30 イードルの感嘆
降り立ったリアフィアはドリーティアと向き合って上目で見つめる。
「あぁ。私の光の女神がお隠れになったと思ったら花の妖精に変容なさっておいでだったのか。皆を照らす光の女神様も時には遊びたいのかな? 是非私めがその遊び相手となろう」
ドリーティアのあまりの饒舌にリアフィアは頬を染めて目線を下げた。
「もう。ドリー様はいつから詩人になられましたの? そんなに見つめられると恥ずかしいですわ。このように華やかな髪は初めてなのですもの」
イエローゴールドのストレートを腰まで伸ばしているリアフィアはピンクのかつらを付けていた。肩甲骨辺りまでの長さで緩いウェーブでエアリー感が愛らしい。
「あはは。とても可愛らしいよ。普段は美しいリアだけど髪が変わるだけで雰囲気も変わるのだな。
この姿ならきっと国でも市民はリアだとは気がつくまい。貴族のデートとやらができそうだな。
いや、待てよ。こんなにも可愛らしいリアを王都に出してよいのだろうか?
かといって、美しいリアも外に出しては危ないし。
よし! 私と部屋でゆっくりと本を読もう!」
確認しておくがドリーティアはロングストレートのかつらにドレスを着てハイヒールを履いている。知らぬ者が見たらゆりである。
「ドリー様はわたくしに似たストレートヘアなのですね」
「え!! そ、そうか。私の髪はリアに似ているか?」
「ええ。色こそ違いますが髪型は普段のわたくしにそっくりですわ」
少しばかりバラティナとシアゼを羨ましく思っていたドリーティアは喜びまくってニヤニヤして自分の髪の毛先を見て指にくるくると巻き付けてはくふふうふふと笑っている。その様子を見ているリアフィアも幸せそうな笑顔を見せる。
「コッホン! 全く、レライはリアフィア様だと止めないのですね」
バラティナがレライを睨む。
「未来の主でございますので」
「まあ! お時間をいただいて申し訳ございませんわ。そろそろ出立いたしましょう」
ドリーティアはリアフィアの手を離すつもりがなく外までエスコートする。ドレスだが。
玄関前に出るとドリーティアの幸せは霧散した。ヨンバルディとドリーティアとレライが同乗でバラティナとシアゼとリアフィアが同乗することになっていたからだ。シアゼがレライの指示でドリーティアからリアフィアの手を受け取り馬車へとエスコートする。
「い、や、だっ! 私とリアフィアでいいではないかっ! 女同士なのだから問題無いだろう!」
「ドリーティア様。この国でのお立場をわかっていて言ってらっしゃいますよね?
貴女様はヨンバルディ殿下の恋仲の女性なのです。
リアフィア様とのお約束をお忘れですか?」
レライはいくらか顎を上げて低身長ながら睨むようにドリーティアを見る。
「うぐぐぐぐ」
「リアフィア様を王太子妃ひいては王妃になさることを諦めますか?」
「そんなことっ! ありえないっ!
ぐぬぬぬ、わかった。
シアゼ! バラティナ! もしリアフィアにエスコート以外で手を触れてみろっ! 王子の権限で極刑に処すからなっ!」
「そのような権限は王子殿下にはございません。世迷い言を吐く前にお乗りくださいませ」
レライに背中を押されてヨンバルディの手をとり渋々と馬車に乗り込むドリーティアは最後までリアフィアたちの方をうらめしげに見ていた。
ヨンバルディが三人を安心させるように手を翳してから馬車内へと消える。
「私にはバーバラしか女性に見えませんよ」
「俺もルルーシアがいい」
ドリーティアの馬鹿馬鹿しい嫉妬にバラティナとシアゼは大きく溜息を吐きリアフィアは苦笑いして馬車へ乗り込んだ。




