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55 お嘆きの方

 女子生徒たちの姿を遠くから見ていたドリーティアは隣の男をギロリと睨みつける。


「つまり、ルディは私達にぶつかった者たちの名前を知っていたのね」


「僕ではない。ただ学園長のところに『足腰が弱く歩行や立ち座りに問題がある生徒』の名簿が置いてあったらしい」


「どう考えたってルディじゃないのっ!」


「僕ではないってば……」


「下位貴族令嬢まで巻き込んでるわ」


 名簿にはドリーティアたちのクラスメートの名前もあり掲示板の前で泣いている。


「淑女でなくとも足腰の弱い女性ばかりでは困るからってお考えなのかなぁ……。

つまりね……我が国にも淑女の頂点たる女性はいるってことだよ」


 遠くに目を送るヨンバルディの声は空に消えていく。


「「「「っ!!」」」」


 ドリーティア、リアフィア、バラティナ、シアゼは息を飲み、テラゾンは頭を抱えて座り込んだ。


「その方の嘆きはそれはそれは……もう……。

ね? 僕には勝てない相手だろう」


「はあ……。ルディの気持ちは理解する」


 男言葉のドリーティアには多大に賛同できる思い出が走馬灯のように蘇り、大変に納得だと首肯する。バラティナとシアゼもゆっくりと首を立てにした。


「ありがとう」


 ヨンバルディの目は半分死んでいた。


 その後、あからさまなイジメがなくなった代わりに媚びへつらったり機嫌をとろうとしたり友好ムードを漂わせたり、バラティナを口説いたり――こちらはマルティが全力で排除していたが――そういう者たちを尽く袖にして過ごしていた。

 

 ドリーティアがウォーキングのレッスン講師をしたときに下位貴族令嬢たちがこぞって参加したことはさすがに驚きであった。


 二組に入っていたリアフィアとシアゼはターゲットと接触に成功し順調に親好を深めた。


 そうこうしているうちに冬休み前のダンスパーティーへ向け学園内が浮足立ってくる。


「どの国でも学園の楽しみの一つよね」


「ドリー様。レッスンの成果がお披露目できますね」


「お相手がリアではないことが残念だわ」


「うふふ」


 ワンピース姿の二人は王子宮のサロンでそっと手を繋いだ。


 学園では毎年冬休み前に生徒会主催のダンスパーティーが催される。婚約者との仲を深めたり恋人を探したり遊び相手を探したりととにかく恋愛に対して敏感になる催しであることは間違いない。


 寮住まいの生徒たちのために学園の更衣室やら教室を開放し高位貴族家からメイドが派遣され正装に着替える手伝いをしてくれる。

 早々に着替えた者たちは大講堂に集まり食事を楽しむ。これまた高位貴族家からデリバリーやらケータリングがされ料理はもちろん給仕メイドやら楽団やら警備をする騎士やらは十分に行き届いていた。

 各家を表す紋章なり胸章なりをしているのでどの家が何を提供したのかがわかるようになっている。毎年事前に申請し学園の生徒会が許可を出すとともに規模を決めておりその辺の差配が生徒会の腕の見せ所である。

 そういうわけでいつもよりも美味しい物が食べれるので寮生活の生徒たちは急ぎ足で集まるのだ。


 逆に高位貴族子女たちは下位貴族子女たちが食事を満足した頃を見計らい自分の家の爵位を考慮して王都にある屋敷からわざとゆっくりめに来場する。


 そしてそれらの考慮の結果、王族は最後の入場となるのだった。


 騎士たちが慌ただしく動きヨンバルディの来場を示唆させ各々の手を止めて入り口に注目した。


 扉が開くと水色のAラインドレスと紺色のタキシードを纏った二人が腕を組んでおり優雅に歩みを進め始めた。カラシ色の髪の男性は女性と目を合わせるような甘い雰囲気はないが頻繁に女性の少し前に視線を送り大切にエスコートしていることがわかる。外巻きの青い髪を揺らして微笑の口元を扇で隠す女性は男性を信じて真っ直ぐに前を見ており広がりの大きな裾の僅かな揺れに気品を感じる。向かうは正面の舞台近く。高位貴族子女たちが集っているあたりだ。


 二人が会場の三分の一ほど進むと入り口にもう一組の男女が現れる。


 ふわふわのピンクの髪をサイドを三つ編みにしてハーフアップにしている女性は黄色のプリンセスドレスに身を包みグレーのタキシードを着た緑色の髪の男性にエスコートされている。二人は雰囲気を楽しむかのように時折目を合わせては笑顔になり女性のスカートもその楽しさを表すように手を使って大きめに揺らしている。それにも関わらず女性がよろめくこともなく、二人のテクニックが垣間見れるウォーキングである。


 最後に現れたのは若草色のお揃いの衣装を着こなしたカップルである。

 スカートがストレートに近いAラインドレスは歩き方を間違えると下品になってしまうがその女性は腰を大きくくねらすこともなくかといって小幅で歩くわけでもなく優美に歩を進めている。扇で目の下まで隠しているので女性の表情はわからないが隣でエスコートするダークブラウンの髪を撫でつけた男性は愛おしそうに何度も女性に笑顔を向けている。時折耳元へ口を寄せればエスコートされている女性ではなくギャラリーが息を呑むほどの笑顔である。

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