女がどのように生きていくおつもりですか?」


「あの人たちに使われるなら死んだ方がマシです。でも…………死ぬ勇気が持てないの……

うっうっうっ……」


 ケイナーシェは俯いて手を口に当て嗚咽を漏らす。


「死ぬ勇気など持つ必要はありませんわ。ケイナーシェ様は王都や学園に未練はございますか?」


 ブンブンと首を左右に振る。


「ただ一人の家族だったお母さんと暮らした町ではないし、お母さんはもう死んでしまった……。私、あの人たちを家族だなんて思ったことはないです。

だからここに未練はありません」


 リアフィアは優しく頷く。


「貴女は二つから選べます。

一つはこの国の辺境の地で再出発すること。

辺境の地と申しましてもオミナード王国とバーリドア王国の国境の町です。王家直轄にある王家の屋敷でメイドとして暮らすことができます。そこまではわたくしが責任を持って無事にお連れいたしましょう」


 破格の申し出にケイナーシェは驚きを隠せない。


「もう一つはわたくしのメイドとなりバーリドア王国で暮らすこと。

バーリドア王国のお言葉を学ばねばなりませんが、お言葉を覚えた後にでも平民になりたいのなら退職しても構いません」


「私……リアフィア様とご一緒できるのですか?」


「ええ」


「私……私……。学園で一人ぼっちだったからリアフィア様に声をかけていただいて嬉しくて嬉しくて……」


 ケイナーシェは三年二組の生徒でヨンバルディの婚約者であったため直接的な苛めは受けていないが女子生徒からの嫉妬と女子生徒に睨まれたくない男子生徒の思惑のため孤立していたのだった。

 リアフィアが三年二組に入ったのはケイナーシェと交流を持つためであり、リアフィアのターゲットとはケイナーシェのことである。


「それにこの国だと私が一時でも公爵家にいたことを知っている人がいるかもしれないし。見つかって連れ戻されるのは嫌です。

命令をきけなかった私は折檻されると思うし」


 ケイナーシェは公爵家の者たちが捕縛される予定であるとは知らないし、リアフィアもまだ彼らは捕縛されてはいないので口にしない。


「そう。それでしたら我が国の方がいいかもしれませんわね」


「お願い致します。

あの、これってヨンバルディ殿下が?」


 リアフィアは優しく首肯する。


「リアフィア様は私が偽物だと……」


「貴女は偽物なのではないですわ。大人たちの欲に利用されてしまっただけでしょう」


 ケイナーシェは再び号泣した。


〰️ 〰️ 〰️


 ケイナーシェは公爵領の小さな町で育った。母親との質素な暮らしだったがケイナーシェが不満を持つことはなかった。

 しかし、その幸せはケイナーシェが十二歳の時に母親の流行り病による突然死で崩れ落ちた。


 母親の死から一週間後に公爵が現れたのだ。母親が最後の気力で手紙を出したという。


「お前がケイナーシェか。確かに公爵家の髪色だし容姿もワシに似ているようだ。女なら使えるな。今日から我が公爵家の一員にしてやろう」


 嫌がるケイナーシェは無理矢理公爵邸へ連れていかれ公爵令嬢として教育をされる傍ら夫人とその息子たちによって虐待された。

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