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51 婚約者自慢

「と、とにかく、貴賓室近くまで送るよ」


 ドリーティアとバラティナはマルティについて行き教室を出た。出る直前に僅かに首を動かしてクラスメイトの顔色を見る。


『青褪めている者は怪しいな。まあ、ヨンバルディにとってこれらの犯人が誰かなんて関係ないんだろうけどな。だが怪我をさせられてはたまらないからチェックは必要だ』


 バラティナも同様に考えていたようで鋭く教室内の様子を見ながら退室していった。


 二人の余裕のある対応に悔しがる者や恐れる者が顔に出している。


『淑女練習で笑顔作りは本当に役に立つな』


 ドリーティアは鏡の前で練習した日々を懐かしんだ。


 ヨンバルディの控室にいたメイドは平素な様子でバラティナの着替えをした。このメイドたちはヨンバルディの王子宮の者たちである。


 ここへ来たついでだと一限目は休むことにした二人はソファでお茶を始めた。


「あのクラスって子爵家の者と男爵家の者ですよね?」


 二人は八クラス編成の六組に所属している。


「そうよ。伯爵家は大抵四組までの所属であるらしいわ」


 レベルに合わせたクラス編成は自然に高位貴族子女が上位クラスになる。伯爵家では五組になったら恥だと言われているらしい。


 バラティナは考えながら首を傾げた。


「下位貴族子女が王子のお気に入りの者の友人をイジメたりするってすごいですわね」


「後ろ盾がある子はいるんじゃないのかしら。誰もがルディの妃を狙っているようだから後ろ盾には困らないのではないの? その子が王子妃になればイジメたことも正当化できると思っているのよ。

でなければ私たちを追い出しに成功させて、それをネタに高位貴族令嬢へ自分を売り込むのもあるかも」


「何人かは本人が愛妾になることを狙っているのでしょうね」


「ああそうね。歯をむき出しにしていた者はその傾向にあるでしょうね。私の存在が愛妾の現実味を増させているのだわ。ご苦労さまって言いたいわ」


 怒りを隠そうともしない女子生徒の顔を思い出して肩を揺らして笑う。


「淑女の現実を知る前は表情を隠さないことを可愛らしいと思えましたが、こうして淑女を知れば知るほど心を見せぬことは教養なのだと実感いたしますね」


「教養とテクニックを身につける努力と忍耐、対応力や判断力。それらを兼ね備えた淑女たち。社交にこれほど労力が必要だとは思わなかったわね」


 二人はふぅと息を吐いてお茶を口にした。


「レライの言うようにバーリドア王国の学園では私たちはあくまでも男として扱われていたようね」


「はい。リナーテ嬢からクラス内でのイジメについて話を聞いたことはありませんが、もしもっと陰湿なものなら本人たちしかわからないイジメもあるのかもしれません」


「私たちにはクラスに味方はいないのだと示しているのかもしれないわね」


「ふふふ。ならマルティ様の行動はびっくりなさったでしょうね」


「それはどうかしら? 彼ってどう見ても軟派な感じでしょう。私が一目惚れでもすればいいと思ったのかもしれないわ。糾弾する格好の理由になるもの」


「深いですねぇ……。

幼き頃から可愛らしくて天使で優しくて大らかで素晴らしすぎるバーバラと婚約している私には人の色恋は難しいですわ」


「…………。

あのさぁ。サバラル。前々から言おうと思っていたのだが、その、何かに付けて婚約者自慢するのはどうかと思うぞ」


「え!! なぜです? あのバーバラですよ! 僕が言っているのは自慢ではなく事実なだけですよ」


「いやいや、お前にとってそうかもしれないが、そのバーバラ嬢に捨てられそうになったわけだしな」


「捨てられる!? そ、それはっ、イードル殿下も同じではないですかっ!?」


「あぁ、そうなんだけど。私は外でフェリアの自慢はしないぞ。リアの魅力がだだ漏れなのはリアが魅力的すぎるのだからしかたないだろうしな」


 バラティナが目を細める。


「自慢……してますよ」


「こんなのはサバラルとゼッドにだけだ。あ、あとルディに、だな」


 ドリーティアが飄々と答えた。


「まさか! お二人で仲睦まじく歩いていらっしゃると思ったら婚約者自慢をしていたのですか?!」


「あ〜〜、先程のことが婚約者自慢というならそういう時もある。ただの自慢ではないぞ。リアならどのようにするのかを二人で考察してエスコートに繋げるためだ」


「ルディ殿下がご婚約者様とどのようなご関係かお考えになったほうがいいですよ」


「おいおい。お前もルディに婚約者自慢していたぞ」


「え? うそ? いつ?」


「かなり頻繁に。

わかりやすいところでいうとカツラを初めて付けたときね」


「あれはルディ殿下へ言ったわけではなくてですねぇ」


「でもルディは隣にいたぞ」


「「………………」」


 二人は再びお茶を口にした。


「とにかく私たちは女性であるのだから女性婚約者の自慢は止めておきましょう」


「ドリー様。承知いたしましたわ」


 メイドが一時限目が終わったと声をかけてきて二人はソファから優雅に立ち上がった。


 休み時間に二人が教室に戻るとマルティが駆けつけてきてバラティナが笑顔でマルティに礼を述べると照れた顔で喜んでいた姿を女子生徒たちは軽侮の眼差しで見ていた。

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