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35 捕物劇

「ティルキィ嬢。これは夜襲と理解してよろしいな?」


 燭台を持ったギイドがベッドへ近づくより早くヨンバルディはさっさとソファへ向かっていた。その後ろ姿はきっちりと寝間着を身に着けガウンを翻して歩いていく。先程の紐はガウンの紐でありヨンバルディは裸体は晒していない。


「そのようなものを殿下に晒すなど」


 ギイドが汚物を見るように頬を引きつらせて目を細める。メイドが走るように来てティルキィの胸元にバスタオルをかけた。ティルキィの顔色はすでに蒼白である。


 ベッドへ縛られているティルキィから見えるだけでメイドが五人と騎士が六人ほどいた。


「罠………………?」


「罠を仕掛けたのは伯爵家の方であるのでは? 我々は殿下の護衛をしていたにすぎないですよ。

護衛にも関わらず殿下のお休みになる寝具への侵入を許した者たちには後程処罰を与えねばならないですけどね」


「「覚悟はできております」」


 扉の前の二人がわざとらしく頭を下げる。ソファでお茶をするヨンバルディは目の端にそれを捉えてしまったが笑うのを必死でこらえた。


「わ、わたくし、寝所を間違えたようですわっ!」


「どちらへご用向だったのですか?」


「シアゼ様に一目惚れいたしましたの。手前のお部屋ですからシアゼ様がお使いになっていると思いましたの」


「それは矛盾しておりますね。ティルキィ嬢はベッドの中で数度殿下の御名を口にしております。殿下の背なに向かい御名をお呼びになっておりました」


「なっ!! 見ていたの?!」


「殿下の部屋への侵入者に気が付き入室したのです。殿下は私の入室に気が付かれましたが私にその場で待機の命令を手合図でされました」


「うそ……。そんなこと気が付かなかったわ」


 そこへバタバタと足音がして扉が大きく開かれると肩で息をした伯爵夫妻であった。二人の後ろには呼びに行ったメイドが息を荒くすることもなく平然と立っている。


「これはこれは伯爵。ご夫婦お揃いで。

お二人とも夜更けとは思えぬようなお姿ですな? 伯爵家では正装でおやすみになられるのですか? シワになってしまい大変でございましょうなぁ」


 伯爵夫妻はここに乗り込むつもりだったようで晩餐の服のままである。


「ん? お嬢さんは婚約者もおられぬ婚姻前の女性が着るとは思えぬ夜着を身に着けほぼほぼ裸体を晒していらっしゃいましが?

親子でもお好みは違えるのですかね?」


 顔を赤やら白やらまた赤やらに変化させている伯爵がワナワナと震えて自分の娘ティルキィを指差した。


「む! 娘になんということをっ! 女性になさることではありますまいっ!」


「現在ティルキィ伯爵令嬢は女性であるより野盗または刺客であることに重きを置いております」


「何を言っているのだっ!」


「計画的な犯行と見受けられ刺客と仲間である可能性が高い。伯爵夫妻を拘束し三人が口裏を合わせられぬよう口を塞げ」


 ギイドの指示でメイドと騎士が素早く動き三人は猿轡までされ伯爵夫妻はベッドの左右に分かれて腕をベッドの足に腕を縛り付けられ両足が縛られた。


「計画の証拠があるかもしれないのでこれより本館の家宅捜索に入る。

ヨンバルディ殿下には別室へご移動いただきお休みになってもらうように」


「「はっ」」

「「はい」」


 颯爽と本館へ向かうギイドが扉を抜けるとギイドの後ろには十人以上の文官服を着た者たちが続いて行った。その後ろ姿に目を見開く伯爵。


 ヨンバルディはメイドに誘導されて部屋を後にしようと立ち上がる。


「うーうーうー!!」


 最後の足掻きとばかりに伯爵がバタバタと暴れた。その音で立ち止まったヨンバルディは一瞥もしない。


「ここで何を言われても僕の知るところではない。僕は非常に不愉快な思いをさせられたということだけだ。僕の友人を傷つけたことは絶対に赦さないよ」


 口調は丁寧であるがヨンバルディの体躯から発せられる低い声音に伯爵は少しだけ漏らしたが誰も世話はしてくれない。

 ヨンバルディはそんなことに構うことなく部屋を出ていった。


 三人が暴れて火事になっては困るのでメイドたちはその部屋の火をすべて消して扉を開け放ったまま次の仕事へ向かった。扉の前には騎士が二人残っているだけで伯爵夫人が何やら喚こうとしていたが見向きもされることはない。


 そのうち全てを諦めた三人は月明かりの中拘束された姿で佇む他にできることはなかった。

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