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5 ボイディスとの思い出

「フェリア。留学の分は学園の出席日数に加算するし貴女の成績はすでに卒業に足りているから卒業は問題ないわ」


 現在はイードルがドレスの罰を受けてから半年ほどで二人が三年生になってからまだ一ヶ月である九月下旬。にもかかわらずすでに卒業の基準に達しているフェリアは大変に優秀である。


「貴女はオミナード王国語も完璧だし。留学といっても短期なの。卒業式はこちらで出席することになると思うわ。

公爵にも今朝方打診はしておいたから家族と話し合ってみてね」


「わかりました。父や母と相談してまいります」


「ええ。そうしてちょうだい」


 丁度良く入室してきた文官を見た二人は王妃陛下の忙しさを慮り早々に退室した。


「フェリア。馬車寄せまで送ろう」


 王妃陛下の執務室にいたメイドにフェリアの家の馬車を王城の馬車寄せに呼ぶように頼んでおいたのでそろそろ待っているはずである。


「フェリアの気持ちは決まっているようだな」


 イードルは顔は笑顔だが沈んだ声で行った。

 イードルは無理矢理笑顔を作っている。王妃陛下の執務室を出ればいろいろな視線があり特に王宮から出て王城へ行けば一般文官含め多くの人々が行き来している。そのような場所でイードルが不安な顔で歩くわけにはいかない。以前のイードルなら無表情で歩いていたが、ドレスの罰による淑女教育体験で習った笑顔を貼り付けて王城勤務の者たちに安心を与えることも仕事だと思えるようになっている。


 しばらく逡巡したフェリアは意を決して口を開いた。


「わたくしはイードル様をお支えすべく学べることは一つでも多く学んでいきたいと考えております。ボイディス様とのお話も大変有意義で他国を知ることはイードル様のお手伝いにそしてゆくゆくは我が国の発展の参考になると思えましたわ」


「私も頭ではわかっているのだ。

この思いを口にすることが浅慮であることも」


 イードルは自分の左腕に乗るフェリアの手に自分の右手を重ねた。


「今夜ちゃんと考えるから」


「わたくしもどのような形が良いのか考えてみますわ。

明日の午後、また参ります」


「ああ。待っているよ」


 イードルは一つ息を吐き出すと本物の笑顔でフェリアを送り出した。


 翌日の昼過ぎ。王宮の庭園に二人はいた。


「イードル様。少しお付き合いいただいてもよろしいですか?」


 フェリアに連れられて庭園を歩くとたどり着いたのは人口池の畔にある大きな常緑樹の下であった。常緑樹の向こう側にコスモスが一面に咲き誇る花畑が広がっている。


「コスモスが素晴らしいですわね。夏のヒマワリも好きなのです。この花畑は四季で楽しめて素敵です」


 イードルはフェリアの言葉を待った。


「幼き頃にここでボイディス様と初めてお会いしたのです」


「えっ!!?」


 まさかボイディスの話になることは予想していなかったイードルは思わず声を漏らす。それを優しく見たフェリアは話を続けた。


「その時ボイディス様は大好きなお友達と上手くお話できずそのお友達に嫌われているかもしれないと悩んでいらっしゃいました。わたくしは御本人にお聞きになっていらっしゃらないのにそのように思い込んではいけませんとアドバイスいたしました」


 イードルは泣き顔で辺境伯に飛びついた幼きボイディスを思い出した。


「それからしばらくして王子殿下のお披露目がありまして、ここで会った少年と似た面持ちで彼より明るい髪色で彼より少し吊り目のイードル様のご尊顔を拝見いたしました。

その日からわたくしを含めた数人のご令嬢がイードル様の婚約者候補として参内するようになったのです」


 フェリアは幼き頃を思い出すよう遠い目で話をしている。


「少年のお慕いするお友達がイードル様だとすぐにわかりました。

わたくしより幼き少年が慕う方がどのようなお方かとイードル様にお会いすることが楽しみになりましたの。

ふふふ。ボイディス様が同年齢だと知ったのは随分と後のことですのよ」


 フェリアは口に手を当てて可愛らしく笑った。イードルはフェリアが自分を安心させるためにわざわざボイディスとの出会いの話をしてくれたのだと理解しボイディスについてこれ以上心配はすまいと決心した。

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