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 昨夜『悪役令嬢物語』についてメイドから詳しく聞いたドリーティアはその悪役令嬢がしたという虐めを幼稚だと感じ、まさかそれが自分たちにやられたとは驚きより呆れである。


「うふふ。ドリー様ったら本音を言い過ぎですわ」


「だって、このようなことは市井の子どもたちでもやらないわよ」


「それは愚弄するお言葉ですわよ。市井の子どもたちは人の痛みもわかっており良識もあり物の大切さも知っておりますもの。ご一緒になされてはいけませんわ」


「確かにそうですわね。同等に見てしまうなんて間違えていたわ。子どもたちに謝罪をしなくてはならないわね」


 扇を巧みに使いながら笑って話をしている二人の会話にギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばり口の端を歪ませた女子生徒たちがいるがそちらには目もくれない。


 そこへテラゾンが教科書を抱え学園の掃除婦を連れて戻ってきた。掃除婦は「あらあら」と言いながらさっさと掃除を始めた。その様子だとこのようなイジメは珍しいことではないらしい。


「バラティナ嬢。ヨンバルディ殿下の教科書を使ってほしいとのことです」


 教室中が息を呑む。テラゾンが学園から借りてきたのかと思いきやヨンバルディのだと聞かされれば驚くのも無理はない。


「それではルディ様のお勉強にさし触るのではなくて?」


 ドリーティアではなくバラティナの『ルディ様』呼びに親密度を測りかねてざわめきが起こる。


「殿下はすでに学習内容を履修しております。学園には戯れで通っていらっしゃるのですよ。

あ! 現在は別の楽しみがあるようですが」


 テラゾンがドリーティアに視線を向けて意味を含ませて笑顔を見せることによってドリーティアのために通学していることを示唆させる。


 ドリーティアが扇を華麗な手付きで数本分広げた。


「いやだ、テラゾンったら恥ずかしいわ。ランチを楽しんだり、午後のお散歩にお付き合いしていただいくだけですのに、私との時間を喜んでくださっているなんて。うふふ」


 ドリーティアはゆっくりと扇を更に広げて半分ほどにして顔を隠す。さすがに顔を赤くすることまではできないので赤くなっているかのように想像させるため目元近くまで顔を扇で隠して目尻を下げ視線を下に向けた。

 恥ずかしそうにしている美少女にしか見えない。


『さすが! 殿下っ! うっまいなぁ!』

『男性……ですよね?? ランチの後に散歩をすることをヨンバルディ殿下に提案しておこう』


 バラティナとテラゾンは心の声を隠してニッコリと笑う。


「では、ルディ様のご厚意をお受けさせていただきますわ。でもそちらを使うのは私ではなくドリー様がよろしいかと」


「バラティナ嬢! それは殿下もお喜びになられます」


 テラゾンは早速ドリーティアの机に置きドリーティアの机の中の教科書を掃除が済んだバラティナの机の上に置いた。


「バラティナ。テラゾン。ありがとう。私、お勉強も頑張るわ」


「「はいっ!」」


 三人はとびきり明るい笑顔を作った。


 翌朝はバラティナの椅子が水浸しになっていた。

 テラゾンが掃除婦を呼びに走る。


「このように見える工作ではひっかかる者などおりませんでしょうに」


「『イジメるわよ』と宣言なさっているのではないでしょうか?」


「あら? そうかもしれないわね。だとしたらとっても優しい方々なのね」


「お優しさではドリー様の上をいくものはいらっしゃいませんわ」


「もう! バラティナったら上手ね」


「うふふ」「ふふふ」


 笑顔で嫌味全開に話している間に掃除も終わり着席して何事もなかったかのように授業となった。


 数日は手をこまねいたのか何もなかった。


 今日も何も表立っては変化はないようなのでテラゾンは一礼して教室を出て二人は着席する。


『にちゃり』


 膝辺りに不快な接触感を抱いたバラティナは椅子を引いて立ち上がる。

 ワンピースドレスのスカートが汚れていた。机の下を見ると机の下部と脚に泥が付着している。クスクスと教室から笑い声が聞こえてきた。


「まあ! 少しは頭をお使いになったようね」


 マルティが慌ててバラティナの席に来た。


「シミになってしまう! 保健室に制服の替えがあるから案内するよっ!」


「王子宮のメイドさんたちは優秀なのでこの程度なら問題ありませんわ」


 笑いがピタリと止まる。誰も確認などしていないがドリーティアのことを娼婦のように考えていたのでドリーティアとバラティナには貸家を充てがわれていて毎朝ヨンバルディが迎えに行くのだと漠然と思い込んでいたのだ。バラティナの『ルディ様』呼びも平民に近いからマナーがなっていないことをヨンバルディが赦したのだろうという憶測が大半であった。


 まさか二人共王子宮に住まっているなど想像の上である。


「そうか。子爵家の俺では想像もつかないが。

とにかく机の掃除は必要だね。掃除婦を呼ぼう」


「バラティナ。確かルディの控室に着替えがあったわ。一緒に行きましょう」


「ドリー様。ありがとうございます。

マルティ様。机のことはお任せしてもよろしくて?」


 初めて名前を呼ばれたマルティは舞い上がった。


「任せといてよ! ピカピカにしておくからっ!」


「うふふ。マルティ様ったら可笑しいわ。お掃除をしてくれるのは掃除婦さんでしょう?」


 扇で口元隠して笑うバラティナは可愛らしくマルティは顔を赤らめた。

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