46 淑女たちの思惑
ヨンバルディはドリーティアの手をとって自分の腕に乗せるとマルティには何も説明せずに教室を出ていきそれにバラティナと彼女をエスコートするテラゾンが続く。
バラティナの背中を寂しそうに見つめるマルティの始まりそうになった恋は一瞬で終了した。
『俺に靡かない貴重な人だったのになぁ。
それにしてもさすが殿下の側近だ。エスコートが様になっている。でも下位貴族のご令嬢にはそんなに堅苦しいエスコートじゃなくもう少し軽い方が喜ばれるんだよねぇ』
マルティは頭を切り替えると隣のクラスへナンパに向かった。
ヨンバルディとドリーティアは笑顔を貼り付けて小声で話をしながら特別室までの道を進む。
「今日は朝使った部屋にランチを用意した。あの部屋は僕がいなくとも使っていいからね」
ドリーティアはヨンバルディにバラティナが転んだ経緯を怒りの興奮を必死で抑えながら説明した。
「なるほど。ドリーに直接的ではない手できたか」
「どういうこと?」
「僕の寵愛姫と思われるドリーを直接攻撃すると僕の不評を買う。たからバラティナ嬢を攻撃してドリーに僕から手を引かせるつもりだろう」
「それはつまりこれからもバラティナが被害を受けるということなの?」
「その可能性は高いかな」
ドリーティアが後ろを振り向くとバラティナは小首を傾げた。ドリーティアは再び前を向く。
「荒事を受けるのは私だけだと思ってこのお話をお引き受けいたしましたのに……」
「バラティナにも意見を聞いてクラス替えも検討しよう」
「お願いね」
特別室にはすでにリアフィアとシアゼもいてテラゾンをを含めた六人でランチをしながら報告会となった。
「わたくしたちはまだターゲットと接触はできておりませんの」
「初日からは良くないと思う。ターゲットは警戒心が強いからね。害がないことをクラスにアピールしてくれれば充分だよ」
リアフィアの報告にヨンバルディは納得している。
ドリーティアは先程ヨンバルディに説明したバラティナが転ばされたことをもう一度話した。
「なんと! 女性でも相当に過激なのですね!」
シアゼは驚きを隠せない。
「あのような仕打ちをリアが受けたかもしれぬと思うと苛立たしいぞ」
ドリーティアはヨンバルディを睨みつけた。
「リアフィア嬢がお相手ならうちのクラスに入れて絶対に守っているから」
ヨンバルディは懇願するような困り笑顔を向ける。
「お言葉ではございますが」
レライがズイッと一歩前に出るとドリーティアが仰け反る。
「お相手がドリーティア様でない場合、リアフィア様にお被害がでることは決してございません」
「なぜそう言い切れるのだ」
「イードル殿下がこのお話をお引き受けしなかった場合はヨンバルディ殿下へのご協力をお断りしフェリア様に純粋な留学をしていただくことになっておりました」
『フェリアも断っていいのではと言っていたな』
協力要請された後にリアフィアと話した内容を思い出したドリーティアであったがレライの発言はそれを上回るものであった。
「そしてイードル殿下とサバラル様とゼッド様に即刻ご帰国していただくことになっておりました」
レライの言い方に背後にいる王妃陛下を感じるドリーティアはゴクリと息を呑みレライの言葉の次を待った。
「そしてご帰国後、フェリア様とのご婚約を解消となる予定でした」
「なにっ!!」
ドリーティアはスカートをつまみ上げ立ち上がって前のめりになる。
「ご自身の婚約者を安々と危険に晒すような判断をするようではご婚約続行はありえないとのご指示でございます」
「ウッ……」
『私は試されていたのだな……。及第点というところか。危ない』
『僕が女装することは本当に最初から決まっていたんだ……。つまり僕の母上もまだ僕を赦していなのだ』
ドリーティアはたじろぎバラティナは眼鏡がずり落ちたことにも気が付かずワナワナと震えていた。




