33 安全性
「ありがとう」
ドリーティアが僅かに首を傾げて微笑すると白銀の髪がサラリと流れる。
「君をエスコートできることは至福の喜びだよ」
ヨンバルディはドリーティアと甘い言葉を交わしながら戻ってきた。
どう見ても伯爵家一家が知っている婚約者でないことに唖然とする。
「連絡が行っていると思うが今日は五人で世話になる。僕たちが使える別館とはどちらかな?」
「メイドに案内をさせますです」
有無を言わせぬヨンバルディの畳み掛けに伯爵は慌ててメイドに指示を出した。
五人はそれぞれの客室を確認すると何となく応接室に集まった。
伯爵が用意したメイドには下がってもらう。
「先程メイドから説明を受けましたが何かあるのかしら?」
ドリーティアが遠慮ないジト目をヨンバルディに向けるとヨンバルディは苦笑いをした。
「何があるのかはまだわかりませんし何も無いことを期待しています」
「お立場としてそのような期待は大方裏切られるのだということはよぉくご存知なのではなくて?」
「残念ながらそうですね」
王家の者であることを堂々と晒しておきながら容易く誰かを陥れるようなまねはしない。裏付けがしっかりとしている、つまりは彼らは何かしらやらかすことがほぼほぼ決定しているようなものだ。
薄ら笑いのヨンバルディに頬を引きつらせるドリーティアは男言葉になった。
「リアフィアの警備は万全でなくてはここにはいられない。先刻に立ち寄ったボロ宿の方が安全なように感じるのは気の所為ではないだろう」
「当然リアフィア嬢の安全は最優先にしますよ。リアフィア嬢は僕の親戚筋で婚約者有りと強調しておきましたから狙われることはないと思います」
「シアゼに秋波を送っていたように見えましたわよ。ね、リアフィア様」
バラティナはシアゼが先に降り立った時にリアフィアとその話を確認済みである。
「ええ。ご夫人とご令嬢はシアゼ様にご好意を持たれたように見えましたわ。まずはバラティナ様をお睨みになりシアゼ様がバラティナ様から手を外せばお喜びになり、シアゼ様がわたくしの手を腕に置かれました時のお顔は淑女とは言い難いものでした」
「ええ。僕も見ておりました。凄まじい形相でしたね。嗜みも節操も持ち合わせていないようだ。ですが、おそらくドリーティア嬢の登場で予定を戻したと思います」
「どういうことだ?」
リアフィアの安全がかかっているのでドリーティアの口調は荒々しい。
「僕に愛人なり側妃なりを持つという意思があるのだと思ったようです」
「はい。シアゼ様には目もくれずヨンバルディ殿下のお背中に伯爵夫妻はニヤケておりご令嬢はドリーティア様とヨンバルディ殿下のご関係を推し量るように凝視しておりました」
後方にいたヨンバルディの側近ギイドが答えた。
「念のため、リアフィア嬢とバラティナ嬢の部屋を交換しておこう。この中で無害と思われているのはバラティナ嬢だけだろうからね。
ご令嬢たちの部屋の前には護衛を置いてカモフラージュもするよ」
ヨンバルディの目配せで即座にメイドたちは行動する。
「更には部屋の配置も異常でありますので狙われるのはヨンバルディ殿下だと思われますからリアフィア様に関しましてはご心配には及ばぬかと」
側近ギイドが説明を付け足す。
確かに伯爵家へ提供している情報としては王族はヨンバルディだけであるので本来ヨンバルディは最奥の部屋が充てがわれるべきである。にも関わらずヨンバルディの部屋は最手前の部屋であった。一応『一番広い部屋なので』と説明をされたが外泊の場合広さより安全が大事である。
「杜撰な計画を企てているということか」
シアゼは怒りを顕にする。
そこへノックの音がして皆顔を作る。王子宮メイドが扉を開くと伯爵家メイドがいた。
「主人よりお夕食を本館にてご一緒にさせて頂きたいと願いがございましてお伺いに参りました」
「わかった。何時だい?」
あっさりと了承されたことにメイドは驚いていた。戸惑いを隠せないまま時間の約束をし恭しく頭を下げて下がっていった。
「さて。どちらに転ぶかな」
ヨンバルディが緩めた口元は意地悪そうに見えた。




