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59 危険な薬

「皆さん! パーティーはこれで解散といたします。冬休みが明けましたらまた再開いたしましょう。

かいさぁん!!」


 生徒会長が懸命に声を張り上げてその場を収めた。

 ヨンバルディは生徒会長に労いと謝罪の言葉をかけ、一同は王子宮へ戻る馬車に乗り込んだ。


〰️ 〰️ 〰️


 その三日後、下位貴族が普段使うような小さくて装飾のない馬車がバーリドア王国へ向けて王都を出た。

 王都を出てしばらくすると馬車の窓が開く。


「うわぁ!! すごぉい! 森がこんなに広く切り開かれているなんてぇ!」


 そこは馬車が余裕ですれ違えるほどに整備されている。


「この街道は王家直轄地、そしてバーリドア王国まで続いておりますから。

それよりナーシェさんそんなに身を乗り出しては危ないわ」


「はい!」


 素直に従ったナーシェと呼ばれた少女の肩で切り揃えられた薄紫の髪が風に靡く。可愛らしく切られた短い前髪のおかげでよく見える濃いグレーの瞳は希望に溢れてキラキラしていた。



〰️ 〰️ 〰️


 パーティーの翌日、王城内にニュースが流れた。ヨンバルディ第二王子の婚約者で公爵令嬢のケイナーシェが服毒自殺したのだ。

 貴族牢にいたケイナーシェに面会したのはケイナーシェの公爵家のメイドだけだったためそのメイドが毒を持ち込んだと判断された。


 王城に毒を持ち込んだことを理由にして公爵家に家宅捜索が入る。


 そこで出たのはティルキィの伯爵家から見つけられた薬物と同じ薬物の売買の証拠だ。


 伯爵家から押収した帳簿と照らし合わせて二家が共謀していたことがあきらかになった。


 ケイナーシェの部屋に残っていた薬がまさにそれで、過剰摂取による服毒自殺とされ公爵家の当主、夫人、ケイナーシェの兄二人が薬物に関わったとして捕縛されるきっかけとなる。

 そしてその薬は昨日から禁止薬物となっていた。不思議なほどのタイミングであるため暴れて陳述をする公爵一家であったが、王家はそれを聞くつもりなど毛頭ない。


 そのためのタイミングだったのだから……。


 ヨンバルディの元にはケイナーシェの紫色の髪が届けられ、ヨンバルディの指示で公爵領のとある町の古い墓石にその髪は埋葬された。


 その日の夜、王太子である第一王子は側近に愚痴を零した。

 目を通していた資料を机に投げる。


「伯爵家を押さえた時点で証拠は揃っていたからいつでも公爵家は捕らえられたのにな」


「しかしながら公爵家が大胆に犯行を行うようになって捕らえやすくなり大幅な罪状増の証拠押さえができたのはヨンバルディ殿下のご婚約のおかげですから」


「だからルディのタイミングまで捕縛は待ってやったんだ。

ルディからあれこれと強請ることは少ないから願いを叶えてやったが、伯爵家を押さえたことを隠すこともそろそろ限界に近かったな」


「左様でございますね。ヨンバルディ殿下もその辺りはご存知かと思われますが」


「だろうな。それを計算してバーリドア王国の王子たちを招いたのだろう。

つくづくできる弟だ。

ルディをしばらく手放すのは惜しいな」


「他国にて更にご成長なさって戻られるかと存じます」


「ルディの希望は叶ったのだろう?」


「はい。早々に町外れの宿屋へ移しておきました」


「そうか。なら、ルディが戻ったらまた働いてもらわねばな」


「国王の座はご心配なさらないのですか?」


「ルディにならいつでも譲る。

が、ルディがその気になってくれるとは思えん」


「左様でございますね」


 二人は再び書類作業を始めた。


 二人はケイナーシェに会いに行った者が本当は公爵家のメイドではないことを知っている。


〰️ 〰️ 〰️


 パーティーの席で貴族牢へ入れられたケイナーシェは茫然自失で小さな椅子に座っていた。

 貴族牢は清潔感もあり不愉快になることはない。牢といっても窓に鉄格子がしてあるだけで普通の部屋である。廊下には衛兵が数名いるらしいがケイナーシェにはわからない。


『私の幼い頃の部屋より立派だわ……はぁ』


『この部屋までもお花が活けてあるのね』


『あのソファに座ったら寝てしまいそうだわ』


 深く考える気力もないケイナーシェは目に入ったものに単純な感情を持っては嘆息する。


『コンコンコン』


 そこへノックの音がした。ケイナーシェが答えることを待たずにドアが開く。


 入室してきたメイドはケイナーシェの家である公爵家のメイド制服を着ていた。しかし、ケイナーシェには知らない顔であった。


『私のお世話をしていたメイドはほんの一部だもの、知らない者で当然だわ。

でも、何をしに来たのかしら?』


 ケイナーシェは迎えるでもなくぼんやりと見ていた。


『私を公爵家から追い出すのかしら?

そうだといいなぁ………………』

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