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56 グループダンス

 二人が舞台の真正面に立つと舞台の端に立っていた生徒会長が中央へ来る。


「みなさん。明日より一ヶ月の冬休みとなります。今日は是非楽しんでください!」


 拍手と歓声が舞い踊る。暫くして生徒会長が手を上げてそれを止めた。


「では本日のファーストダンスをヨンバルディ第二王子殿下にご披露いただきます」


 ヨンバルディたちが舞台から会場へ振り返る。生徒たちは拍手をしながら壁際へ下がりダンススペースを空けていく。


「愛しいドリーは恥ずかしがり屋で一組だけでダンスはしたくないそうなのだ。

シアゼ。テラゾン。付き合ってくれるか?」


「「かしこまりました」」


 二人は一礼すると自分のパートナーに手を伸ばした。パートナーをエスコートして三組がダンススペースに立ちホールドをするとタイミング良く曲が始まった。


 綺羅びやかな三ペアが同じ大きさのサークルを描きながら踊っている。綺羅びやかなのは服装だけではなく気品や優雅さがそう見せているのだろう。


 同じようでありながらそれぞれが個性的でどのペアも素晴らしい。その中でも特に目を引いたのはヨンバルディたちではなくシアゼたちであった。


 それはひとえにリアフィアの優雅で美しくそれでいて複雑に動くスカートがステップの細かさを伝えているからだ。誰よりも小さな体のリアフィアが誰よりも大きく輝いていた。


「リアフィア様。素晴らしいですね」


「うふふ。シアゼ様が練習にお付き合いくださったからですわ」


「殿下からの視線が痛かったですがその甲斐はありましたね」


 シアゼがチラリと送った視線の先にはヨンバルディのカップルがいる。ヨンバルディはドリーティアの熱い熱い視線を受け止めるしかなく苦しいが笑顔を賢明に作った。


「ドリー……。今日は随分と熱烈に見つめるね。本当の恋人だと思ってもらえそうだ」


 ヨンバルディの冗談にドリーティアは笑う余裕などなく真面目に答えた。


「リアが気になってしょうがないのよ。あれをまともに視界に入れたら正気でいられる自信はないわ」


「それは困るな。これだけ熱く見つめ合う恋人同士の僕たちを誰も疑いはしないからいいけど」


「ルディもリアを見ちゃダメよ」


「どうして?」


「ルディの視線を追って私も見てしまうからっ!」


「わわわわかった」


 もう一つのペアは気にせず自分たちのステップを賢明にしている者たちもいる。


「バラティナ嬢。いつもながら本当にお上手です。俺のステップをフォローしてもらってすみません」


「テラゾン様は侯爵家のご長男でしょう? 初めて踊った時は驚きましたわ」


 あまりに下手で驚かれていたテラゾンは今日のために必死に練習した。


「面目ない」


「まあ、お国柄ですからしかたありませんわ。でもだいぶマシになりましたわね」


「バラティナ嬢にしっかりご指導いただきましたから。バラティナ嬢は男性とは思えない見事なテクニックですね」


「それはそうですわ。愛するバーバラのことをもっと理解したくて母国では女性パートも練習しておりましたの。私の理想はバーバラですもの」


 いつものバーバラ自慢にテラゾンは笑うしかできない。


「あらいけないっ! ドリー様にバーバラ自慢は止めるようにと言われておりましたのに」


「俺が相手なら大丈夫ですよ。誰にもできないのはバラティナ嬢も苦痛でしょう。そこまで自慢のできる婚約者様がいらっしゃるのは羨ましいです」


「うふふ。ありがとうございます。今日のテラゾン様のダンスを見たら女性たちがテラゾン様を放っておかなくなるとリアフィア様が仰っておりましたわ。テラゾン様もステキな婚約者を見つけてくださいませ」


「あはは。俺は仕事が恋人で十分です」


「まあ。殊勝ですこと。ねぇ、テラゾン様。私、テラゾン様とは国を越えて良いお友達になれそうだと思っておりますの」


「そうですね。男同士に戻ったら酒でも飲みましょう」


「良いワインを用意してくださいませね」


「了解しました」


 テラゾンがバラティナの手を離すとバラティナはクルリと回りながら右に動く。そこにはシアゼの手があり今度はシアゼとパートナーになった。


「「「わあ!!!」」」

「「「すごいわぁ!」」」

「「何が起こったんだ?!」」


 曲の中盤に差し掛かった頃いつの間にやらパートナーがチェンジしていた。自然なパートナーチェンジに観客となった生徒たちは歓声の声を上げ拍手が響く。

 それに答えるようにヨンバルディはリアフィアを回しながら観客へ手を振った。


「あ! まずい! ドリーがこちらを見るきっかけを作ってしまった!」


「どういうことでございますか?」


「ドリーはリア嬢と他の男が踊るところを見たくないそうだ」


「あらあらまあまあ。だから王子宮での練習もご一緒ではなかったのですね」


「練習の後にはいつもシアゼが必死でフォローしていたよ」


「ですがこうしてパートナーチェンジが上手くいくほど練習なさってくださったのですよね。うふふ。嬉しいわ」


「国へ帰ったらたくさん踊ってやってくれ」


「かしこまりましたわ」


 最後にもう一度パートナーチェンジをしてテラゾンはリアフィアと向き合ってお辞儀をした。

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