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31 オミナード国語

 到着したのは伯爵邸にしては大変に豪華なお邸であった。


 ヨンバルディが降り立つとわざとらしいくらいニコニコとした夫婦と思われる壮年の男女が近寄ってきた。男の方は自分の両手をスリスリとして胡麻をするつもり満々であると見え見えである。


「いやあ。伯爵。今日は世話になるね」


「ヨンバルディ第二王子殿下。とぉんでもないことでごぉざいまぁす。我が家のようなこぉんなにちぃさぁな邸宅にお寄りいぃただきぃ感謝の念で一杯でごぉざいまぁすでごぉざいまぁす」


「バラティナ。よかったな。バラティナよりオミナード国語が下手なオミナード王国人がいるようだぞ」


 二台縦並びで止まっている馬車内にまで聞こえてきた胡麻すり会話を後ろの馬車に乗るシアゼが小さな声で揶揄する。バラティナは眉を寄せたがリアフィアは口元を緩めた。


「さらにあの者は物の大きさをまともに判断できぬらしい。それともこの国はそれほどまでに裕福な家ばかりなのか?」


「いえ。こちらの伯爵家はかなり裕福な家門です」


 同乗しているオミナード王国のメイドが答える。


「あのような自慢をすることは王族への不敬だとは考えないのかしら?」


「バラティナ様。建前ではありますがあちらが立場は上ですので『お考えにおなりになりませんのかしら?』が正しいお言葉ですわ」


「リアフィア様。ご指導ありがとうございます。女性の丁寧語は難しいですね」


「ここ数日でとてもお上手になっておりますわ。あちらの伯爵様よりも」


「ブッ!!」


 シアゼが体を曲げて口を押えて笑い声を外に漏らさないように頑張っていた。


 外ではヨンバルディが伯爵の無意識な失礼発言に貼り付けた笑顔を崩すことなく対応している。


「殿下がいらっしゃるということでぇ美しい我が娘も学園より駆けつけたぁのでございまぁす。是非会ってやってくぅださぁい」


 王子から聞かれたわけでもないのに会えなどと宣うこともまたもの凄い不敬だがそんなことは意にも介さずこれまた不敬にも了承を得ぬまま腰をクネクネとさせた少女とも言えない女性が近寄ってきた。


「うわっ! あざとすぎて気持ち悪いっ! ですわっ!」


 馬車の窓のカーテンをできるかぎり細く開けたその隙間から三人は外の様子を伺っている。バラティナは身を屈めて下の方からその上にはシアゼの顔がある。反対側の椅子からはリアフィアが見ていた。


「本当にそうですわね。ドリーティア様とバラティナ様の方が何倍も優雅で気品があり自然ですわ。

伯爵家といえば高位貴族ですわよね? どのようになさったらあのようなご教育ができるのかしら?」


「実はこちらの伯爵家は去年までは子爵家でした。それまで高位貴族との接点もなく王家主催のパーティーなどでも末席ですので陛下や殿下との接点もなかったのです」


「我が国でも王族の方々にご挨拶させていただけるのは候爵家公爵家だけですわね」


 そう言うバラティナは公爵家なのでもちろん国王陛下の御前へ行っている。挨拶の言葉を言えるのは父親である公爵家当主だけだが。


「それにしても陞爵とはそれほどまでに素晴らしい功績をあげたのか?」


 隣国との戦が少なくなった昨今なかなか陞爵の機会が少なくなっているだろうことは騎士団長家の長男であるシアゼにとって気になるところである。知らぬところで争いがあるならば情報収集せねばならない。


「功績ではなく領地拡大のためです。隣接する子爵家が没落しましてその際多額の金銭を貸していたそうでその領地を手に入れたのです。領地の広さから伯爵家となりました」


「それは随分と胡散臭い話だな」


「ええ。怪しいとは言われておりますがご本人様方が行方知れずで借用証書と土地の売買証明書だけがあったそうです」


「本人たちとは没落子爵家の者たちか?」


「はい」


「そのようなお話を私達にするのはよくないですわ」


 バラティナは僅かに首を向けて諭す。確かにどう考えても国内貴族の揉め事であり他国に知られてよいわけがない。

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