32 情事の趣向
約束の時間通りに五人で本館へ向かう。別館と本館は歩いて一分というところだ。
伯爵家の面々はどんな悪巧み相談を終えたのかはわからないが先程までの態度と打って変わってにこやかに五人を迎え入れた。無礼なほどの饒舌は変化がなかったが。
出された晩餐は大変に豪華なものだったが贅を尽くしているだけで晩餐としてのバランスは悪くリアフィアは沢山残してしまったしドレスにコルセットをしているドリーティアとバラティナも半分ほどしか食べられないしヨンバルディでさえ多少残してしまった。騎士団たちとの食事で胃袋までも鍛えられているシアゼだけは完食していた。
そのような晩餐を出した伯爵家一家もほとんど残していたのだから呆れたものである。
高位貴族として、おもてなしをするなら相手に合わせたものを提供しもてなされる方も感謝の意を込めてできるだけ残さず食すと学んできた五人は残量に呆れていたが伯爵の発言で更に呆れることになった。
「みぃなさんの好みを知らなかったのでねぇ。いろいろと出してみぃましたぁ。お好きなもぉのはありましたかなぁ。はっはっは!」
どうしても食せない物や好みの物は専属メイドがしっかりと把握しているので普通なら事前にメイドへ確認が入るはずなのだ。それもせずに自分の裕福さを見せつけるがごとく並べられた皿にうんざりし、本当はもてなしについて講義したくなったリアフィアであったが胃の腑の様子がおかしいしヨンバルディの計画の邪魔をするわけにもいかないので曖昧に微笑んでおいた。
食後に出されたお茶は苦味がキツくかといってケーキなどを口に運ぶ余裕もなく心の中で眉をしかめながらもお茶だけは飲みきった。
「ではそろそろ我々は。
馳走になったな」
ヨンバルディの合図で解散となった。
ヨンバルディがドリーティアをエスコートしドリーティアの後ろをバラティナとエスコートの側近ギイド、その後ろにレライが歩く。そのさらに後ろにシアゼとシアゼにエスコートされているリアフィア、リアフィアの専属メイドスージーが続く。バラティナとシアゼの専属メイドとリアフィアのメイドエイミは部屋に残っている。
そして夜になりそれぞれの部屋で就寝しているとヨンバルディの部屋の扉が静かに開いた。部屋はベッドサイドの小さな燭台だけに火が灯っており薄暗い。
『はらり……』
部屋の扉を閉めると着ていたガウンをその場に落とす。
履物を履いていないのか足音をさせずにベッドへと近寄り掛け布団を少しだけめくる
『ギシ……』
ベッドを僅かに軋ませて中へ忍び込んだ。ベッドの中央にある大きな体は背中を向けていたのでその背中にピタリと寄り添う。
「ヨンバルディ殿下。わたくしをお好きなようになさってくださいませ」
「わかった。是非そうさせてもらおう」
笑みを湛えて振り向くヨンバルディは自分のガウンの腰紐をスルリと抜いた。忍び込んだ女は期待に頬を紅潮させて口端を緩ませる。
ヨンバルディは女の両手首を頭の上に持ち上げてその腰紐で縛った。着ている方がエロティックなのではないかと思われるほど薄い夜着の女の胸は頂きまで晒している。下半身はかろうじて掛け布団がかかっていた。
「ああ。ヨンバルディ殿下にこのようなご趣味がおありだとは。ですが大丈夫ですわ。わたくし全てを受け入れますわ」
「ではこのままで」
女の手首を巻いた腰紐の端を細かな彫刻がされているベッドボードの柵の一本へ括る。
「ふわぁ。ヨンバルディ殿下に縛られるなんて興奮してしまいますわぁ」
「この状況に興奮できる女性だとは。いささか変わっているね。経験がなくして興奮に繋がるありさまではないと思うんだけどね」
「え? ヨンバルディ殿下もこれがお好きだからでございましょう?」
「僕には女性とそのような趣向の情事をする趣味はないよ。君と違ってあれこれと経験しているわけではないけれど、ね。
おいっ!」
ヨンバルディが暗闇に向かって声をかけると暖炉にある燭台に火が灯されそれを持った男が近寄ってくる。その間にもメイドによって次々と火が灯され部屋の中はかなり明るくなった。
「きゃあ!! 誰ですの?」
女は顕になっている胸を隠そうともがいたがヨンバルディによって拘束された腕が外れるわけがない。




