47 側近の心得
女装していないシアゼは驚きはあるものの自分への危機感は感じていなかった。だがそれを見越したレライから串刺しされる。
「サバラル様、ゼッド様におかれましてはイードル殿下にフェリア様の代役をするように助言をできない場合、王家の側仕えを解雇し後継者として扱わない方針であると聞いております。
もちろんその場合はご婚約も解消です」
『ルディ殿下がイードル殿下の言葉を勘違いしてくださって助かったぁ』
バラティナはホッとして顔を覆って身を折り、シアゼは気が緩んで口を半開きにする。ドリーティアが本当はヨンバルディの婚約者を口説くという意味の発言であったことはドリーティアから聞いていた。
バラティナは女装することになり本当は猛烈に反対したかったのだが、バーリドア王国とオミナード王国の王国間の話であるのだろうと判断して涙を咽んで従った。
『王国に忠誠を誓う貴族としての判断ではあったが側近としての判断だったかと問われると不安が残るところだ。もっと側近としての意識や行動を学ばなけれなならないな』
手で覆った顔の奥でそっと気合を入れる。
『そうか。イードル殿下に苦言を呈したり反対意見をすることも我ら側近にしかできぬこと。賛否も慎重に行っていこう』
呆けた顔を引き締めて奥歯をギュッと噛むシアゼ。
凛としたレライはドリーティアたち三人の顔をぐるりと見た。
「つまりフェリア様のご発言の『フェリア様を王妃になさりたいのでしたらオミナード王国で淑女のお手本たれ』というのはまさに王妃陛下のお考えそのものです。そして公爵夫人、侯爵夫人にもそれらをご理解いただきご賛同いただいております」
ドリーティアはソファに崩れ落ちた。
『あ……ぶなかった。リアを失うところであった』
『僕の側近としての判断はまだ甘い』
『護衛だけが役割ではないのだ!』
そんな話を端に置きリアフィアは不思議そうな顔をしている。
「あの……」
やっと発言したリアフィアに注目が集まる。
「バラティナ様の件でございますがそんなに酷いことでしょうか? バラティナ様は転ばされただけございましょう?」
テラゾンを含めた五人の男たちは瞠目するがその態度もリアフィアには不思議なもので目を瞬かせた。
レライが『コホン』と咳払いをする。
「わたくしがご説明いたします。
スカートの後ろを踏み転ばされるなどは初歩的なものでございます」
「初歩? 何の?」
「もちろん嫌がらせの初歩ですよ」
男たちは顰め面やら呆れ顔やらどうも腑に落ちていないようだ。
「では慣れるとどうなるのですか?」
「お相手が転んだタイミングでスカートを捲くりあげお相手のおみ足を晒させることもあります」
淑女がパーティーの席で四つん這いになり膝より下を晒すことなど恥でしかない。
「どうやるのです? それにやった方も社交界で嫌われるのではないですか?」
「それはテクニックですから。犯人がわかったとしてもさりげなければスルーをすることが社交パーティーでの暗黙の了解です」
「こわ……」
ドリーティアは眉を寄せバラティナはブルッと震えシアゼはゴクリとつばを呑みヨンバルディは目頭に指を当てテラゾンは自分をギュッと抱いた。
レライの指示でギイドが床に膝を付き四つん這いになる。レライは椅子に座ったままだ。
「このような状況でしたか?」
「はい」
バラティナが恐恐と頷いた。
「まあ! これは簡単ですわね。手元近くにスカートがあるということですから少し扇を動かせば可能です」
レライはギイドの足首からおしりの方に触れないくらいに扇を動かしてそれをひろげながら口元に運ぶ。口を隠そうとしたと言い逃れができるしお尻を突き出した形のスカートが簡単に捲れ上がることが想像できた。
「な、な、ならばパーティーの席ではどうするのですか?」
シアゼの質問にレライが立ち上がりギイドの後ろに立つ。
「まずスカートの裾を踏んで転んでいただきますがこれはお互いに立っていた方が簡単です。状況は同じになりますのでこのような立ち位置でございますね。
ここで足をお相手のスカートの下に潜り込ませて優雅にターンするのです」
レライはドレスの裾があるだろうところにつま先を滑らせ美しくターンしその際に足を後ろに蹴り上げた。
「こちらのスカートがベルラインなどの膨れたタイプでしたらこちらの足の動きは見えません。見えないのに責めることはできません。それにこちらのスカートのボリュームで簡単に捲れます」
「怖い怖い怖い!」
バラティナが横にプルプルと首を振る。他の者たちもそれぞれにビビっている




