43 転入生への洗礼
項垂れるシアゼの様子を見たメイドはフッと小さく笑った後学園の現状の説明を続けた。
「『一度でもいいから』と思っている者が半数、自分でも婚約者になれると思っている者が半数といったところでしょうか。
誰もが婚約者と取って代わってやるつもりまたは第二妃なり寵妃なりになるつもりでいっぱいです」
話の流れでそれは予想していたがやはり驚きは隠せない。
そんな騒ぎの中でシアゼのエスコートでリアフィアとバラティナは馬車から降りて女子生徒たち様子を正面で見た。
「すご……」
女子生徒たちの背中の熱気を直接受ける。
「バラティナさん。お言葉が」
「申し訳ありませんわ。あまりの様子についつい」
そう言いながらも視線はヨンバルディとドリーティアから、否、騒ぎ泣き喚く女子生徒たちから外すことができなかった。
「皆様はこちらからそっとお入りいただけます」
リアフィアたちと同乗していたメイドがヨンバルディたちの入る玄関とは別の玄関へと誘いリアフィアたちは被害なく学園へ入ることができた。
ヨンバルディに用意されている特別室で落ち合った五人はすぐにそれぞれの教室へ向かうことになった。
そして朝礼の席にて挨拶をする。
ヨンバルディの所属するのは三年一組で、リアフィアとシアゼが留学生として紹介されたのは三年二組である。拍手がされ表情の読めぬ笑顔が咲き誇る。
『一組に入れなかったとはいえ高位貴族子女が集まるクラスだけはありますわね』
そして、ドリーティアとバラティナが挨拶をしたのは三年六組であった。ドリーティアに女子生徒たちの遠慮ない視線が注がれる。男子生徒たちからの好奇と何かを狙うような視線はドリーティアとバラティナが半分ずつだ。
『感情の籠もった視線を隠すこともできぬクラスか』
ドリーティアもバラティナも扇で隠した表情は気合の入ったものだった。
表情の作り方の違いにも出ているようにクラスはレベル別に八組まで別れている。バーリドア王国と違い男女共通教室である。午前中共通で午後は男女別だが朝礼はいつでもこのクラスである。
四人の名誉のために付け足しておくが、四人のレベルはもちろん一組になるべきものである。しかし、リアフィアたちはある目的のために、ドリーティアとバラティナはご落胤とその友人という設定であるためにレベル最高クラスになるわけにはいかなかった。
ドリーティアとバラティナの二人に用意されたのは中央の列中央あたりであった。席順は半分より前列が女子生徒で後ろ半分に男子生徒が座っていて女子の最後列である。
「先生。私たちのお席はあちらですの?」
「そうですよ。生徒たちがお二人が早く慣れるようにと用意してくれたのです」
先生は生徒を誇らしげにして退室していった。
『教師がこれを親切ととるとは。この者たちを侮ってはならないな』
二人は覚悟を決めて左右に別れ女子生徒たちの間の通路になっているところを進んだ。
『ズッテン!』
『カシャン』
五歩ほど歩いたところでバラティナが前のめりに転んで膝を打ち付け眼鏡を落とした。
『イタタ』
さすがに顔は顰めるも声はグッと我慢して眼鏡を拾いかけ直す。
「大丈夫かぁぁぁい!」
後ろの方の席から飛んできた男子生徒の声にバラティナは顔を上げるとさらに眉間にシワを寄せたが急いで扇を上げ辛うじて隠す。
やってきたのはどう見ても軟派な優男でバラティナとその緋色の目が合うと『キラン』と音を出ているのではないかと思うほど斜め上に顎をあげて濃いグレーの髪を耳にかけ直す。
『オエッ……』
バラティナはゴクリと飲み込んで吐き気を耐えた。それを極上の男を見て喉を動かしたと見た男子生徒は嫌らしくニヤけた。
『本当に気持ち悪い』
「バラティナ……」
声のする方に顔を向ければドリーティアが心配そうにバラティナを見ながらこちらの列へ回ってこようとしている。
「ドリー様。大丈夫ですわ」
バラティナに制されたドリーティアが歩みを止めたのと男子生徒がバラティナのところへ到着したのはほぼ同時だった。




