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49 悪役令嬢物語

「インク瓶をひっくり返すまではしなかったように、我が国の女性たちはあまり回りくどくないような気がします。女性といえど武闘派が多いですからね。特に下位貴族の女性には」


「それは授業にも表れておりますわね」


 午後の授業は男女に分かれるが女子は令嬢教育と防衛術以外に選択科目の時間には武道と家政と淑女に分かれる。下位貴族令嬢の半数は武道を嗜みそれを職業なり自衛なりに役立てたいと考えているのだ。

 とどのつまり老若男女に関わらずバーリドア王国よりオミナード王国の方が好戦的な人種である。それはオミナード王国の隣接国との関係に寄与している。バーリドア王国でない隣国とは未だに交戦することがあるのだ。


「お国柄ですもの。それが悪いということはございません。それだけ女性が活躍できる国政であることが素晴らしいと思いますわ。

女性騎士団は我が国にも取り入れたいところです」


 バーリドア王国では女性騎士は存在するが単独の騎士団ではないため不都合もあると聞いている。今回の視察でリアフィアが勉強したいと思っていたものの一つである。


「まるで『悪役令嬢物語』みたいですわね」


 リアフィアが楽しそうに笑いレライも小さく吹き出した。


「そのなんとか物語とはなんですか?」


 ヨンバルディだけでなく男たちは首を傾げる。このときの男たちには女装男子も含まれる。


「女性の間で流行っておりますのよ。婚約者が恋人を作り、それに嫉妬した令嬢がその恋人を虐めるというお話ですの」


「婚約者がいるのに恋人を作るのか? ルディのように作戦ではなく?」


 ドリーティアが声をあげヨンバルディとバラティナとシアゼも目を丸くしてドリーティアに同意した。


「ゴッホン!!」


 高々と咳払いしたレライがドリーティアたち三人を見る目は大仰に叱責を含めている。


「あ……」

「っ……」

「ごめんなさい……」


 二人は顔を青くして、シアゼは深々と頭を下げ、ヨンバルディは首を傾げ、リアフィアは苦笑いである。以前に馬車にてリアフィアへ一度やらかしているシアゼは即座に謝罪した。


「リア……すまない」


「フェリア様。その節は本当に……」


 ドリーティアとバラティナも深々と頭を垂れる。


「反省していただければ今回はよろしいですわ。それにわたくしは悪役令嬢にはなりませんし」


「ヨンバルディ殿下には後ほどわたくしからご説明させていただきます」


 レライが恭しく礼をするのでヨンバルディはコクコクと頷いた。

 なんとなしに皆が茶を手にして一心地つく。


 ドリーティアは一つ息を吐いた。


「バラティナ。ルディの予想を聞くにこれからもバラティナへの攻撃はあると思ったほうがいいようなの。クラスを変更してもいいのよ」


「高位貴族子女より下位貴族子女の方が手が出やすくわかりやすいと思い二人には六組に編入してもらったのだが、怪我をさせることは本意ではないのだからクラス替えは可能だ」


 ドリーティアが眉を下げヨンバルディも助言するがバラティナは手でパタパタと顔を扇いでからニッコリと笑顔を作って返した。


「いえ、先程の話を聞くとドリー様にお被害がないことが優先です。私の存在がお役に立てるのならこれくらい……がんばれますっ!」


 バラティナは真っ直ぐにドリーティアを見つめた。


「サバラル……」


 切なくなってぎゅっと扇を握りしめたドリーティアはすっかり女の子だ。


『バキッ!』


 前言撤回。


 握力はまさに男そのもので扇の割れる音を聞いたメイドがサッとドリーティアの手元の扇を交換した。


「元より攻撃させることが目的なのです。被害がドリー様であれ私であれ問題はないはずです。それを鑑みるとルディ様はあまり六組にはお顔をお出しにならないほうがよいかもしれません。さすがにルディ様の前ではおやりにならないと思いますもの」


「ですが、ご寵愛だと見せる必要もございますわ」


 バラティナとリアフィアの意見に皆も意見を出し合ったがどちらがいいという話ではないとの結論になった。


「適度に、ということだな。僕ももっと周りの空気を気にしていこう」


「これまでは基本的に無視でしたからね」


 食事を終えヨンバルディの後ろに控えたテラゾンがヨンバルディを冷やかすとヨンバルディは顰め面をした。

 仲の良い主従関係がよく現れている。この数週間でヨンバルディとテラゾンやギイドをはじめとした王子宮の使用人たちとの関係性がすこぶる良いものであると感じている四人は遠慮なく笑った。


 レライの『淑女としての行動にまだ不安が残りその中で女性だけの中でのトラブルは避けたい』という判断でドリーティアとバラティナは男女別になる午後の授業は暫く欠席することにした。


 翌朝、昨日のように登校する。リアフィアを含めた三人の装いは足首ほどのワンピースドレスである。

 教室に入った二人はバラティナの机を見て呆れ顔をわざと見せた。教室まで同行したテラゾンは踵を返す。


「まあ! なんと幼稚なのでしょう」


 バラティナの机の中にあったはずの教科書がズタズタにされて周りの床にまで散らばっていた。

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